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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第二章 新大陸編
59/101

59:ご褒美は子猫

 荘厳な元宮殿の奥には美女ならぬゴツいオネェがいた……洒落にもならん。

 そのオネェはやや首を傾げつつ私達を見て言う。

「そうねぇ、まずは可愛いアタシのお人形さん達におイタしてきた不躾な侵入者さん達は名前を名乗るべきじゃないかしらぁ? アタシも自己紹介したわけだし」

 ううっ。なるほど最後に近くで見張りをしてたのがイケメン揃いだったワケがわかった気がする。コイツのお人形か。なんか考えたくもないけどな。

 それは置いておいても、確かにコイツの言う通り、こちらも名乗らねば失礼だ。

「私は東雲麻友花。なんか知らんが、デザール王国の残念な王様に勝手に異世界より呼ばれ、伝説の戦士とやらと呼ばれている」

 うん、これでバッチリ正確な説明だろう。

「ま、マユカ、もう少しいい言い方は無いだろうか?」

 ルピアがこっそり言ったが間違いは言っていない。正直に言わないとな。

「ふふぅん。あんたが伝説の戦士さんとやら? 何だかエロい格好ねぇ」

「……気にしているのだ。言わないで欲しい」

 確かにこの戦士の鎧は製作者の意図を問いたいものではある。しかし全身からショッキングピンクのオーラを出しているヘソ出しオネェに、エロいとか言われたくない。何だかもう、戦おうという気力さえ削がれるような。

 だが見た目に惑わされてはいけない。コイツの中身はヴァファムの中でも最高位の幹部。ほとんど手下も持たず、たった一人でこの進んだ国を支配下に置いているのだ。只者では無い。

「でぇ? その女戦士さんが何しに来たの?」

「何って……貴様をその体から引きずり出し、この国をヴァファムから解放するために決まってるだろう」

 なんだかもう説明も面倒なのだが。ルピアはスリングの中で真ん丸になってるし、後のメンバーはじりじり後ずさっている始末。そんなわけでそう言った途端。

「ハッ!」

 いきなりマキアが動いた。といっても顎を上げただけだ。ううっ、きらーんと唇が光ったっ。

「バッカじゃないのぉアンタ? アタシに勝つ気でいるの? 真顔で冗談なんて、ちゃんちゃら可笑しいわ」

 オネェに鼻で笑われてしまった。ちゃんちゃらって。うわぁムカつく!

「冗談では無い。戦え、私と」

 私は構えたが、マキアのリアクションは薄い。

「アンタさぁ、寝言は寝てから言うもんだわよぉ?」

「寝言ではない。私達はそのために来たのだ。既に向こうの大陸の役付きは小女王も含め全て制した。ケイ様の武器工場も制圧したのでこれ以上の武器の流入も無いぞ」

「……あら」

 やっとすこし真顔になったマキアの細い眉がぴくんと動いた。

「でも面倒だわねぇ」

「面倒……」

 どこまで人を小馬鹿にするのだ、コイツ。そこまで自信があるという事か?

 言葉通りいかにも面倒という体で、マキアは提案を出してきた。

「まあ、万に一つもないでしょうけどぉ、アンタがもしアタシに勝ったらこの国の下っ端全員に命じて投降するように呼びかけてやりましょうよ。それがアタシからのご褒美。でもぉ、やっぱりアタシが勝ったらアンタは何をくれるの?」

 万に一つも……か。恐ろしいことを言ってくれる。

「何が欲しい? 命でも欲しいか?」

「女の命なんかいらないわよぉ。大女王様から、たとえゴミ屑みたいな人間でも殺すなってご命令だから殺しはしない。勢い余って死んじゃったら事故だけどねぇ。恨んじゃイヤよぉ?」

