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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第一章 五種族の戦士編
23/101

23:夜の散歩

「まことに申し訳ございませんでしたああああぁ!」

 耳じゃなくて鼻から大きな虫が出てきたユング様こと、リア市警察署長ラングさんは巨体を小さく畳んで土下座モード。

 ……本名も似てるし。小さくと言っても充分にでっかいのだが。

 本当に虫は一匹だったんだろうか? まだ寄生されてんじゃないのと思うくらい暑苦しさが変わらないんですが、この署長。

 第二階級のヴァファム本体は、第三階級の赤い虫よりも更に一回り大きく、艶々した金色に近い黄色の虫だった。見たくは無かったけどな……。

「人々を守る責務にありながら、市民を危険に晒し、あまつさえ皆様に多大なるご迷惑をお掛けしてしまい、こうなったら死んでお詫びをしないとおおぉ!」

「ま、待て待て待て! 死なれては困る!」

 頭を地面に打ちつける姿があまりに恐ろしかったからか、保護された町の子供は泣き出すわ、メイドちゃん達、ミーア、イーアが怯えて私にくっつくわ、マッチョ組が止めに入って必死になってるわで大混乱だった。

 そんな中。

「署長おぉ~!」

 おお、警察署に置いてきたロキル君! 来てくれたのか。

 ほっそりした姿に似合わぬ怪力で、暴走気味の署長を止めてくれたのは良いが、泣きながら抱き合うな。うっとおしい。

 怪しい関係を想像するより、何か大昔のスポ魂アニメを見ている様な暑っ苦しい光景である。滝の様な涙、飛び散る汗……。

 第三階級の役付きグレアルンカスに同じく寄生されていた部下のおかげで、やっと署長は大人しくなってくれた。

「寄生されたのは貴方が優れている故だ、責任などと言わないで欲しい。もしも責任を感じるのなら、以後も警察署長としてこの町の治安維持に努めて欲しい。私も本職は一介の警察官だ。ロキル君は貴方をとても良い人だと言っていた。部下に尊敬し信頼されている貴方はきっと素晴らしい警官なのだと思う」

「勿体無いお言葉を……!」

 何だか偉そうな事を言ってしまったが、大きな警察署長とその部下は深く頭を下げた。

 まあめでたしめでたしで良かろう? 力強い警察署長もいることだし、この町は以後安泰だろう。

 そして。

「しかし、見直したぞルピア。今回は一番活躍したではないか」

「ご褒美は?」

 ……そういうのを言わなきゃ、そろそろ残念君を卒業出来たのにな。


 耳かき部隊と早くに開放された市民も加わり、総動員で集めた虫はビンにびっしり溜まった。全てが片付く頃にはすっかり夜になっていた。

 全員お疲れだ。町一番のホテルに宿をとってもらい、私達は今日、この町で休むことになった。

 大変なご馳走もいただき、しばし皆がご機嫌になった夜。

 普通の服……相変わらず苦手なスカートではあるが……に着替え、宿屋のサロンで皆とお茶しながら落ち着いていた時だった。

「まだ寝るのは早いし、ちょっと町を散歩しないか?」

 ルピアに誘われたので、誰か一緒に行く者は~と皆に聞いてみたが、誰一人手を挙げなかった。

「面白くは無いですがそんな無粋な真似出来ません」

「そうだな」

 リシュルとゾンゲはぷいっと横を向いた。

「お邪魔しちゃ悪いしな」

「そーそー」

 グイルとミーアは意味深に笑っている。

 何だ、それは。私は別に邪魔などとは思わないぞ? ってか皆付き合い悪いな。

「二人っきりでラブラブのデートしてくればいいじゃない」

 イーアににっこり笑われて、なぜかルピアはご機嫌で笑っている。そして他の者もそこでなぜ頷くのだろうか。

 デート? ラブラブ?

