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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第一章 五種族の戦士編
42/101

42:それは勘弁

 体をくれって……?

「知ってるぅ? 同じ管轄内の第一階級がいなくなったとき、二番目がその座に上がれるの。エルドナイア様に次ぐ二番目はアタシ。つまりエルドナイア様が捕まっちゃった今、私が次の小女王になって雄を集めて卵を産めるのよぉ」

 言っている事は非常に恐ろしいのに、無邪気にも見える顔で笑う小娘。

「でもさぁ、この体は強いけど女王にはふさわしくない。だからちょっと地味で可愛く無いけどぉ、お姉さんの体ちょうだいよ。いっぱい卵産んでも平気そうだしさ」

「なっ……」

 もう、何も返す言葉も見つからなかった。

 私に寄生しようというのか? それは勘弁願いたい。

 白い部屋で卵を産み続けていたエルドナイアに寄生されていた女性の姿が思い出された。

 あれを私にやれというのか? 確かにそうすればこの宿主の娘は助かる。

 だが……

 ムリムリムリっ! 自分の体の中に虫が入るなんて恐ろしすぎて無理っ!

「欲しければ力ずくで手に入れてみろ」

「ふふーん。勿論そうさせてもらうけどぉ?」

 リリクは自信満々だ。

 確かに強いからな。動き、速さ、力、何をとってみてもコイツは今までの者とは違う。元々の宿主の身体能力も優れているのだろうが、高位のヴァファムに寄生される事により、普段の何倍もの力を発揮出来ると言う事は、今までの幹部を見てきてわかっている。

 グイルは勿論、ゾンゲもしばらく動けそうに無い。リシュルも首を蹴られて軽く脳震盪を起してるのか、かなりヤバそうだ。

 戦えるのは私だけか。

 マナもいるとはいえ、動けない者達を見ていて欲しい。もし私にも何かあったら、味方を呼びにいってもらわないと。

「マユカ、何かあったらなんて……」

 ルピア、お前には喋らなくても私の気持ちがわかるものな。だがこれは事実。そしてそう簡単に私だってやられるつもりはない。

 少し離れて、リリクに何か弱点が無いかを探る。

 くるくると、まるでバトンのようにトンファーを回し、遊んでいるようにしか見えないリリク。小柄な少女の姿で無邪気な笑みを浮かべているのが不気味に見える。本当に隙だらけのようでいてどこにも隙が無い。

 短いスカートの下の太股に、微かに鱗が見えた。寄生されている娘は蛇族か魚族なのか。まあそれがわかったとて、どうなるものでもないが。

 トンファーは接近武器だ。攻撃範囲は短い。ここは無難にこちらも空手技で行くのが定石だろうか。

 相変わらず構える素振りも無いリリクに向かって、思い切って頭を狙って蹴りに行く。上段蹴り。またも掻き消えたようにかわされ、心のどこかでやはりと思う自分が一番口惜しかった。それでも追えないほどは逃げなかったので、すかざず連続の突き。体を止めず足は膝を常に狙う。

 すべてかわされ、最後の渾身の突きはトンファーで受け止められた。じーんと拳が痛い。

 だが止まってはいけない。どちらかというと私は柔道も空手も一撃必殺型だが、スタミナも無いわけではないぞ。

 面白く無さげにかわすだけのリリクが、トンファーをこちらに長い側を向けるように持ち替えて仕掛けてきた。少しは目が慣れて来たので、その攻撃をかわして、逆にチョップで肘を上から叩くのに成功した。とはいえ、かすった程度だが。

「やーん、痛いじゃないのぉ」

 ……やる気が削がれる声だな。痛いようにしているのだから当然だ! その猫撫で声、男には効くかもしれんが、生憎私は女だ。可愛いとも思わん。

「ふうん、お姉さんいい感じだね。面白いわ。こっちも本気で相手してあげなきゃね」

 どこまでも上から目線な奴だな! ってか今まで本気じゃ無かったのか。いやいや、本気だしてもらわなくていいし。

 やっとリリクが構えた。これから内手刀打ちに来るかのような構え。下半身はぬらっとしたとでも言えば近いだろうか。そういう滑らかな動きだ。リシュルの感じに近い。やはり蛇族なのだろう。どうでもいいけど。

