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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第一章 五種族の戦士編
32/101

32:デブでは無い!

 軌道が見えるのは有難い。

 なんとか人の表情程度は読み取れる程度の夕刻の薄暗の中、細い紐は全く見えず、ほとんど勘だけで戦っていた所に灯りが点った気がする。

「ふん、見えたところで変らないよ」

 ルミノは余裕の声だ。

「マユカ、一瞬でいいから、あの紐をさっきみたいに止められる?」

 イーアが小さく呟いた。何か考えがあるみたいだな。オチビさんだがなかなか頭の回転も早いしな。

 よし、では頑張ってみるか。

 下段に薙刀を構え、じりじりと近づく。

 ひゅん、と音がして流星錘が飛んで来る。軌道が見えたから紙一重でかわせた。外れてもそう悔しがらないところをみると、牽制だったのかもしれない。

「お姉さんさぁ、なんで顔色一つ変えないんだろうね? 行動を読み辛いったらありゃしない」

「読まれん様にしているのだ」

 嘘だけどな。ワザとじゃないから。私の顔は形状記憶合金だから。まあ役には立っているんだろうと納得しておく。

「女の子が怖がる顔って可愛いのに」

「可愛くなくて悪かった」

 ああウザい。お喋りはこの辺にしてもらおう。うるさい男は嫌いだ。男なら黙って拳で語れ……とまでは言わないけど。

 思いきり斜めに薙刀を振り上げると同時に、光る錘がその名の通り流星のように迫ってきた。

 私が刃を返してそれを防ぐと、すぐさま回収してルミノは第二陣を放つ。よし、続けざまに放つと勢いが失せるのが振回し系得物の特徴だ。狙い通り今度は少しだけ威力が落ちていそうだ。

 紐をわざと手首で受けて巻きつける。薙刀の方に気を取られていたルミノは予想外という顔をした。

「あらら、何やっちゃってんの?」

「黙れ」

 ぐい、と思いきり引かれたが、下半身に気合を集中して耐えた。

「わぁ。重いねぇ、お姉さん」

「女性にそれは言ってはならんぞ!」

 ちょっとムカついたので、反対に引っ張ってやるとルミノはわりと簡単に引きずれた。コイツ、本当に軽い男だな、中身だけじゃなくて体も。

 後から聞いたところによると、鳥族は皆見た目より体重が無いらしい。元々鳥も空を飛ぶために骨の中が空洞に近くなっていて軽くできている。それと同じでそのまま進化した彼等は、自分の翼で体を浮かせられるほど軽いのだそうだ。ちなみにほぼ同じ身長のミーアは、私の三分の二しか体重が無い。

 ……どうでもいいけど。

「イーア」

 ほい、と流星錘を渡すと、イーアはにこーっと何とも言えない満面の笑みを見せた。

「最大出力っ!」

 紐の先を握ったイーアが力を入れたと思うと、紐がつつつと順に光って、ルミノの手元に伸びる。

「ひぃっ!」

 暗い中で、悲鳴を上げたルミノが激しく光った気がした。

 なるほど、電撃には直接触るだけでなく、こういう使い方もあるのか。

 わあ、効いたよね。これは効いただろう。

 がくっとルミノが膝をついたところを、私はすかざず捕まえに行く。こいつは軽い。投げ技ではそうダメージが与えられない。

 まだルミノは微かに帯電していて、私までびりっと来たが我慢だ。ルミノは抵抗してこない。そのまま横四方で固めると、案外あっさり押さえ込めた。

「マユカ、また男とくっつく! ダメだろ? はしたないよ」

 残念な王様が残念な事を仰っているが、これは技であって私だって好きでくっついておるのでは無いわ!

 さて、押さえ込みに入ったのはいい。しかし柔道の試合と違い時間で一本とはいかないのが実戦。どうやってとどめを刺すかな? このままもういっちょ電気でビリビリやってもらうのもアリだが、私も一緒に痺れるしな。

 そんな私の考えを読んだのか、ルピアが近寄ってきた。

「僕が羽根を全部むしってみようか?」

 ルピアは爪を思いきり伸ばして真顔で言っているが、それは止めなさい。鳥族の羽根をむしるって、ユング様の脛毛と胸毛をむしったのとはワケが違う。解放したあと、寄生されていた宿主にあまりに気の毒だ。

 逃れようと私の下でルミノが身を捩りはじめた。

「放せ! どけよこの重い女っ! デブっ!」

 コイツはー! 本当に腹が立つな。言っておくが私はそんなに太ってはおらんぞ! 確かに筋肉は結構ついてるから普通の同じ様な体型の女子よりは重いかもしれないけどな。筋肉は油より重いのだ。

