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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第一章 五種族の戦士編
48/101

48:冗談の通じない男達

「ほへへへ、はふはふっほはっはんはほ!」

 イーアがパンで頬をリスの様に膨らませて、何か興奮したように言っている。

「全くわからん」

「飲み込んでから話そうか」

 呆れた様にリシュルに水の器を渡され、イーアはごくごくと良い音を立てて飲み干した。育ち盛りの食いっぷりは凄まじい。

「マユカ、すっごかったんだよ! こうね、スカートビリビリってしてね……」

「ほう。見てみたかったですね」

 イーアは何を報告しとるんだ。そしてリシュルも嬉しそうに言わない。

 私だけでももう少し真っ当な報告をしよう。

「逃げられたのは初めてだが、第三階級だけあってもう一人も同じ位のレベルだとすれば、武器にさえ気をつけて戦えば勝てない相手では無い。下見はして来たし、進入ルートも大体把握できた」

 武器を回収してきたとはいえ、向うところは武器工場だ。新しいのを持ってるかもしれないというのは内緒にしておこう。

「以後やりやすいかもしれないけど、待っている方は心配で気が気じゃなかったわ」

 マナがお茶を入れてくれながら少し怒ったように言う。確かに心配をかけてしまったかもしれない。

 現在食事中。ルピアによるともうすぐミーア達が到着するとの事。その前に腹ごしらえだ。マナとリシュルが買出しに行き、学校の設備をお借りして調理したらしい。

 パンは買ってきたとして、スープがものすごく美味しい。怪我人を配慮してか、柔らかく煮た野菜と芋と細かく切った肉が入っているだけのシンプルなものなのに味付けが絶妙。

「これ、マナが作ったのか? 良いお嫁さんになれるな」

 マナは苦笑いで首を振った。え? 違うの?

 そろーっとマナとリシュルが指差した先にいるのはゾンゲだった。ニルアと一緒に、一番弱っているグイルにスープを食べさせてやっている。自分の打撲傷は少しマシになったのかな。

 しかし……ゾンゲが? これは意外。絶対に家事なんかしそうに無くて、家に帰ったら腕組みして黙ってどかっと座ってそうなタイプに見えるのに。そういえばケンカしてたわりに今も甲斐甲斐しくグイルの世話もしてくれてるし、いつも気が利くよな。実はマメ男?

「ゾンゲはああ見えて料理がすごく上手いんだ。裁縫なんかも得意だぞ。マユカの服も繕ってもらえばいい」

 ルピアは知っていたようだ。

 私は掃除と洗濯はわりと好きだ。でも炊事と裁縫はあまり得意では無い。一人暮らしも長いのでやらなくもないが、仕事上がりなどは台所に立つのも面倒で。

 うーん、人は見た目によらないと言うけど……家事が得意な豹。エプロン姿で台所に立っている所を想像する。ムキッとした逆三角形の後姿に揺れる尻尾……

 も、萌え――――っ!!

 家事が出来る+猫+強い+無口=理想! そうか、今更だがゾンゲってまさに私の理想のタイプではないか!

「ゾンゲ、私と結婚しよう」

「断る」

 ちっ、即答しやがった。

「はふはっ! はひひってふほっ!」

「……ルピアまで口に物を入れて喋るな」

「んぐ。だってっ。何言ってるの! 他の男に求婚するなんてっ!」

 ルピア、真っ赤になって怒らなくても。本気にとるな。冗談の通じない奴だ。第一、こんな愛想悪くて無駄に強いだけで家事も出来無い女、ゾンゲに気の毒だ。

「マユカ、僕は気の毒じゃないから、安心して嫁いでおいで」

「断る」

 口の横にパンくずつけて何を言ってるんだルピア。しかも勝手にまた頭の中読んでるし。

 ……でも、これって、しれっとプロポーズされてるんだろうか? でも、今はまだそんな事を考えなくていいって自分が言ったし。ここは冗談の続きとして流しておいていいところなんだろうな、やっぱり。

