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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第一章 五種族の戦士編
37/101

37:平和な港町

「お前、ホント体力無いな」

「お、王様だからな。頼む、抱っこして……」

 小女王エルドナイアを抑えた村から十数キロ。ただし直線なら。

 只今、私達は山越えの真っ最中である。

 この山を越えた先、海側には大きな町がある。ほとんどが魚族と犬族で、その他にも様々な種族が一緒に暮らす小さな国があるのだそうだ。一応大きな括りではキリムの連邦に属しているが、少しキリムの他の地方とは趣が違うのだとか。

 思ったより大変な山歩きである。一応道があるとはいえ、整備もされていない獣道に毛が生えたような岩がゴロゴロ剥き出しの細い急勾配の道。

 最初は一緒に歩いていたのに、早くもヘロヘロになったルピアが猫になるからスリングに入れろとほざいている。

「王様なんだったら自分で歩け。村人も歩いて行った道だ。見ろ、イーアみたいな子供でも歩いてるんだ、笑われるぞ」

「マユカ、子供って言わないでよ! ボクは戦士だからねっ」

 イーアが怒ってぷうっと頬を膨らませた。そういうのがどこからどうみても可愛いお子様だというのだ。だがお子様とはいえ鍛えてるもんな。

「猫王様、私が抱っこして差し上げましょうか?」

 山の向こうの村から一緒に来た、マナが穏やかに言った。つい先日まで第二階級の幹部コモナレアに寄生されていた女性である。

「い、いいっ! 歩きますっ!」

 もうヴァファムでは無いのだが、ルピアはちょっと彼女が苦手みたいだ。華やかではないがよく見たらかなりの美人だし、とても気の利くいい人だと思うのにな。

「あら、そう? 子猫ちゃんを抱っこしたかったのに」

「僕も子猫抱っこしたいです」

 マナさんともう一人、味方になったのがルミノレアに寄生されていた鳥族のリール。こちらもサーカス団員で身体能力はずば抜けている。見た目は派手でも大人しい性格だ。寄生されていたときのあのチャラ男ぶりは虫由来だったとみえる。

 考えてみたら、ヴァファムって結構個性強いよな……熱血の虫やらチャラ男やら。

「男になんか抱っこされたくないっ!」

 というわけで、自力で歩くことにしたらしいルピア様だった。

 今はほぼ皆が回復したとはいえ、第二階級二人相手にした直後は、ほとんど全員が無傷では無かったため出発が二日ほど遅れた。と言っても、骨折の重傷だったゾンゲやグイルもたかが二日で治ってるところをみると、回復魔法というのはかなりすごいものだと思う。映画に出てくるような一瞬で傷が消えたりする劇的なものではなくても、体の治ろうとする力を最大に高めるのだという。かくいう自分も手首にヒビが入っていたのが、わずか一日で治った。

 医療のレベルもそう低くは無いので、手術を受けた女王の宿主だった猫族の女性も大丈夫だと思う。

 私とルピア、五種族の戦士、マナとリールの九人で山越えをして来た。残りの兵士、耳かき部隊の半数は村で待機している。残りの半数は、新たな作戦を練った上で来た道を戻らせた。

 マナとリールを仲間にしてみて確信が持てたのは、今まで戦った役付きに寄生されていた者達は皆、寄生から解放されてもなお、素でも充分に強い優れた身体能力を持つもの達だということだ。レアの警察署長のように、なかなか職務を離れられぬ者もいるかもしれないが、彼らの協力を得られれば後は任せられる。

 私達の最終目的は向こうの大陸に渡り、大女王を抑えること。

「サナの街は港町だから、向こうの大陸とのやりとりもしやすく、多様な種族も出入りする。物、人が集まると言う事は、技術もまた集まる。だからこの地に武器工場が造られたのだと思うが……」

 行動、言動などほとんどの面において残念なルピアも、若くして国を纏める王様だけあって、考察力はかなり優れていると思う。一応対ヴァファムの各国連合軍の総指揮官だからな。

「何か気になる事でも?」

「役付きが持っている武器の種類がさ、色々有りすぎると思うんだ。この世界では戦争をしても殺しあう事は無いって言っただろ? 昔から道具としての鞭や短剣くらいはあった。後はよく使って棍棒までだよ。一体どこからああいう形や種類の知識を得たんだろうなって」

「確かに……」

 それは私も少し気になっていたところだ。

 第三階級、第二階級の上部の役付きが持っていた武器のほとんどは、殺傷能力が低い。だから、相手を殺さないというこの世界やヴァファムの女王の趣旨には合うと思う。しかし確かに種類が多すぎる。他にもまだ遭遇していない向こうの大陸にいる幹部もそれぞれ武器を持っているとすれば、その種類はまだ増えるだろう。それぞれの宿主の身体能力に合わせて上手く選んであるだけに、考えるだけでも恐ろしい。

