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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第二章 新大陸編
57/101

57:突っ張り棒術


 四面楚歌。

 なんだかそんな言葉が浮かぶ。

 ニュアンスは微妙に違う気もするが、船から降りて十分足らずで全員が船に逆戻りし、閉じ込められて早半日。船着き場の周囲はぐるりとヴァファムに寄生された人々に囲まれ、ほとんど篭城状態。

 よってただ今緊急対策会議中である。

 現在私達がいるここは、魚族の国ディラの首都イラ。デザールのあった大陸から船で入るにはこの港町が玄関となる……はず。

 大陸間を超えて来た船から降りて私達が目撃したのは、額に印があって目が虚ろな人々だけだった。イーアの故郷であるこの国はすでに完全にヴァファムの手に落ちている。

 結構な人数で来た私達は、この大陸で宿や食糧の調達はちょっとやそっとでは望めない事は覚悟していた。しかしここまでとは……大陸の中心にあるセープ王国に辿り着くまで、確実に一つづつの町を開放していかねば、進路すら開けないだろう。

「うー、道案内は出来るんだけど、これじゃあ……」

 イーアも困り顔だ。出てきたときは港はまだもう少しマシだったという。

「まずこの港町だけでも開放しないと。しかしこの町はかなりの人口のようだ。一部寄生から逃れた人や、隔離されている女子供などもいるだろうが、町全体が相手では厳しいぞ」

 まず軍人らしく口を開いたのはグイルだった。

 だが四面楚歌の逸話のように、このまま敵に囲まれて絶望するまで篭っているわけにもいかん。こちらから打っては出ないといけない。まあ周りが全て敵であっても、絶望するような繊細な神経の持ち主はここにはいないだろうがな。

「……いっそ役付きが一人でもいてくれると有難いな。大きな町でも、いつもの様に役付きだけを仕留めて命令させれば向こうから投降してくれるだろうし……うう」

 結局最後まで船酔いしっぱなしだったルピアは、青い顔でへたり込んでいる。窶れきっているな。まあ、猫ちゃんになれば運んでやれるから問題は無いだろう。そしてマトモな事は言えるようだ。

「それはいい考えだ。国の首都だし、貿易や交通の要所。見たところ結構な都市だ。上位の役付きの一人や二人いるんじゃないだろうか。玄関口だし」

 知将リシュルも頷いているな。

 そういうわけで、またも偉そうだが私が仕切らせてもらう事にする。

「よし。ではまず私達だけで降りて役付きの情報を得てみよう。耳かき部隊、残りの者は呼ぶまで船で待機」

 一週間にもわたる長い船旅で、皆体が鈍らないようにこつこつ基礎運動はしていたものの、運動不足で動きたくて五戦士達はウズウズしている。

 すっかり傷も癒えたゾンゲもグイルもやる気満々。ミーアもイーアも元気いっぱいだ。

 情報収集がてら、まずは船の周りにいる下っ端達を何とかし、この港部分だけでも解放したい。何より地面に足を下ろさないと本気でルピアが船酔いで寝込みそうだ。

 突っ張り棒の実戦での使い勝手も見てみたいしな。

 スリングで子猫モードのルピアを抱えた私、五種族の戦士のみで船を降りる。足場板を降ろすと、遠巻きに船を囲んでいた下っ端がわらわらと寄って来た。

 どの手にも木の棒や小ぶりの剣、漁に使う銛などを持って武装している。中には舟の櫂を持っている者もいる。宿主は漁師や港湾関係者のようだ。

 響くのは不快なあの電子音のような音。更に仲間を呼び寄せているのだろう。

「オマエタチ、町ニ入レナイ」

 少し額の印の濃い、漁師らしき大柄の男が一歩前に出て来た。見張りクラスだろう。

「では大怪我をさせない程度に暴れるか」

「おう」

「そうこなくっちゃ!」

 展開!


 広さも充分ある整備された港の石畳の上に立つと、しばらくずっと揺れを感じていた足元に安定感のある地面が心地良かった。

 ルピアを置いてきたほうが動きやすかったかもしれないが、ただでさえ船酔いで弱ってる。離れて死なれては困るので、子猫姿でスリングに入れてぶら下げたまま。

「これをこう回してだな」

 きゅきゅきゅ。突っ張り棒をそこそこの長さまで伸ばす。元々は一メートル半ほどだが、貼ってあるステッカーの説明には最大二メートル十五センチになると書いてある。今は百八十センチくらいだろうか。棒術で使う六尺と大体同じだから扱いもいいし、強度を考えるとこのくらいがベストだろう。

「わあ、伸びたー! おもしろーい!」

 ルピアにゃんこが顔を出して目をキラキラさせて見ている。玩具じゃないからな、触らせてはやらんぞ。人に戻れば無駄に綺麗な男でも、中身は子供みたいなもんだ。きっとバネやネジが壊れるまで遊ぶに違いない。

