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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第一章 五種族の戦士編
5/101

5:お披露目

 流石に無断で外に出るのも何なので、王様に報告を……と思ったが、忙しそうなので適当に伝言を頼んでゾンゲ氏と城の近場を見て回ることにした。

 いきなり違う世界だと言われても、いま一つ実感が湧いていないし、頭の中では今もこれはきっと夢だと思っている。それでも悲しいかな私は順応性にだけは異常に自信がある。これが現実だと言われて納得してしまったし、もうたとえ夢でなくてもいいやという諦めに近い感もあるのだ。

 さっさと契約とやらを終わらせるなり、解除する方法などを突き止めて帰ろう。これでも公務員だ。無断欠勤はクビになろう。

 だが、折角なので少しばかりは楽しませてもらわないと、あんまりではないか。

 城を一歩出て、私は固まった。

 ……ここは、天国だろうか。

「うひょひょひょひよっ」

 思わず声が漏れてしまった。

「気持ち悪い笑い声を出すな。微塵も表情を変えずに……器用だな」

 ゾンゲ氏が呆れている。だがな、これでもかなり我慢しているのだぞ。だってだって! 右を見ても揺れるもふもふ。左を見ても歩くふわふわ。

 猫族の街はとんでもない。

 一見普通に見える人にも尻尾が生えてたり、ゾンゲ氏みたいにまるっきり猫ちゃんの顔をした人もちらほら。猫耳生やしてる人も大勢いるし、尻尾も猫耳も見えない綺麗な女の人が押してるベビーカーに、小さな子猫が乗ってたり。なんてわんだほー!

「ああ触りたい。もふもふしたい」

 思わず口から思った事が漏れていたらしい。横でゾンゲ氏が飛びのくのが視界の隅に見えた。

 しばらくして、そーっと私の前に先だけグレーの白い尻尾が差し出された。ん? ゾンゲさん、さっきは拒否してたのに触っていいの?

「一般人をいきなり触られては堪らんからな。変態みたいだ」

 刑事が痴漢行為を働くわけにはいかんからな。そんなわけで、ゾンゲさんの尻尾で我慢する。

 お言葉に甘えまして。

「豹の尻尾の毛って表面意外と固いのだな。おおっ、でも中は柔らかくてホワホワしてて……」

 もふもふ。いいぞ~~! うわ、堪らんな! もふもふ担当決定。

「お、おい。あまり根元の方を触られると……」

「どうなるのだ?」

 こっそり耳元で生理的に恥ずかしい事になると教えてくれたのでやめておいた。そうか、なかなかに敏感なのだな、尻尾。

 住人の見た目はともかくとして、街の様子は長閑で平和なものだ。文化水準もそこそこ高く、街灯なども見えるし馬車も走っている。ぱっと見たところ、明治から大正の日本というところだろうか。学生の頃行ったテーマパークで見た感じに限りなく近い。服装も女性はそう派手でないワンピースやスカートなど、男性はスーツやズボンにシャツといったわりと見慣れたものだ。ゾンゲ氏によると、他の国も大体こんなものだという。

 ……しかし浮いてないか、私。見ろ、私のこの出で立ちで人々が頭を下げて道を開けてくれるぞ?物凄く偉そうじゃない?

「もう少し普通の格好が良いのだが……目立つな」

「そうだな……城に戻るか」

 早々に城に戻った私達だった。


「おお、マユカ探してたよ! 駄目じゃないか勝手に離れたら」

 残念な金ぴか野郎が駆け寄ってきて迎えてくれた。

「他の種族の代表がもうすぐ城に着く。伝説の戦士を皆にお披露目だ。少しは愛想良くしてくれよ」

「……それは無理だ」

 無表情なのは条件の中に入っていたような気がする。第一私に愛想笑いなど……。

「マユカはそこそこ美人だから微笑むと結構美しいと思うぞ」

 歯が浮くような事を言うんじゃない。しかも微妙な。そこそこって何だ。結構って。色々と飾りがついているな。

 試しに王様とゾンゲ氏に向かって微笑んでみた……つもりだ。

 ひっ、と小さく息を呑んでから、残念様は心底残念そうな顔をした。

「ううっ……」

「……む、無理しなくていい」

 だから言ったのに。初めて会った時の上杉の涙目を思い出した。

「殺されそうな気持ちになるから笑おうなんて思わない様に」

 そう言った金ぴか野郎に無言で体落としをかけておいた。一応は猫だ。受身は上手いな。

「残念様、私のこの格好はなんとかならんのか? 戦士の格好は戦う時だけでよいのではないか?」

「お披露目が済めば着替えを用意させる。正直その太股は目に毒だしね」

 それは褒められているんだろうか? 嫌味か?

