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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第一章 五種族の戦士編
3/101

3:伝説の戦士

「起きろ」

 そんな声で意識が浮上した。誰だ。乙女の眠りを邪魔する奴は。掌底打ちでアバラ折るぞ?

「……乙女は寝起きにアバラを折るなどと思わないだろう」

 呆れたように言うのは、どこぞの声優の様ないい声ではないか。しかし、何故男の声が?

 恐る恐る目を開ける。

「目が覚めた?」

 私は目を開けたな? だが何故、超至近距離に男の顔がある? しかも見たことも無い様な男前だ。まだ夢を見ているのだろうか。よし、もう一度起きるところからやり直しだ。そう思って目を閉じると、すかさずまた声がした。

「おい、夢では無いぞ」

 チョイ待て。この男、私が考えている事まで読んでいないか?

 慌てて飛び起きると、金髪の男前はぶつからないようにすっと後ずさった。その身のこなし、なかなかのものだな。

 ざっと見渡したところ、私の部屋では無い。天井も床も眩しいほど白く、どこぞの宮殿の様な彫刻のある柱が見える。やたらと広くて豪華。その真ん中に私が寝ていた石の台がある感じだ。なんだここ。新手のラブホ?

「……ここは何処だ?」

「僕の城だけど?」

 城? ここのオーナーか何かか?

「……貴様、何者だ?」

 刑事スキャン始動。身長百八十センチ強、股下はムカつくほど長い。中肉よりやや痩せ型、推定年齢二十~二十五。性別男性。肩ほどの髪は見事な金髪でゆるいウエーブ、目は深い緑。彫りの深い顔立ちや色白から明らかにアジア系民族ではない。服装は白のドレスシャツに細身のグレーのパンツとシンプルだが上品。

 最近、外国人の犯罪者も多いからな。こんな優男風なのにどこかの組の用心棒だろうか。この私を拉致るとはいい度胸ではないか。

「僕の名前はルピア・ヒャルト・デザール・コモイオ七世。君をこのデザール王国へ召還したマスターにして王」

 金髪美形はそう名乗った。

「ご大層な名前だな。七世と呼べばいいか?」

「……いや、出来ればルピアと呼んで欲しい」

 そうか。外国の者は苗字と名前が反対なのだな。そういう問題では無いというツッコミはいらん。

 王国へ召還とか言ったか? えらく規模の大きい事を言ってるな。私に挙げられた犯罪関係者や窃盗犯の縁故で無くて、国際テロ組織とか? いやいや一介の県警の刑事なんぞを幾らなんでもそんなはず……

「おい。酷く冷静にまるっきり見当違いな事を考えてるね」

「貴様、人の頭の中を読めるのか?」

「ああ。僕は君のマスターだから」

 ……マスターだと? SとかMとかそういうご趣味の方? イッちゃってる? 王子様みたいな見た目なのに残念な……。

「残念なのは君だよマユカ。僕と契約の口付けを交わしたのを忘れた? 自分の口で名を教え、自ら口付けをした地点で契約完了だ」

「口付けだと? 貴様とか? 私が?」

 こんな外国人の男前とキスなどした覚えは無いぞ? キスしたのは子猫ちゃん。

 ハッ! そういえばあの可愛らしい子猫ちゃんはどうした?

「思い出したか?」

「私がキスしたのは金ぴか子猫ちゃんだ」

「あれは僕だ」

 はいいいぃ? やっぱりコイツ、頭の可哀想な残念君か?

 残念君はちょっとムッとした顔をしたと思ったら、突然しゃがみこんだ。次の瞬間には残念君が消えて、みゃ~と声がした。

 ぱふぱふ。私の足に爪を立ずに猫パンチしてるのはあの金ぴか子猫。

「これなら信じてくれる?」

 多分、混乱した私は無表情のまま口をパクパクしてただろう。そんな私を他所に、また子猫が消えて、残念君が立ち上がった。

「子猫にゃんはっ?!」

「だから僕だっつーの。さっきのも僕」

「な……」

 子猫にゃんが……。

「現実を受け止めたまえ、マユカ。第一、君は自分の姿を見て何とも思わないのか?」

 自分のって。鏡あるわけでなし……ん? 私はパンツスーツを着てたよな? なんで足がこんなに露に? 腕もだ。肘や膝に皮の防具みたいなものが。それに若い子が履くような毛皮のブーツなんぞ持ってないぞ?

「鏡を見てみる? こちらへどうぞ」

 言われるがままに立ち上がってついて行くと、白い壁の一部が巨大な鏡になっていた。そこに映る自分の姿は――――。

「……何だ、これは」

 顔はいつもの無表情な私だ。限りなく水着のような覆う所も少ない、皮の服というより鎧に、丸出しの太もも。二の腕には片方腕輪。肩、膝、肘から先には防具っぽい板、脛は毛皮で覆われている。そしてあまり趣味のよろしくない額の飾輪。白いマントってどうよ?

 ……一言で言うと映画のアマゾネス。我ながら本当に無愛想で無表情な顔の横で、満足げに笑う残念君七世の姿。

「勇ましい女戦士ではないか。なかなか似合う」

 さて、問題です。

 誰がこの鉄仮面の修羅を脱がせ、このような悪趣味なコスプレをさせたのでしょうか?

 ソイツ殺ス!

「いやいやいや、待て。脱がしてないし。王国に召還した際に伝説の戦士の姿に勝手に変わったんだし」

 ちっ。また人の考えを読んだな。超能力でもあるのかコイツ。

「伝説の戦士って何だ? 召還? 帰せ、今すぐ私を家に!」

「それは無理だ。僕との契約を果たさないと君は帰れない」

 契約だぁ? 契約書も書いておらんし約款も何も読んでおらんぞ。契約前説明は必須ではないのか? クーリングオフは? 消費者センターに連絡だ!

「落ち着け。これから長い説明をしなければならない。でも君が選ばれた事は間違いでは無い。数々の戦士の条件に全て適応出来たのは人間界で君だけだった。故に僕は君を選んだんだ」

 数々の条件をって……勧誘詐欺のお兄さんみたいな甘い言葉を、潤んだ瞳で男前に言われてもな。

「条件その一、女である。二、独身である。三、捨てるものが無い。四、表情で相手に気持ちを悟られない。五、素手で自分より大きな相手でも倒せる。六、黒髪である。七、冷静である。八、人に恐れられる存在である。九、身長が百六十七センチである。十、何よりも猫が好き……この全ての条件を満たすのが、まさに君。完璧だ」

 おい、その他はまあよいとして……いや、良くないが……最後の方の身長って何だ。何故そう細かい。まさに私は百六十七だが。

「あー、それはその戦士の鎧の都合上だな」

「……縦に伸縮しないんだな」

 どんな条件だ。後から取ってつけたように私にぴったりでは無いか。だが世界中探せば何人もいる気もするぞ?

「後から考えたのでは無いぞ。古文書にちゃんと書かれている」

 私は現実主義者だ。例え目の前で金髪美形が子猫に変わろうと、人の考えを勝手に読もうと、自分がとんでもない格好をしてようと、こんなの――――。

「これが現実なんだよ、マユカ」

「むっ……」

 認めざるを得ないってか?

「……わかった。契約の内容を聞こうではないか」

「物分りいいじゃないか」

 優雅に笑うな、残念七世。

「その前に一つだけ」

「何でもどうぞ」

 私は無言でクソ長い名前の残念君七世を一本背負いで沈め、崩袈裟固で押さえ込んだ。

 子猫の姿だったらやらなかったのにな。本当に残念だ。


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