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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第一章 五種族の戦士編
29/101

29:二人の第二階級

 目の前の地味な女が、徐々に美女に変っていくみたいな妙な感覚がある。

 先程まで『印象が薄い』というのが最大の印象であったのに、気圧される様なこの存在感。だが殺気は感じ無い。本人が言うように、ここで戦う気は無いのだろう。

 しかし、面白く無いことを言いやがったぞ、こいつ。

 他の種族を根絶やしにしない? 共存だ? それは慈悲だから感謝しろだと? 秩序ある平等な世界だと?

 ふざけるな。

 食料は配給制、清潔な居住空間、規則正しい生活。ある意味素晴らしいかもしれない。だが、他の者に寄生し、意識を乗っ取る事は平等か? 肉体的に弱いお年寄りや幼い子供を家族から引き離し『飼う』のが慈悲か?

 私から見れば狂ってるとしか思えない。

 今すぐにでも殴りかかりたいくらいだ。しかしここは我慢だ。早まった事をして、貴重な情報源を失うのも嫌だしな。

 ミーアも同じ考えの様だ。私の肘にしがみ付いている手に力が篭っている。それでも我慢しているこの娘は頭の回転が速い。熱くなりがちな男共を置いてきて良かった。

「コモナレア……さん? あなたは第二階級の役付きか?」

「ええ。こちらの小女王エルドナイア様と同じ大女王から生まれました」

 ほうほう。こちらの女王様はエルドナイア様というのだな。そして、以前会議で聞いていた通り、小女王は下っ端から監視程度の下層を、大女王が役付きの精鋭を産むのか。ということは、今まで倒してきた役付きも全て大女王の子ということ?

 人類皆兄弟……う~ん、どこかのスローガンを地で行くとは。

 何かキーンと音とも呼べぬものを感じた。コモナレアがはっと顔を上げたところを見ると、虫の言葉だったのかもしれない。

「女王が会いたいと仰っておられます」

 いよいよ会えるのか、女王に。

 うう、しかし卵産むところは絶対に見たくないな。幼虫も……。

 そうげんなりしつつ、私が奥の螺旋の階段の方を向くと誰か降りてきたのが見えた。一瞬、女王が自ら来たのかと思ったが、違うな。

 横でわぉと小さくミーアが言ったのが聴こえた。

 降りてきた者が、コモナレアに向かって言う。

「おい、コモナ。おかしな者をエルドナ様に近づけてはいけないよ」

 若い男だ。一見地味な女に比べ、こちらは随分と派手な奴だ。

 刑事スキャン最速で再起動。

 年齢はコモナレアと同じ位か少し下、身長百八十~八十五センチ、非常に細身。ムカつくほど長い股下。とんでもなくスタイルがいい。腰ほどもある長髪は鮮やかな青で一部緑と黄のメッシュというド派手配色。顔はやや女っぽいが整った美しい造詣。ノースリーブのシャツの腕から覗く長い腕には、髪と同色の羽根がついている。

 そして額にはやはり複雑な模様がある。こいつも役付きか!

「アタシと同じ鳥族だ」

 ミーアが漏らした。うん、それは私も見てわかった。もしあの羽根が作り物の飾りだったら、踊りながら「スター!」とか叫びそうだもん。

 面白くなさげにコモナレアは鳥族の男に言う。

「そのエルドナ様がお呼びなのだ。邪魔をするな、ルミノレア」

 レア。この鳥のド派手兄さんも第二階級。かなりの上位の役付きが複数いる事は予想の範囲内だが、ユングレアで苦戦した通り、第三階級と第二階級の強さは段違いだ。まだ他にもいたりするのかな? 早くも先行きが不安になってきたぞ。

「お優しいエルドナ様は、説得してどうにかなるとお思いかもしれないが、ユングもグレアもフレイもこの女に倒されたのだぞ? 話して済むような相手ではあるまい」

 仰る通りでございますよ、ルミノ様。内心ぶちキレ寸前なんだ。

 だが流石にミーアと二人だけで、素手で第二階級二人を相手に立ち回りする気は私にだって無い。それに……。

「お前たち二人の他にも役付きがいるのか?」

「ふん、探りにかかってるのか? 安心しろ、俺達だけだ。ここにはな」

 何だ? 意味深な事を言う。他にも役付きがいるという事ではあるのかな?