「あと、そろそろ僕の事を名前で呼んで欲しいのだが……」

 そう言うので、ご希望に添えるように思い切り可愛い声で言ってやった。

「では。ル・ピ・アさまっ。はあと」

 あ、目が死んだ。


 会議場と言ってよいのだろうか。丸い巨大な大理石のテーブルの周りに集う面々。

「皆、よく集まってくれた。礼を言う」

 ルピアが偉そうに中央に一人立っている。礼服みたいなのにマントという、王様らしい格好をしているので、無駄に美しい顔と相まってそれはそれは立派に見える。見た目はな。

 各種族の最強の面々というだけあって、皆気配が只者では無い。組長さんどころの迫力では無い。触れると斬れる居合いの刀の様な殺気すら感じる。正直な感想は……まるで動物園だが。

「ミーアです」

 鳥族の戦士は女だ。真赤な髪の派手目の美人さんで、全体の印象は可愛いのに目が鷹の様に鋭い。私といい勝負の露出度高めの格好。両手は長く羽がついている。猛禽というイメージだ。

「私はリシュル」

 蛇族の戦士は一見弱々しい感じの青年だ。首の辺りから光る鱗っぽいのが見えてる。整った目鼻立ちのインテリっぽい青白い顔は戦い向きには見えないが、蛇というのは中々怖いからな。

「グイルという」

 犬族の戦士は……おおっ、もふもふ系! 耳がワンコ耳だよ。グレーの毛は狼っぽいな。尻尾ふさふさ! マッチョイケメンだし。その短めの黒髪は良いぞ。爽やか体育会系だな。

「イーアですぅ」

 魚族の戦士は小さい。うむ、どこから見てもお子様だ。昔々の白いイルカにのってたアニメのキャラを思い出したぞ。もっと鱗っぽいのかと思っていたけど意外に普通の人間っぽい。緑の髪に耳の後ろにヒレみたいなのがあるのと小さな手に水かきがあるのを除いて。きゃぴるんとした美少年顔のこの子も、気配はやはり只者では無い。

 そこに猫族のゾンゲ氏を加えて、五種族の戦士が集まったわけだ。

 個人的見解ではやっぱゾンゲ氏が一番男前に見える……もふもふ度と人間の顔をしてない、猫だというのがポイント高いな。いやいや、お見合いじゃないんだし。

「紹介しよう。異界より召還したマユカだ。古文書にある通り、まさに最強の女戦士。彼女なら必ずやこの度の世界の危機を救ってくれよう」

 おい、ルピアさん。自慢げに紹介してくれるが、何処の誰が最強だ? だから私は普通の刑事であって、戦士などでは無いぞ。

「へえ、こちらのお嬢さんが?」

 鳥の娘さん、お嬢さんって、きっとあんたよりかなり年上だぞ、私は。

「普通のお姉さんに見えるよ?」

 よし、よく言ったお魚のチビ。

「猫の基準で最強とか言われてもなぁ」

 うむ、ごもっともだ。ワンコ青年。

「太股意外は華奢だな」

 ひょろひょろ蛇に言われたくないぞ。

「異議があるなら手合わせでもして実力をみれば良かろう?」

 おおい、やっぱ残念君に呼び名戻すぞ、ルピアさんよ。それはいい、とか言って賛同するな、皆のもの。

 そんでもって何故、皆テーブルを離れて、広い所に移動してるんでしょうかね? 私も含めて。

 でも考えてみれば、使い物にならんと判断されたら帰れるかも? そうだ、その手があった!

「……まとめてかかって来い。本気を出して」

 私は挑発するようにそう言って顎をシャクってみた。

 ざっ、とゾンゲ氏も含めた五人が私を囲む。殺気が高まって、空気に圧迫感すら感じる。皆、相当の使い手と見た。

 そして彼等は一斉に襲ってきた。

 やっつけちゃってくれ、私を。とっとと不要とみなされて帰るために。

 ……とか思いつつも、身についた習性と言うのは恐ろしいもので。

 まずかかって来たチビ魚をかわして背中に軽く手刀を入れ、上から来た鳥女の足ひっ捕まえて床に叩きつけ、豹男は上段回し蹴りを首に入れ、蛇青年は足払いで倒して肘を入れ、低い体勢のまま摑みかかってきたワンコを巴投げ。

 多分十秒かからなかった。

 瞬殺してどうするよ、私。


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