 とかなんとか、わりと和やかな感じで食事を済ませた。せめて後片付けくらいはさせてもらう。この中で元気なのは私くらいだしな。

 水道が幾つも並んでいるのがいかにも学校という懐かしい風情のタイルと石の洗い場。私が食器を洗っていると、ゾンゲが手伝いに来てくれた。

「お前もかなりの怪我なんだから休んでいろ。美味しかった」

 私がそう言っても、ゾンゲは去ろうとしない。

「マ、マユカ、あの……」

 毛に覆われたゾンゲの顔は表情がわからない。人の事は言えないけど。

「何だ?」

「さ、さ、さっきはその、ルピア様の前だし……」

 何か思いきりどもってるな。緊張してる? 尻尾も立ってないのにぴーんってなってるし。

「ほ、本当はその、嬉しかった」

「……」

 むう。ここにも冗談の通じない奴がいた。

 何だか酷く罪悪感が……冗談には気をつけよう。


 腹が減っては戦が出来ぬとはいうが、空腹も満たされて疲れも癒され、落ち着いたら俄然やる気が出て来た。身なりを整え、増援組が到着したらいつでも行ける体勢にしておく。

 ゾンゲ、リシュル、マナは完璧では無いものの、手当ても出来てかなり復活したし、こちらも少し武装して行く事にした。

 私としては殺傷能力の弱い物の中では、あれば本当は木刀が良いのだが今は無いので、私は随分前に入手した刃を殺した薙刀を選んだ。後の面々も何か装備した方がいいな。

 ゾンゲはいざって時に爪が使えるから、接近戦タイプの、マナ……コモナレアが持っていたモーニングスターを。リシュルは以前選んで相性の良かったユングレアの三節昆、ミーアに鞭を残しておく。そしてイーアは電撃があるので素手。グイルは前は素手で行かせたが、力があるのでグレアルンカスの刺叉が向いているかな。但し、グイルは医療班にちゃんと診てもらったほうが良い。骨折はしていないようでも、酷い打撲と切り傷だ。あまり動かしたくない。

 後でわかったのだが、宿屋でルピアの血だと思っていたのはグイルの血だったようだ。ルピアを守ってナイフで斬り付けられたのだそうだ。

「本当にすみません……」

 宿屋での襲撃の件を聞いて、ニルアが何度も謝っているのが気の毒な程だ。彼女が悪いわけでなく入ってたリリクレアの所業なのだ。それはグイルもわかっている。

「お嬢ちゃんのせいじゃない」

「でも……私がグイルさんの代わりに戦います!」

 いや、出来ればニルアには待っていてもらいたい。強化魔法を使わないときは普通のお嬢さんだからな。

「これ、こうするんだよね?」

 私の横で、意外にも器用にリリクのデコったトンファーを振るっている男がいる。ルピア、なかなか上手だな。構えは一丁前に決まっている。戦えはしないだろうけど、持たせておいてもいいかな。

 ……猫ちゃんのおもちゃに。

 そうこうするうち、ミーア達が町に着いた事をルピアが告げた。

「山越えしてきて疲れているだろうが、早々に出発したい」

 市長や行政の重要職の者は見張りクラスに寄生されている様なので学校関係者にも話が出来無い。無断借用で悪いと思いつつ、この学校は便利なのでしばらく基地として利用させてもらう事にする。町の人には後で謝りを入れよう。

 リシュルとゾンゲが中央広場まで迎えに行き、ここで増援部隊と合流。

「マユカー!」

 かなり草臥れた様子のミーアが羽を広げて文字通り飛びついてきた。何だか酷く久しぶりな気がして、その顔を見てホッとした。

「無事で良かったわ」

「それはこちらの台詞だ。大急ぎで山を越えてくれてありがとう。疲れただろう?」

「平気よぉ。あれから役付きもやっつっけたんでしょ?」

 私も寄生されそうになって、結果皆を傷付けてしまった事、これから乗り込む武器工場には正体不明の男がいる事を告げると、ミーアのこっちがほっこりするような陽気な笑顔が消えた。

「今すぐ行こう!」

 やる気満々だな。ミーア。頼もしいことだ。

 治癒魔法を使う医師達に全力で癒してもらい、皆が何とか戦える体勢になったところで、作戦を告げる。

「医療班、掃討部隊、ニルア、マナ、リール、デザールの兵とキリムの兵の半分は呼ぶまでここで待機。マナはルピアと連絡が取れるから、片付いたら連絡する」

「了解!」

 ほとんどの面々からは小気味良い返事が返ってきたものの、ニルアは不服そうだ。

「あの……私も待機ですか……」

「さっき戦うと言ってくれたな? 言っておくがここも決して安全とは言えない。マナ、リールと共に、ここで戦ってもらわねばならないかもしれないから残ってもらうのだ。元ヴァファムの大幹部のリリクレア様がここにいる事で、町の寄生されていない人間の目を引きつけてもらうという大役だぞ?」

 ……まあ、半分は大袈裟に言っただけだけども。見た目イケイケの真面目エリート少女は納得行った様に頷いてくれた。

「残りの合同軍の兵は私達と一緒に来てくれ。搬入用入り口で待機。村人を解放した折には人手がいる」

「了解しましたっ!」

「ゾンゲ、イーア、グイルは同じく搬入用入り口から回ってくれ。中で合流する」

 三人は頷いた。

「ルピアはいつもの様にニャンコちゃんで私と一緒に。リシュル、ミーアと共に幹部用の入り口から行く。狭く、危険は伴うが奇襲効果はあると思う」

 独断で仕切らせてもらったが、異存を唱えるものはいなかった。

 抜け道は本当は使うのはやめようとも思ったが、ノムザルンカスがもう一度出てくることを想定して、作戦をそれなりに考えてみたのだ。

「では、展開。皆、気をつけろ!」

 恐らくこの大陸で一番最後であろう、重要な作戦が始まった。

 武器工場からの村人の解放。これ以上の下っ端への武器の流出の阻止。そして、ヴァファムに異界の知恵を授けたという『ケイ様』とやらとの接触。

 顔には一切出ていないだろうが、子猫になってスリングに収まったルピアを撫でながら、私は今までに無く緊張していた。


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