 ルミノに言い返す声は私でなく横から聞こえる。

「僕のマユカに失礼だぞ! マユカはデブではない。腹筋割れてるんだぞ!」

 ……ルピア、いつ私の腹筋を見たというのだ。

 フフフ、後でゆっくり撫で回してくれるわ。勿論子猫ちゃんでな。

 それより気になるのが、玄関に突っ立ったままのコモナレアだ。味方が窮地に陥っているというのに、ただ見ているだけで助けにも来ないし、何も言わない。奴を引きずり出すにはまずこのルミノレアを何とかしないとダメか。

「まあいい。さっさとおねんねしてもらおうか、チャラ男。グイル、さっきのお返しをしてやれ」

 待ってましたと、グイルが走って来た。せえので私が退け、すかざず腹にグイルが全身の重みをかけて肘を入れる。

「ぐぁ!」

 一人目の第二階級撃破!

 ……同じ第二階級のユング様はもっと強かったぞ。ウサギも。意外と楽勝?

「ルピア、耳かきお願い」

「ムカつく奴だから爪でやっていい?」

「血が出たら宿主が可哀想だからダメ」

 ちぇ、と舌を鳴らしてブツブツ文句を言いながらも、律義に正座して耳掃除をするルピアはちょっと可愛い。暗くても猫族はよく見えるそうだからこういう時は便利だな。

「やっぱ第二階級の虫は大きいなぁ」

 ルピアは黄色のデカイ虫を耳から引きずり出して、ビンにしまうと、膝に乗っていた男の頭が地面に落ちてごちんというのも構わず早々に立ち上がった。

 その衝撃で、寄生されていた男が正気に戻ったのか目を覚ました。

「あれ? えっと、僕は何を……?」

 おや、随分と印象が変ったな。大人しそうな喋り方だ。ユングの時の警察署長のような例外はあるとしても、どうやら役付きのキャラはヴァファム由来のもののようだ。そう思うと個性的だな、虫のくせに。

「ルピア、もうその人に罪は無い。安全な場所に連れて行ってあげろ」

「え~? 男と待ってるなんて嫌だな」

 ……何時になったらその残念さから卒業できるのだろうな、ルピア。

 さて、動かずに居てくれたのは大変に有難いのだが、こうも無視だと余計に気になるもう一人の第二階級。

「おい、コモナレア。ルミノレアは捕獲したぞ。助けようとか、協力しようとか何とも思わないわけ? 一応同じ親から生まれたんだろう?」

「何とも思いませんね。ルミノに体を生かせる実力が無かっただけ。そのような無用な役付きなど、女王様のお役に立てません。排除していただき感謝したいですね」

 うわー、コイツ……引くわ。

 無表情でよくもその様な事をしれっと言うな? 私が無表情とか言うなというツッコミはいらん。

 同じ第二階級でもまだ熱血ユング様やチャラ男の方がわかりやすくて、虫とはいえ個性的でいっそ好ましかった。それとも同じ女だからだろうか、このコモナは物凄く虫が好かんタイプ。

 ……虫に対して、虫が好かんって言うのも変だというツッコミもいらん。

「仲間意識とかは全く無いんだな」

「無いですね。私の使命はただ大女王様のお役に立ち、エルドナ様をお守りして沢山の同胞を産んでいただく事のみ」

 おい、ビンに入れられちゃったルミノレア、聞いたか? 冷たい奴と組まされたものだな。お前の敗因は何よりも仲間に恵まれなかったことだ。

「アタシ、この女キライ」

 ミーアが出て来た。ああ、私も嫌いだな、こういうのは。

 まだ短い付き合いだが私達はもうすっかりチームになっている。互いを信頼しあっているからこそ一緒に戦える。もし一人でもコモナのような考えの奴がいたなら、既にどこかで負けていただろう。種族も何も違う戦士達も、そして生まれた世界すら違う私でも仲間だと思う。誰かが危なかったら助けに行くし、助けを求めるだろう。

 そう思うとルミノレアも少々気の毒だな。

「ではコモナレア、どうする? エルドナ様を守るために今度はお前が戦うのか?」

「勿論です。役立たずが止められなかったのですから、私が出るより無いでしょう?」

 きん、と空気が凍りついた気がした。

 まただ。コモナレアの気配が違うものになっていく感じ。最初は地味な女だった。次に迫力のある女に変った。この上更にまだ変るというのだろうか。

 この女を戦いの場に引きずり出しさえすれば、その隙にデザールの兵や残りのメンバーで小女王はともかく、中にいる幼生に寄生されている村人を確保してもらえる。

 その前に。

「ああそうだ。お前にはまだ聞かなければいけない事があった。ここにいる以外の村人は違う所にいると言ったな。何処に連れて行った?」

「ふふ、私を倒してから聞き出されたらいいでしょう。力ずくでね」

 コモナレアの華奢な体からすごい殺気が立ち昇るのを感じた。

 こいつはチャラ男どころでない相手みたいだな。


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