「顔を引っ込めてろ、ルピア。攻撃は受けんようにするから大人しくしてろよ」

「うん」

 既にここの所不完全燃焼が続いていたゾンゲは張り切ってもう何人か伸してる。グイルもリシュルもきびきび動いてるし、ミーアも何人も蹴り飛ばしながら飛ぶように駆け回っている。イーアは集めておいて一気に行く作戦のようだ。

 よし、私も負けてはいられないな。

「我が棒術、とくと味わうがいい」

 まずは薙刀と同じように上段に構える。

 日本武術における棒術の型は流派によって違う。しかし、その多くは戦場において刃先を失った薙刀で戦ったのが始まりとされている。だから共通点は多い。刃が無い分、思い切って振り回す事も突く事も出来る。

 くるりと棒を回すと、私の周りを囲んでいた数十人は一斉にかかってきた。

 旋回、打ち下ろし、突き。急所は避け、腹に武器を近づけさせないように体は反らさず、かといって前屈みになる事無く。足は摺り足、流れるように、舞うように。

 面白いほど周りで人が倒れ、飛ぶ。

 足を払う、突く。振り掛かってきた剣を絡め取るように回す。

 うむ、使えるぞ、これは。軽スチール製の突っ張り棒、行ける。警察で警棒術もやってたことだし、短くしても使えるかも。

「すごいな……」

 ゾンゲの声で気がつくと、私の周囲にいたほとんどの者が地に臥せっていた。

「武器を使うのは本意では無いが、大人数や殺傷能力のある武器相手に、これはかなり使えるな」

「……いや、たぶんマユカにしか、それはそのようには扱えんだろう」

 さて、他の皆も張り切って何十人沈めたみたいだから、ここらで情報の聞き込みといきますか。

 足元に倒れている見張りクラスらしき一人を起し、活をいれて目を覚まさせる。

「この町に役付きはいるか?」

「答エナイ」

 可愛くないお返事だな。しかし、あまり手荒な事はしたくないから、私は微笑んで……毎度の如くそのつもり……おく。悔しいことにスラスラと答えやがった。

「オラレル」

 やはりいるのだな。

「名前は?」

「マキア……サマ」

「そのマキア様は第三階級か、第二階級かどちらだ?」

「マキアイア様ハモット上」

 何? もっと上?

 えっと、第三階級はルンカスとついていたな。で、第二階級がレア。今イアといったな? 今まで名前にイアがついていた者といえば……。

 エルドナイアがいた。コモナレアが「エルドナ様」と言っていたということは、イアというのが階級を指すのだろう。鍛冶屋の村にいた小女王! ということはこの町にいる役付きは―――

 いきなり小女王か! これはラッキー? 卵を産む女王は戦う事は無いから……

 だが待て。という事はまた護衛に第二、もしくは第三階級の役付きも複数いるという事か? それも大変そうだな。

「そのマキア様には、護衛はいるか? 何人だ」

「一人モ、イナイ。マキア様ニ、ヨワイ護衛ナドイラナイ」

 どういうことだ? 小女王に護衛がいない?

「マユカ、ひょっとしたらそいつ、オスなんじゃ……」

 そうルピアに言われてハッとした。そうか、そっちの可能性もあるか。ってことは戦ったりするわけか?

「最後の質問だ。マキア様は強いか?」

「強イ。一番強イ」

「……へ、へえ~」

 多分顔には出ていないと思うが、私はものっすっごーく焦っている。

 まさか一番最初の役付きが、オスの第一階級って。絶対強いだろ、それは。

 自滅してくれずに普通にやり合ってたら、第二階級のリリクレアでさえヤバかったのに。勝てるのか?


 その後、マキアイアなる第一階級がいる場所を他の者から聞き出し、私達はなんとか港だけは制圧する事に成功した。やっと降りられた耳かき部隊の活躍もあって、百人近くの人間がヴァファムの寄生から自分の意思を取り戻したのだった。

 港の倉庫の一つを借りることが出来て、やっと皆が地に足を着けて落ち着けた。しかし、食事の時間になってもルピアは子猫ちゃんから人型に戻らず、スリングから出ようとしない。

「どうした、もう降りていいんだぞルピア」

「うん……」

 なんだか酷くぐったりしてるな。魔力も使ってないと思うのに。

 弱々しくルピアが言う。

「……酔った」

「もう船から降りたのにか?」

「マユカ……酔い……」

 どうやら、スリングに入れたまま私が立ち回りをやったので、私の動きにルピアは嵐の船並みに揺すられて酔ったらしい。

 ルピアはやっぱりどこまでも残念な奴だった。


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