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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第一章 五種族の戦士編
47/101

47:鎖鎌の使い方

 鎖鎌。

 本来農業用の器具を武器に改変したもの。帯刀を許されない身分の、農民や商人の護身用、もしくは忍びの隠し武器が由来だと聞いた事があるものの、詳しい事までは知らない。とにかく鎖の先に錘がついていて、投擲することにより相手の動きを封じたり、武器を止めたりし、鎌の部分でとどめを刺すというかなり高性能な武器である。

 古武術の師範が演武で使っているのを一度見た事はある。流派によって、分銅のついた鎖を鎌の方側……頭につけた物と、柄の下部分につけた物、両方が鎌になっている物、長い柄の物など様々な形態があるそうだ。

 今、目の前でノムザとやらが持っているのは、頭の方側に鎖のついた物で、片手で操作する鎌の小さいタイプだ。鎖の長さは一ないし一メートル半程度だろうか。鎖は知っているものよりもかなり長く、投擲に適した形といえよう。

 ……さて、どう戦うか。いざとなればイーアにも協力してもらう事になろうが、この際私一人で良かったのかもしれない。この手の武器を相手に大人数は余計に危険だ。ある意味飛び道具だからな。

「連れて来いと言われたのは私だけだろう? 他の三……二人には手を出すな」

「いいぞ。さあ、やろうぜ」

 印象の薄い顔の上、性格もあっさりした奴だな。本当かどうか判断はしかねるが。

「イーア、ニルアとルピアを連れて安全な所へ離れてろ。近くにいると危ない」

「だけど……!」

 またあまり距離が開くとルピアが弱るかもしれないとはいえ、建物の陰にでも身を隠してろ。手を放さない限りは射程は短くても、投げてくると危険な武器なんだ。読めてるな? 私の考えていることが。ルピア。

「イーア、マユカに任せよう」

 よしよし。ちゃんとルピアには伝わっていたようだ。

 視界の端でポンプ小屋の陰に二人と一匹が隠れるのを確認して、私は構えなおす。まずは相手の動きを見ないと。

「行くぞ!」

 ぴしゃ、と水音と共にノムザルンカスが動いた。

 思った通り、片手で鎌を持ち、もう一方の手は鎖を振り回している。まずは鎖の方で来るというのは定石だな。

 びゅっと音を立てて鎖の先の分銅が襲ってくる。

 先のルミノレアの流星錘と似た様な動きでも、圧倒的に射程が短い。これは余裕でかわせる。

 それでも鎖と錘の太さと大きさが違う。もし喰らったら結構なダメージだ。

 これもまた流星錘と同じく、投げた直後はやや隙が出来る。そこを狙って私が蹴りを入れるも、もう一方の鎌がすかさず振り下ろされて、慌てて身を引く。

 こいつ、長身だからリーチがあるな。

 どうでもいいがワンピースを脱いでおくんだった。下に鎧は着けたままだから、防御力は変わらなくても、裾が邪魔になって動き難いこと甚だしい。

 一旦離れて間合いを取る。これはなかなか厄介だ。隙がつけない。こちらも棒でもいいからあれば良かったな。素手でやりあうには無理があるかもしれない。

 一応だがノムザに聞いてみる。

「その鎌って切れる?」

「ああ。よく切れるぜ。生かして連れて来いとは言われても、どこか欠けてたら駄目だとは言われてない」

 そうですか。無駄にご丁寧な返事をありがとう。手足の一本くらい失くしちゃうかもってか? この武器って充分殺傷能力があるじゃないか。

 ノムザはもう一度最初と同じような構えで鎖の方を飛ばしてきた。しかし今度私は踵落としで錘を叩き落とした。やや足首に巻きつく感はあっても、完全に巻き取られなかったので助かった。そのまま構わず突きに行く。

 そこはやはり鎌がすかさず襲ってきて、今度はかわし損ねて肩の辺りがやや切れたものの、丁度鎧があった部分なのでワンピースが破れただけで済んだ。引き際に駄目もとで蹴り上げた私の足は、鎌を持ったノムザの手に上手く当たった。