 攻撃してくる時が最も隙が出来る……師匠はそう言っていた。

 こちらも一撃受ける覚悟で構える。

「ふふっ」

 小さく声を上げて笑って、リリクが思った通り斜めに振り上げた方の手を下ろしてきた。受けるため肘を出した瞬間、くるっとトンファーが回り、思いがけず二の腕にマトモに喰らった。肘までの手甲と肩の防具の隙間。そこには何も無い。

「つっ……!」

「わーい、やっとぴくって眉が動いたよぉ」

 それは私の顔の事だろうか?

「もっと苦しそうで痛そうな顔で、泣くまでやってあげるわね、お姉さん」

 恐ろしい宣言だが、悪いな。多分死にそうになっても私はそんなに表情を変えない自信がある。形状記憶合金だし。

 その後、徒手みたいに攻撃が繰り返され、私は受けてかわすのがやっとで少しずつ押されてきた。それを楽しむみたいに始終笑顔だったリリクが、突然真顔になったと思うと、いきなりボディに横から蹴りを喰らった。

「マユカっ!」

 猫の姿のままルピアが飛び出してきたので、軽く首を振って向こうへ行けと念じた。そんな小さな子猫に武器が当たったら死んでしまう。

 リリクも一旦動きを止めてくれたのはありがたかった。

「猫ちゃん、あぶないよぉ? どいてなよ。後でなでなでしてあげるからさぁ」

「お前なんかに撫でられるかっ!」

 言い返したルピアの言葉が気に入らなかったのか、リリクが蹴ろうとしたので、慌ててルピアを抱え込んだ。

 ガンガンと背中を蹴られて非常に痛い。こういう娘は突然キレるんだ。頼むからあまり刺激するんじゃない。

「マユカ、マユカっ!」

 もう私の名前しか言葉を忘れてしまったように、ルピアが何度も呼ぶ。

 落ち着かせようと、少し優しい口調でルピアに語り掛けた。

「ルピア、マナ達のところで待ってろ。私は大丈夫だ。ほら、顔を見てみろ。痛そうじゃないだろ?」

 ……こういう時、本当に表情に出ないのは有難いな。

 ああ、痛い。背中側はあまり鎧がないからな。でも一応邪魔だと思っていたマントがあるから少しは助かってるんだろうな。

 半ば放り投げる形で、マナの方にルピアをやって立ち上がると、リリクはまさにキレた状態の若者特有の目をしていた。顎を上げ、目を見開いて見下ろす顔。

「アタシと遊んでるのに、猫に気ぃとられてんじゃないよぉ!」

 ……うわ、イタイな、コイツ……

 だがチャンス。キレている故か打ち込んできたトンファーの長柄の方は乱暴で狙いが正確でない。痛いの覚悟で手首で受け、そのまま開いた脇へ滑り込んだ。

 そのまま大外刈りで床に倒す。

 空手が駄目なら柔道だ! どっちかというと私は柔道の方が得意なのだ。軽い小さな少女の体は簡単にひっくり返った。

 倒されたのに驚いたのか一瞬リリクの動きが止まったので、そのまま押さえ込みに入る。

 逃れようと身を捩るリリク。だが放すものか。

「重いよぉ!」

「うるさい」

 綺麗に縦四方固めが決まっているものの、これからどうしたものか。他の面々はまだ動けそうに無い。とりあえずトンファーは片っ方だけ回収できたのだが……。

「うふふふふ、これっていい感じなんじゃない?」

 突然、抵抗を止めてリリクが笑い出した。

 いい感じって……ひょっとしてそっちの趣味がおあり? いやいやそうではないだろうな。

 そうこうするうちに、リリクがぱたっと動かなくなった。まるで死んだみたいに。

「え?」

 その耳から黄色い大きな虫が這い出たのはその直後だった。

 そして私の耳めがけてその虫が飛んだのも。


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