「……」

 ぞくりとまた背中を冷たい物が走った。これは最初の嫌悪感では無い。命の危険を感じた警戒。ふざけた格好に口調だが、その目は本気でると物語っている。

 こんなのは久しぶりだ。拳銃を持って立て篭った犯人のいる建物に潜入した時以来の死の覚悟。

 しばらく考え込むように割れた顎に手をやったマキアは、交渉の報酬を思いついたようだ。だがそれはとんでもないものだった。

「そうねぇ。じゃあその子猫ちゃんをちょうだいよ。アタシが可愛がってあげるから」

 なんだと? ルピアを欲しいと言うのか? いや、でもそれは……

「これはこんなナリだが、この猫は一応大国デザールの王様なのだが」

「そうなのぉ? や~ん、ますますほしい~!」

 うううう。くねってするな。ルピア、ビビッて爪を立てるなっ。

「ま、まずは私を倒してからにしてもらおうか」

「いいわよぉ。ちょっとだけやる気になってきたわ」

 それは良かったのか悪かったのか。

 とにかく交渉は成立したようだ。

 ここの部屋も充分広いと思うのだが、急にマキアは表に出ようと言い出した。あの城前の広場でお相手してくれるらしい。

「先に行って待ってるわぁ。そうねぇ、最後のお別れでもしながらゆっくり来なさい。お邪魔はしないからっ」

 マキアは投げキッスを残し、スキップして行きやがった……。

 ものすごくバツの悪い空気が流れる中、私達もマキアの後を追う。各種族の戦士五人は何も言わない。それでも場慣れしている彼等には、奴の見た目で計り知れない実力を何となく感じているらしい。それぞれ最近使い慣れてきた武器を調整しながら歩いている。ミーアは鞭、リシュルは三節昆、グイルは刺叉。ゾンゲはマナのモーニングスター。イーアはリールにもらった流星錘を船で一生懸命練習していた。離れたところからでも電撃を使えるので効果的だ。

 最後の別れの挨拶か。

 しれっとものすごい事を言い残しやがったな、考えてみれば。

 ルピアはまだスリングの中で小さくなったままだ。人に戻る気配も無い。軽い小さな温かい塊。布越しに撫でるとやっと震えが止まったらしい。

「心配するな。絶対にお前をあんなゴツいオネェになど渡さん。それより一つ訊き忘れていたことがあるのだが」

「なに?」

 ――――聞いておかないといけない大切な事。

「私と離れるだけで魔力が無くなって、命すら危ないのはよくわかってる。だが、もし私が死んだらお前はどうなる?」

 ぴょこんと慌てたようにスリングから顔を出した子猫。そんなにまん丸に目を見開いて、驚かなくても。

「何……言ってるんだ? マユカ」

「聞いての通りだが? 正直に答えろ」

 ルピアは自分でスリングから飛び降りて人型に戻った。その綺麗な顔は怒っている様にも、悲しんでいる様にも見える。

「契約の強制終了だ。たぶん、マユカの体に残ってる僕の魔力は元に戻る。マユカの体は元の世界に戻るだろう。死んだまま……」

「私の事はいい。私が聞きたいのはお前の事だ、ルピア。お前は死んだりしないな?」

 ルピアが金の髪を振り乱して、何度も首を横に降る。

「確かに僕は死なない。でも、でも!」

「それを聞いて安心した」

 それが気掛かりだったのだ。なんだろうな、自分が死ぬのはあまり怖くない。だが、もしそのせいでルピアまで死ぬのだったらそれは嫌だと思ったのだ。その憂いが消えたのは大きい。

「でも……僕はそんな事があったら後を追う」

「馬鹿な事を言うな」

「本気だからね! だからっ……」

 ルピアに最後までは言わせてやらなかった。思いきり口を塞いでやったから。私の唇で。

「マユカ……」

「魔力補給だ。また守ってもらわないといけないかもしれないから」

 さっさとルピアを離して前を向いて歩く。

 咄嗟にやっといてなんだが、後で少し恥ずかしかった。柔らかい唇の感触がまだ残っている。

 珍しく誰もふざけて囃し立てたりはしなかった。それが救いだった。


 がらーんと広い城前の石畳の空間。

 端の方で下っ端達が綺麗に整列してこちらを見るでも無く槍を持って直立している。結構人数いたんだな。軽く三十人はいる。また、昔見た香港映画が頭に浮かんだ。沢山の僧兵が囲む中で繰り広げられる技を尽くした死闘。あれは宮殿前でなく寺院前だったな。まあわりと似た様な感じだ。スクリーンで見ている分にはカッコよかったけど、自分が同じような場に立つとは思ってもみなかった。どうでもいいが。

 それに、映画は師匠か親の仇討ちだったのに、今私達が背負っているのは、大勢の自由と一匹の子猫……いや、一人の男。

「待ってたわよぉ。ご挨拶は済んだかしら?」

「ああ」

 そして映画と違うのは、立っているのが中国服を着た男でなく、ピンク色のオーラを放つムキムキオネェと、この場に全くそぐわないアマゾネスの格好の女で手には突っ張り棒。そんなのが対峙しているのだ。傍から見たらとんでもない眺めだなこれは。

「フフフぅ、じゃあ始めましょうか」

 マキアが緊張感のない声で言って、ピンヒールのミュールを脱いだ。流石に石畳の上でピンヒールは動き難いか。

「いいわよぉ、全員で一斉にかかってらっしゃ~い」

 マキアイアは現在素手。こちらはそれぞれ武器を持っている。だが卑怯だとは思わない。正体のわからぬ恐怖が、このオネ……男から漂ってくる。

「マユカ、死なないで!」

 ああ、ルピア。わかっている。絶対に死ぬものか。

 如意棒ツッパリぼうの長さを短めに調節し、一歩踏み出した。

 第一階級の実力、見せてもらおう。


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