 再びきーんという音が響いた。

 ルミノが無言で頷いたところをみると、やはり虫の言葉なのだろう。

「ちっ、エルドナ様が早く来いとお呼びだ。コモナ、先に行け。俺もコイツ等が暴れないよう着いて行く」

 むう、監視が増えたか。仕方あるまい。

「ではこちらへ」

 階段を上がるのかと思ったが、予想に反してコモナは屋敷の奥へ進んだ。階段横のドアが開かれると、上質な絨毯の敷かれた広く長い廊下に出た。T字になった突き当りを曲がるとドアが幾つか並んでいる。

「お静かにお願いします。まだ生まれたばかりの子が沢山おりますので」

 幼虫さん達のお部屋ですか。見たくないので静かに従うことにする。

「うう……」

 ドアの前を通る時、部屋の中から何か聞えた。人の呻き声?

「人がいるのか?」

「ああ、下の村の人間だ。食欲旺盛だからな、チビ達は」

 ルミノから不穏な言葉が聞えた。まさかな。幼虫が人を食うとかホラーな想像をしてしまったが……。

「村人を殺したりはしないから安心しろ。これ以上無い位の待遇だぜ?」

「ご覧になればわかること」

 うえっ、その……正直見たくは無いんだけど。

 だが、村人がここにいるなら、無事を確かめるのは必要かなと思い直す。

 ノックもせずにコモナレアが一つのドアを開けた。

 中はこれもヴァファムに相応しく清潔とわかる空間だった。ピンクの小花の壁紙も可愛らしい、天井の高い部屋。壁に取り付けられたランプが明るく部屋の中を照らしている。確かに待遇は悪くは無さそうだ。

 窓辺のテーブルに小綺麗な服を着たそこそこ若い男性と女性が向かい合って座っていた。夫婦かな? ぱっと見ても犬族とわかる獣耳。一見穏やかな食事風景だが、部屋に私達が入っても、こちらも見ない所はやはり不自然だ。寄生されているのだろう。

 テーブルには豪華な食事。どう考えても二人が食べるには多すぎる。

「……まだ、食べるの? そう……」

 女性の方が呻くように言って、苦しそうな表情でフォークを口に運び続ける。男性の方も苦しそうだ。

 辛いな、食べたくないのに食べなきゃいけないというのは。

「幼生達がお腹を空かさない様に、しっかり食べてくださいね」

 コモナレアの笑顔が不気味に見えた。

 部屋を後にして、確かに待遇は悪くは無いと思いつつも、嫌な感情が残った。幼虫が見えなかったが、村人達の体内が子育てに使われているのだろう。何と言う恐ろしい事を……。

「村の人は全員ここに?」

「若い健康な者だけです。村は年寄りが多かったですからね。彼等には他の所で奉仕していただいてます。一人も死人は出ておりませんからご安心を」

 安心出来るか! やはり、コイツ等の言う秩序や平等というのは、人の暮らしには相容れないものだ。

 住む世界は違っても、他の猫や犬、鳥、蛇、魚……どの種族も考え方も生活の仕方も私は理解できる。だが、ヴァファムは違う。違いすぎて理解など到底出来無いし、賛同出来無い。その事だけはハッキリ言える。

 ミーアが飛び出しそうになるのを無言で制した。

「マユカは平気なの? あんなのっ……!」

「平気じゃない」

「だってこんな時まで顔色も変えないなんて」

「こんな顔だ」

 役付き二人にしーっとやられ、ミーアが舌打ちをした。

 気持ちはわかる。私だって本当は今すぐにでもこの二人に殴りかかりたい。投げたい、蹴り飛ばしたい。

 だがまだだ。まだこの先に女王がいるのだ。

 今、感情に任せて先走ったら駄目だ。私がまだ新米刑事の頃、藤堂さんに現場で怒鳴られた。多くの人の命を守ろうと思うなら、結局『間に合わなかった人』になりたくないなら、自分の一時の激情を抑え、大局を見据えろと。

「ふうん、異界の女は本当に冷静なのだな。ってか冷酷?」

 ド派手鳥男にバカにするような口調で言われた。

 またキレそうになるのを必死で堪え、二人の役付きに挟まれて廊下を進む。廊下は灯りが点されていて明るいが、窓から見える外はもう完全に日が暮れて夜の様相だ。

 廊下の突き当り。大きな他よりも豪華な扉。

 コモナレアがそっとドアをノックした。

「エルドナ様、異界の女戦士とその仲間を連れて来ました」

 この扉の向こうに小女王、エルドナイアがいる!

 しばらくの沈黙の後、声が返って来た。

「お入りなさい」

 ハープをかき鳴らす様な、美しい穏やかな声。

「俺はここで待ってる。この先は選ばれた男しか入れない」

 ルミノレアが僅かに怯えた様に後ずさった。どういうことだと聞きたかったが、口を開く前にドアが静かに開けられた。

 そして私は、女王の部屋に踏みこんだ。


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