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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第一章 五種族の戦士編
35/101

35:馬鹿と言うな

 そのままルピアは地面に崩れ落ちた。

「ルピア!」

 防御魔法で守ってくれたのか?

 そういえば、前にゾンゲを庇ったときも代わりに苦痛を訴えたのはルピアだった。ひょっとして防御魔法というのは魔力でバリアを張るというより身代わりなのか?

 だとしたらお前、人に無茶するなとか言いつつ、一番無茶してるじゃないか。鍛えもしていないそのか弱そうな体で……子猫なんだぞ?

 そうだ、猫……猫にゃんなのだ。私が世界で一番愛する動物、猫。

 あの小さな子猫に棘付きの鉄球が当たるところを想像して、背筋が冷たくなった。見た目は人間の中身残念な男前でも、猫なんだ。

「余所見しているヒマは、ありません、よっ!」

 ぶん、と再び棘付きの球が襲って来たが、今度は楽にかわせた。先程私の渾身の膝蹴りをマトモに喰らって、コモナもかなりダメージを受けたようだ。重い攻撃はすぐよりもじわじわと利いてくる。あのスピードはもはや出ないようだ。

 そうだな、コモナ。余所見している間など無いな。

 今まででも相当この私を怒らせたお前だが、触れてはいけない部分に触れてしまったようだな。

 私の可愛い子猫ちゃんを痛い目に遭わせてくれたな!

 もう一度モーニングスターが、今度は横薙ぎに来た。横腹に受けると流石にヤバイ。慌ててかわし、手刀で叩き落そうと思ったが、先程攻撃を受けた手は動かせなかった。

 それでも私にはまだ一本の手と、二本の足がある。

 この武器は先が重い。一度力を籠めて振り抜くと、反動でなかなか体勢が戻せないようだ。特に今はコモナも弱っている。

 武器を持った手に踵落としを喰らわせると、鈍い嫌な音がしてトゲトゲの鈍器は地面に落ちた。

「きゃあ!」

 コモナから悲鳴があがる。

 すまんな、その細い腕が折れたかもしれん。宿主には気の毒だが、仕方あるまい。私も片腕が動かない。同じだ、これで。

「そろそろとどめを刺させてもらう」

 蹲ったコモナに近寄ると、初めて怯えた目で見上げられた。

「なぜそんなに冷静に……」

「この顔は鉄で出来た仮面だ。表情は変わっていないだろうが、私は怒っている」

 ちら、とルピアのほうに目を遣ると、先にルミノレアの寄生から解かれた鳥族の青年に抱き起こされていた。かなりのダメージを受けたのか、その表情は痛々しい。

 私が受けるはずだった痛みをすべて身代わりになって……。

「お前が女王を守るよう、私は私の仲間を守る」

 コモナレアは私のその言葉に、跳ね上がるように立ち上がった。

「寄せ集めの仲間などと女王を一緒にするな!」

 鬼女の様に迫力のある顔だ。

 勢い良く素手でかかって来たところを、背を向け痛いほうの手を上げて止め、殴りかかってきた腕をもう一方で掴んだ。

 そのまま体落とし。

 自分の勢いでくるりと綺麗に回ったコモナは地面に背中から落ちた。受身は下手だった様だ。

 間髪入れず、鳩尾に一撃。

 五人目の役付き、第二階級コモナレアを辛くも沈めた。

「マユカ! やったね!」

 イーアがよろよろと駆けつけて来たが、勝負がついたと思った瞬間に私は腕が酷く痛み出した。やはり折れはしていなくてもヒビくらいは入ったかもしれない。

「イーア、念のためもう一度そのお姉さんにビリビリってやってやれ。弱めにな。誰か、虫を取り出してくれないか?」

「了解しました!」

 声を掛けると、横で突っ立ったままだったデザールの兵が慌てて走って来た。

 他の兵に、村の外で待っている部隊を呼びに行かせ思わず座り込む。くそっ、痛いな。多分私はこんな時でも平然とした顔をしているから、余計な心配をかけずに済むけれど。

 まだ、この後本命の女王を何とかしなければいけないのに。

 皆、ボロボロだな。

 私よりマトモに喰らったグイルの腕は確実にヤバイ。イーアも元気そうだが足元が怪しかった。思いきり蹴り飛ばされていたからな。まだ動ける者といえば、ミーアとリシュルだけか。彼等とて無傷ではない。