 よし、鎌を落とす事に成功した。もう一度空いた所に蹴りを……。

「マユカっ!」

 ルピアの声と共に、全く予想もしなかった方向から鎌が飛んできた。もう片方の鎖を持っていた手を引いたノムザの元に戻ろうとした鎌は、私の太股をかすめて行った。

「ちぇっ、ざっくりはいかなかったか」

 ヒラヒラしたスカートがあってよかった。防具も何も無い太股を思いきり斬られるところだった。幸い腿には掠めただけで紙で切ったほどの赤い線が走っただけで、マトモに切れたのはスカートだけだった。

 私は飛び退き、切り目を入れてくれたスカートをびりびりっと破いてみた。ワンピースが超ミニになってしまったが、これで少しは動きやすい。

「マーユーカー! 他の男の前でっ!」

 ルピアが何か言ってるけど、考えてみろ。私っていつもこの短いスカートどころか、丸出しなんだぞ、太股っ! 恥ずかしくも無い……っていうか、いつもの方がよっぽど恥ずかしいと思い出したわっ!

「ヒュウ。無愛想だが色っぽいことしてくれるじゃないか」

「……虫にもそんな事が言えるんだな」

 ヴァファムの意思で動いてるんだよな? こいつの額にもくっきりした複雑な模様があり、第三階級の特徴がはっきり出ている。第二階級になると普段は模様が消え、より個性がハッキリする……しかし、こいつはかなり人間臭い事を言うもんだ。やはり同じ第三階級でも、重要な位置にいると言う事は今までのフレイやグレアルンカスより進化していると言う事だろうか。

 とはいえ、考えてみれば第三階級だ。持っている武器は厄介だが、第二階級のコモナやリリク程の早さも、ユングほどの力も感じない。

 そして今までの中で、一度でも実物を使っているのを見たことのある武器だ。

 勝てる。勝てるはずだ。

 今度は、ノムザは鎖の錘側を持ち、鎌の方を振り回しはじめた。

 こいつはかなりの使い手のようだな。かなり鍛錬しないと、返って来た鎌で自分を傷付ける事もあるのが鎖鎌。使いこなせるようになるまでに、何度か自分で怪我をしないと扱えないと師匠も言っていた。

 だが流石にこれを喰らうと大怪我だな。

 びゅんと少し重い音。幸い躱せたが思ったより届いてくる。しゅっとすかさず鎖を引き戻し、鎌の持ち手を上手に受けるノムザは余裕の表情だ。

 もう一度来る。今度も躱す。少しイラついたようにノムザが吐き捨てる。

「ちょこまか逃げてんじゃねぇよ」

 そうだな。私も逃げてばかりでは勝負にならんか。だが当たりたくはないし。

 ノムザが走りながら、もう一撃放って来た。今度はやや近くから、鎖を短く持って精度を上げて来たな。

 今度は神経を集中し、空中で鎌を足で受ける。横っ面の薄い部分を蹴ればダメージは食らわない。だが、そこでくいと鎖を引かれ、危うく鎌で足首を掻き切られそうになった。

 おかげさまで戦士の鎧が守ってくれたとはいえ……少しお臍の辺りがヒヤッとした。

 私に蹴られてバランスを崩した鎌には不自然な回転が加わったのか、ノムザも受けるのに少々苦労したようだ。

 ああ、組めたらな。長身でも奴はそう下半身は強くなさそうだ。柔道技が掛けられたら、かなりのダメージを与えられるのに。

 組みに行くには、直に持っている鎌が少々厄介だ。剣などの真っ直ぐな形態で無い分、動きが読めず至近距離だと怖い。

 何か方法が……

 そこで、さっきのノムザの言葉を思い出した。ちょこまか逃げるんじゃないと言ったな。

 そうだ、以前映画か何かで見た鎖鎌の使い方。師範もやって見せてくれたな。何かちょっと思いついたかも。

 柄が重く、先の曲がった鎌は目標に向かって投げやすい。戻らないがブーメランにも似た飛び方をする。そして錘のついた鎖は当たるとその錘と鎌の重さ、反動、遠心力で目標物に巻きつく。足などを狙い、相手を捕捉し、動きを押さえて近づいたところを鎌でとどめ。これが最も効果的な鎖鎌の使い方だと私は思う。上手くいけば巻きついた勢いで鎌を相手に刺す事もできる。射程距離も稼げ、長物の刀や槍にも対抗できる手段。ノムザがこの武器のそんな特性を熟知しているなら―――

