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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第一章 五種族の戦士編
34/101

34:明けの明星の恐怖

 釘バット。

 本来、清く正しい青少年がスポーツに使う神聖なる道具を、全くもって清くも無い悪い子ちゃん達が、喧嘩や制裁用に正しくない改造を加えて作り出した現代のフレイル。

 ホンモノの拳銃や刀を持っている指定暴力団のお方の捜査は、組織犯罪対策課の方々のお仕事なので、窃盗犯や傷害事件が主の私がいた一課が行く現場では、学生や族の諍いレベルだったこともあり、そう言う場所でお目にかかった事がある。

 野球のバットに複数の釘を打ち付けただけの物なのに、その威力は半端ない。

 当たると打撲プラス裂傷が必至なのは、モーニングスターと釘バットは同じである。コモナが今持っているのは伸縮式と言う事で、比較的コンパクトで軽そうな造りだが、あのスピードに力を載せて殴打されると、先の小ぶりな球形から飛び出した棘は相当威力がありそうだ。

 全長は五十センチほど。先は直径五~七センチ程の小さな球体に無数の長い棘が生えた形。金属製のようだ。

 ……ってか、幾ら小さく収納出来ると言っても、あんな重そうな物、よく胸の谷間に挟まってたなぁ。エプロンをしてるのでそう目立たなかったけど、よほど豊満なお胸なのだな。うらやましい……いや、そんな事はよい。

 釘バットと同じように対処するとすれば、まずは手元か柄の部分を狙い、落とさせるのが優先事項だな。

「ミーア、リシュル、さっきの感じでいこう」

「よし」

 コモナレアはこのとんでもないスピードから攻略していかないと、勝機を掴めないと思う。撹乱させ、隙を作るしかこちらに流れを向ける方法は無いと思われる。

 ちらっとグイルとイーアを見ると、二人も頷いて合流はOKみたいだ。相打ちは怖いが、こうなったら全員参加だ。波状攻撃でいこう。

 私達が動くと、コモナはどちらにも対応出来るようにか、一見突っ立ったままに見える。五人で囲むように散って側面に得物を持ったミーア、リシュルがそれぞれ控える。グイルは背面、私とイーアが前方に出る。

「よろしくてよ。全員でおいでなさい」

 自信満々だな、コモナレア。

 確かにそれだけ強いんだけどな。今までの他の幹部もそれぞれ強いとは思ったが、コイツは桁違いだ。

 まず動いたのはミーアだった。鞭でモーニングスターを絡めるように振るったが、あっさりかわされる。かわした先をリシュルの三節昆が足元を狙うように放たれる。これもぴょんと高く飛んでかわされ、着地点へ私が蹴りを入れに行ったが、これも掠める事無く後ろへかわされた。

「よしっ!」

 グイルが勢い良く拳を入れ、決まったかに見えた。だが、目にも止まらぬ速さで振り返ったコモナは、その拳に武器を振り下ろした。

 嫌な音がして、グイルの声が聞こえた。

「ぐあっ!」

 それでも、一瞬でもコモナから目を離す事は出来無いので、他の者が攻撃を仕掛ける隙を見て間断なく攻め続けなければならない。

 グイルに武器が振り下ろされたその瞬間を狙って、イーアがコモナに触れることに成功した。

「ひっ!」

 ばちっとフラッシュを炊いた様に辺りが光った次の瞬間、イーアの小さな体がぽんと飛んだ。蹴り飛ばされたみたいだ。

 しかし流石のコモナもイーアの電撃は少しは効いたみたいだ。僅かによろめいて動きを止めた隙をついて、ミーアの鞭が背中にヒットし、同時に私の中段蹴りも入った。

「よくも……!」

 華奢な体に似合わず、それでも倒れないコモナは、片手で思いきりモーニングスターを振り回した。ミーアは上手く避けたように見えたが、もう片方の手が鞭の先を掴んでいた事に気がついた時には、球体から生えた棘がミーアの胸の辺りを掠めていた。

「きゃあ!」

 悲鳴が上がってヒヤリとしたものの、直撃はしていないようで良かった。だが、数秒後、味方は意外にも大きな精神的ダメージを食らった。

 ミーアが鞭を放して飛び退き、着地したと同時に……。

 ばらん。

 細めの紐の様なもので首から吊り下げられていた、ミーアの胸を覆っていた布が見事に捲れ、たわわなお胸がぽろり。

「おおぅ!」

 今、声をあげたのはデザールの兵士達か? ルミノに寄生されていた青年も? なんかルピアの声も混じっていた気がする。

「いやあああっ!」

 胸を押さえてしゃがみ込んで、ミーア脱落。

「ホホホ、女はこれがあるから面白いの」

 高らかに笑っているコモナ。お前も女だろう!

「大丈夫か、グイル、イーア?」

 グイルは腕を押さえて蹲ったまま立てないでいる。皮の籠手を着けていたのに、それすらも貫通したようだ。暗い中でも血が見える。

 イーアは一見怪我は無いみたいだが、こちらも小さな体が飛ぶほど蹴られたのだ。無理はしないほうがいい。頑張ったしな。

 グイル、イーアも脱落で、残るは私とリシュルだけだ。そのリシュルも、先のウサギ戦で僅かなりとも腕を負傷している。動きにいま一つキレが無いのは、慣れない三節昆を持っているだけでは無いだろう。

 つまり、ほぼ無傷なのは私一人というわけだ。

 戦士の鎧を過信するのは良くないとわかっていても、私は多少のダメージには耐えられる。これ以上仲間を減らすのは避けたいし、一刻も早く女王を捕らえるためには、少しでも戦力は温存したい。見た限り女王自身は戦うような相手では無かったとはいえ、まだ奥の女王の近くには雄のヴァファムに寄生された男性も数人いる。

「リシュル、私が一人で行く。いよいよになったら頼むが、お前は最後に残っていてくれ」

「しかし……」

「任せろ。何だか行けそうな気がする」

 目の前でコモナに味方を三人やられた。この細っこい女に。私もそろそろキレてもいいかなと思う。

「行くぞ!」

 私は思いきり正面からコモナにかかって行った。

 ぶん、と振り回される鉄球を、手の甲であえて受け、その痛みに耐えて脇腹に至近距離から膝を入れた。細いウエストが軋むほど力を籠めて。

「なっ……!」

 攻撃を受けて、棘が刺さった左手は正直動かせないくらい痛い。骨までいったかもしれない。だが、ここまで動きの早い相手を一瞬でも留めることが出来るのは、自分が攻撃を受けた時しか無いのだ。

 今の今まで捨て身になれなかった事を先にやられた者達に申し訳なく思うが、私だって人間だ。勘弁して欲しい。

 蹴りが決まったコモナはよろよろとよろめいたが、まだとどめは刺せそうに無い。蹴りあげて落とそうとした武器はすかざすかわされ、もう一撃、思いきり腿にくらった。鎧で防御されていない、剥き出しの腿。

「マユカ!」

 衝撃はあったが、刺さった感触は無かった。

 微かに攻撃を受けた箇所が光っている。これは……。

「無茶……しないで」

 私の代わりに倒れたのはルピアだった。


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