 それに……。

「ルピア、大丈夫か?」

「うん、大丈夫だ。結構痛かったけど、マユカに当たらなくてよかった」

 ルミノだった男に支えられているルピアは比較的元気そうに見える。

「本当に済まなかった。ありがとうルピア」

「……マユカにそんなに素直な台詞を言われると……何か怖い」

 お前こそもうちょっと素直になった方が良いと思うぞ?

 突然、ふわっとルピアに抱きしめられて、何が何だかわからなかったが、頬に当たる猫っ毛が気持ち良かった。

「マユカの……馬鹿」

「ルピア?」

 おいおい、馬鹿に馬鹿と言われたぞ? 流石に今ルピアを投げるほどの体力は私も残っていない。庇ってくれとか言ってないのに、勝手にやっといて、その上馬鹿とくるか?

「もう! そうじゃない。マユカは無茶しすぎだって言ってるんだ。マユカが辛い目にあうのを僕は見たくないんだよ! 今だって痛いの我慢してるだろ? なのに……」

「別に我慢はしてない。痛いぞ? 顔に出てないだけで」

「やっぱり……馬鹿だ」

 バカバカ言うな。

 ありがとう、ルピア。お前はとても優しい。そして意外と勇敢だ。なかなか人の身代わりになどなれるものではないぞ。

「意外は……余計、だ」

 抱きついたまま離れないなと思っていたら、ルピアの体から力が抜けてくにゃんと崩れた。

「おい!」

 慌てて痛くないほうの手で支えたが、片手では押さえきれなくて一緒に地面に倒れた。

「ゴメン……魔力を使いすぎた」

 そうだな、色々頑張ったよな。この頃魔力の補給は子猫の姿でしかしていない。実際のこの人型の時の半分しか力は戻らないのだそうだ。

「魔力の補給、して?」

「ああ」

 今日は子猫に戻らなくてもいいかもしれない。このままで……。

 ご褒美だ、ルピア。私の可愛い猫。

 唇を近づけると、周りからものすごい視線を感じた。

「ほうほう」

「あら、やだ」

「盛り上がっておいでですね」

「子供は見てはいけません」

 全員に囲まれているではないか。ってか、リシュルに目を塞がれたイーアに、兵士から上着をぶんどって来たらしいミーア、ルミナレアだった男も、いつの間に開放されたのか、コモナレアに憑かれていた女まで身を乗り出して見ているではないか! しかももう村の外にいたメイドちゃん達もゾンゲも来てるし!

 そんな中で二人で折り重なって倒れてるって……なぁ。

「……ルピア、猫になれ」

 今回もしくしく言いながらラブリー子猫ちゃんに変ったルピアだった。


 ルミノレアに寄生されていた鳥族の青年はリール、コモナレアに寄生されていた女性はマナと言うらしい。二人とも同じサーカスの団員だったという。向こうの大陸で興行していたときに、その身体能力に目を付けられ上位幹部になった。

 コモナ……いや、マナの異常なまでの身体能力の正体は、何と異種族間の混血から生まれたものらしい。鳥族の母と蛇族の父を持つという。

「へえ、全く種族が違っても子供って出来るのだな」

 珍しくルピアまで知らなかった模様。

「数は少ないが向こうの大陸にはいなくは無い。特に鳥と蛇は相性がいいみたいだ」

 とは蛇族の王子様リシュルの説明。鳥の祖先は爬虫類だったんだしな。あり得なくも無いか。

「本当にすみませんでした」

 ド派手なチャラ男はすっかり真面目そうな青年に早変わりだ。

「他のサーカスの団員はほとんど向こうの大陸に残されています。私達でお役に立てるなら、一緒に戦わせてください」

 マナさんが力強く言う。

 確かに、この二人はいい戦力になるかもしれない。

 そして、ビンに捕らえられたコモナレア本体も観念して、残りの村人の行き先を吐いた。

「武器工場……」

「この村は農具の鍛冶職人の村。ある意味皆がプロだ」

 話を聞く間に、私やグイルの治療も終わった。二人とも手首の骨にヒビが入っていたようだ。治癒魔法で少しは痛みが癒されたが、添え木をしてもらい簡単なギブスみたいになっている。