 誘うように、私は一旦踏み出す。また鎖が襲って来て、それを躱す。そのまま打ち込むと見せかけて、鎌に注意を向ける。

 そこで私は思い切って、ノムザに背を向け勢いよく走りだした。

「逃げるのか!」

 ああ、逃げるさ。距離を稼ぐためにな。

 投げろ。

 鎖鎌の一番効果的な使い方をやってみろ。

 そして時は訪れた。後ろから鎌を投げた気配。よし、来い!

 足をワザと巻かれる。通常より長い鎖が幸いしてか、鎌で傷付けられる事は無かった。一応動きが妨げられて私は倒れこんだ。

「マユカっ!」

 来るなよ、イーアにルピア。これは作戦なんだ。

 鎖鎌の最も効果的な使い方は、最高の弱点。投擲してしまうと手元に戻せない。拾いに行かないと。

「さあて。終わりにしようか」

 嬉々としてやってくるノムザ。よし、あと一メートル。

 身を乗り出してきた腕を掴む。鎖が巻きついたままの両足をそろえ、腹に。

「え?」

 素手のひょろっとした秋刀魚みたいな男など怖くも無いわ!

 そのままやや変則の巴投げが決まった。

 思いきり投げたので、ノムザはルピアたちが隠れているポンプ小屋の方まで飛んで行った。

「ううっ……」

 呻き声をあげたノムザは素手。

 私は足に巻き付いた鎖を解いた。ふん、鎖鎌は頂いたぞ。

 すぐさま立ち上がったノムザにこちらも立ち上がって構えなおした。しかし、予想外にノムザはこちらに素手ではかかって来なかった。

「ケイ様にお許しいただけるかはわからんが……」

 海の方を見たかと思うと、ノムザはそのまま走って行く。

 ほえ? 逃げるのか? こんな幹部見たこと無いぞ?

 ざばん、と水音をたて、ノムザルンカスは魚族らしく海に飛び込んだ。

 ……まあいいや。勝手に襲ってきて勝手に逃げてくれるのなら助かると言うものだ。マトモにやりあうなら、こちらもちゃんと体勢を整えたいからな。

「逃がすかっ!」

「イーア、追うな」

「でもっ!」

 イーアが飛び込もうとしたが、私はそれを止めた。確かに同じ魚族のイーアになら追えるかもしれないが、相手と体格が違いすぎる。一人で行かすわけにいかない。

 ごめん、イーア。言っていなかったが私はカナヅチなのだ。もし万が一同じ魚族同士で戦闘になっても、助けに行きようが無い。ちなみにルピアも泳げないみたいだぞ。

 そうこうしているうちに魚男は見えなくなった。

「覚えてろ! 絶対に次はっ!」

 かなり離れた所で水から顔を出したノムザは、捨て台詞を残して海に消えた。

「逃がしちゃったけどいいの?」

「ああ、行かせておけ」

 逃がしたのは初めてでも、丸腰にはしたからいいんじゃないかな。

「マユカ、怪我は無い?」

「ああ、大丈夫だ」

 久しぶりに一人で戦った。何となく疲れたな。

 とにかく帰ろう。皆のところへ。

 下見は済んだ。武器工場へのルートもわかったし、おまけに護衛にいる幹部の一人は実力の程もわかった。

 ケイ様と言ってたな。

 それがあの武器工場にいると言う、謎の男の名前?

 早くその姿を確かめたい。ヴァファムに寄生されているこの世界の人間なのか、それとも……。


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