 私にも多少の知識があるとはいえ、初めて実物を見るようなマニアックな物ばかりだ。一体何が来るのか予想もつかない。

 ヴァファムは知能が高く、生産性にも優れているとはいえ、そこまでの知識がどこにあるのか。そもそも歴史そのものが違うこの世界で、なぜ私の知っている世界の武器があるのか。

「まあ、工場に行ってみればわかるんじゃない?」

 ミーアがお気楽に言ったが、考え出すと空恐ろしい気がして来た。

 何か予想もつかぬものが待っているのではないだろうか。

 そんな気がするのだ。

 どうでもいいが、いつの間にルピアはまた猫になって私によじ登ろうとしてるんだろうか。

「おや、王様いつの間に?」

「うにゃん」

 うう……首を傾げるな。可愛いではないか。

 結局スリングに収まって、楽々旅の王様であった。



 長い道のりだった山越えを終え、何とか目的のサナの町に着いた。

 途中一晩は山の中でテントを張っての野宿だったので、今日は宿で泊まりたい……とは思っても、この団体では一つの宿は厳しいかな。耳かき部隊や兵達を置いて来たとはいえ、まだ九人もいるからな。

 武器工場も早く探し出して乗り込みたい。これも残念ながら既に夕暮れだ。

 今日は街中を見て回り、情報収集をしつつ休む事にした。

 予想外だったのが、街の様子が普通であった事だ。額に印のある者も、虚ろな目をした者もぱっと見では見当たらない。そんなに活気があるとは言えないが、穏やかでいかにも港町らしい風情の落ち着いた町並が目を引く。

 店も普通に営業しているようだし、物も豊富にある。平和そのものではないか。

「おかしいな。一番向こうの大陸に近いここは、既にヴァファムの手に落ちたと報告を受けていたのに」

 ルピアも納得がいかない様子だ。

「だがヴァファムの気配やニオイは結構あるぞ?」

 鼻の利くグイルも違う意味で腑に落ちないらしい。

 あまり団体で歩くのも不自然かと思い、四人と五人で二手に別れたのだ。こちらは私、ルピア、グイル、マナ。向こうには離れていてもルピアに動向の知れるミーア、リシュル、イーア、ゾンゲ、リールの組だ。例え何かあったとしても戦力的にもバランスが取れていると思う。港町だから、宿屋は多数あるだろう。朝、町の中央広場で落ち合う寸法になっている。

「この時間だからか、他の町同様、女子供の姿が見えないのは気になるところだが、ぱっと見は異常が無いな。とにかくどこかで休もう」

 ルピアの意見に異存は無い。

 少し歩き回って、軽い食事を済ませた後、私たちは宿屋を見つけて落ち着くことが出来た。

「美味しい魚が食べられて嬉しかった」

 ニャンコちゃんは満足そうである。私も最近肉系の食事ばかりだったので、焼き魚は嬉しかった。白い御飯があればもっと嬉しかったとは言わないがな。

「で? どうしてルピア様がこちらのお部屋においでなのでしょう?」

 よし、良く言ったマナ。

「え~、だって僕はマユカと寝るんだもん」

「馬鹿者。男と女で部屋を別れたではないか。さっさとグイルと同じ部屋に帰れ」

「馬鹿って言うな。何で僕が犬と同室で寝ないといけないんだ」

 ……久々に残念様を軽く背負い投げして差し上げた。

「着替えて寝る。ここは女の部屋。さあ、出て行け」

 しくしく言いながら、ルピアは部屋を出て行って、今日は平和な女だけのお部屋である。さぞよく眠れるだろう。

「仲がよろしいこと」

 マナさん、どこの世界に背負い投げで投げ飛ばす仲良しさんがいるだろうか。


 山越えの疲れもあって、私はかなりぐっすり眠っていたが、ふと部屋のドアが開いたのに気がついて目が覚めた。

 どうせルピアだろう。また夜這いに来たに違いない。

 隣を見ると、マナも目を覚ましたらしい。薄明かりで彼女と目が合ったが、黙ってそのまま二人で寝たフリを続けた。

 足音が近づいて来る。

 ふふ、そろそろ猫に変ってベッドに飛び乗ってくるぞ。ひっつかまえてやろうと思っていたが―――

「寝テルカ?」

「ああ、男の方も簡単だったが、こっちもよく眠っているみたいだ」

 え? 誰だ? しかも一人じゃない?

 薄目を開けた私の視界の隅で、窓からの月明りに光るナイフが見えた。


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