「村人を取り戻すのと、ヴァファムの武器工場が一度に押さえられるのは良い事だ。だが、まずは小女王だな。ここを制圧しないと、あの幼虫達がまた新たにばら撒かれればせっかく解放した町や村がまた元に戻ってしまう」

 ルピアの言葉に誰も異存はないようだ。

 というわけで、早速全員で館に突入。

「女王は抵抗はしないだろう。しかし、恐らく外科的な手術をしないとヴァファムと切り離す事は出来無い。卵を産まなくなった女王の虫は寿命が短い。寄生している状態でヴァファムが死ぬと宿主も危ない。女王は救えないかもしれないが、せめて宿主だけでも。急いで設備の整った町へ連れていかないと」

 何時になく真面目な口調でルピアが説明した。ちなみに子猫ちゃんモードでスリングの中である。

 確かに、完全に手の届かない体内にいる女王を取り出すには、相当の設備のある病院で外科的な手術が必要だろう。

 この世界の医療水準がどうなのかはわからないが、医師が簡単な治癒魔法を併用する事から滅多な事は無いだろう。先程自分も治療してもらい実証済みだ。また、町の様子から見たら日本で言う昭和初期くらいのレベルの設備はあると思う。

「問題はどうやって女王を連れ出すかだ。まだ孵っていない卵や幼生がいる。簡単には諦めないと思う」

 私が言うと、ルピアが子猫の手で小さなビンを差し出した。いつもの虫捕獲用のビンではなく、もっと小さな小さな青い瓶。

「これを使おう。眠らせてしまえばいいかもしれない」

「それは?」

「手術なんかに使う麻酔の一種だよ。ヴァファムにはどうなのかわからんが、人体には悪いものじゃない」

 笑気ガスみたいなもんかな。ここで素朴な疑問。どこから出した……でなくて。

「思うのだが、なぜ他の者にもそれを使わんのだ? 便利なものがあるのなら、ここまで苦労して戦わなくてもよい気もするのだが」

 ルピアにゃんこは目を細めて言う。

「さっきも言ったけど、人体には影響ないとはいえ、ヴァファムには毒かもしれない。恐らく女王は体も大きくて他の者に比べて丈夫だろうから今回使うが、下っ端や半端な幹部では殺してしまうかもしれないから」

 そうか。基本絶対に殺さないのだったな。

 お優しい事だ、王様。そういう姿勢だから付いていけるのだがな。

 村人はまだ体内にいるのが幼生だからか完全に意識を乗っ取られておらず、抵抗もしなかったので、耳かき部隊に任せて私達は真っ直ぐに女王の元に向かった。


 再びの女王の部屋。

 甘い匂いと薄緑の光の森のゆりかご。

 女王に精を送っていた男が僅かに抵抗して来た。それはリシュル、ミーア、イーアに簡単に伸された。

 天使の様な女王はベッドから起き上がることも無く、私の話を聞いた。

「そうですか……コモナもルミノも……」

 美しい顔を悲しく染めて、エルドナイアは涙を流した。そして、覚悟を決めた様に、差し出した小瓶の蓋を自ら開けた。

「教えて。私はいい、でも子供達はどうするの? 殺してしまうの?」

「大丈夫。殺したりしない。必ずちゃんと保護する。今までだって一体のヴァファムも殺してはいない。人に寄生し、操りさえしなければ憎い存在ではないのだから」

 わかってくれたのだろうか? 眠りの煙を吸い込んで、目を閉じる間際、微かにエルドナイアは微笑んだ気がした。


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