「ちょっと待て、皆何を想像してるんだ」

「だって。ね~?」

 ね~って何だ。イーア。

「ささ、マユカ、お散歩お散歩っ!」

 魔力も沢山使ってお疲れのはずのルピアが、私の手をとって引っ張るので、仕方なくついて行く事に。

 町は静かだった。早くも営業を始めた店もちらほらあるものの、まだそう遅い時間でも無いのに人通りも疎ら。あのような恐ろしい事があったばかりだ。用心深くもなるだろう。

 石畳の路地に私とルピアの足音が響く。街灯に照らされて、長く伸びた影はくっついていて、慌てて少し距離を取った。

「何で? 腕組んで歩こうよ」

「こちらこそ何故と訊きたい。何故お前と腕を組んで歩かねばならんのだ」

 恋人同士でもあるまいし……。

 ぶーと不服そうに声を漏らしたが、ルピアは一メートルほど間を空けて歩き出す。

 イーアめ。誰がデートだ。ラブラブだ。私達のどこがそういう関係に見えると言うのだ。

 これは契約なのであって、好き好んで一緒にいるわけでは無いのだぞ。離れるとマズイという事だしな。

 そうだ、最近すっかり馴染んでしまって忘れていたが、大体、契約と言っても一方的に連れて来られたのであって、恨みこそすれ、好きになる理由など何処にもないでは無いか。

 こんなにか弱くて筋肉も無い、根性も無い男はそもそも私のタイプでは無い。極端な話、まだグイルやゾンゲの方が好みのタイプに近いぞ?

 こん、こん、と微かな音がした。

 横を見ると、小さな子供みたいに楽しげに小石を蹴っているルピアがいた。

 街灯に照らされて、儚げな横顔が俯き加減で微笑んでる。月の光を固めたような金髪が揺れて、細い頬にかかるのがとても綺麗で……。

 あれ? 何だろう。今、少しドキッとした。

 蹴り損ねた小石がどこかに行ってしまって、がっかりしたみたいに肩を竦めてこっちを見たルピア。昼間より瞳が大きく見える目は、やっぱり猫なんだなと納得する。

「へへ、失敗」

 ……可愛い? 可愛いかも……。

「あ、川だな」

 私は誤魔化す様に、先を指差してみた。

 大きな川に、クラシカルな透かしのある欄干の橋は微かなアーチを描いていて、道の石畳よりほんの少し色の濃い石で出来てるみたいだ。ぽつりぽつりと立った街灯に照らされて、とても感じがいい。

 ルピアは橋の中程で欄干にもたれかかって川面を見る。

 いつもはお喋りなのに、今日はとても無口だな、王様。

 横に並んで私も同じ様に川を覗き込むと、ルピアはくるんと顔だけこちらを向いて、何も言わずにふわりと笑った。やっぱり疲れてるのかな。少しやつれた感じがする。

 でも、そうだ。前に倒れた時もそうだったが、コイツは本当に辛い時は何も言わない。いいのかな、大丈夫なのかな?

 ぴょん、と欄干にルピアが飛び乗るのを見て、ぎょっとしたが、猫なんだった。

「落ちるなよ」

「そこまでドジじゃないよ」

 立っているのは見てるほうが怖いと抗議すると、ルピアは欄干に足をぶらぶらさせて座った。まったく無駄に長い足だな。

「戦士の鎧もいいけど、マユカはそういう格好もいいね」

 ルピアがやっといつもの気障な口調になった。

「スカートはどうもスカスカしていかんな」

「女らしく見えていいよ」

 ……それはどうもありがとう。遠まわしにいつもは女らしくないと言われている様な気がしなくもない。

 しばらく水面に街灯の光りが映ってゆらゆら揺れるのを見ていた。

 冷たい風が気持ちいい。でもそろそろ帰らないときっと疲れてる。そう思った時、ふわ、と金の髪が目の前を過ぎった。

「え?」

 ルピアが座ってた欄干から落ちて来たのだとわかって、慌てて受け止めた。細いけれど男だし背が高いからやはり重い。

 動かせなくて、しばらく膝をついて抱き合う形になってしまった。

「……ゴメン、ちょっとふらっとして」

 耳元で言うルピアの声は弱々しい。

「馬鹿、後ろ向きに落ちてたらどうなってたか!」

 私は泳げないぞ。きっと猫なんだからお前も苦手だろう? 考えただけでぞっとする。

 人の姿はしていても、くにゃんと柔らかい体。頬に当たる金の髪も猫の毛みたいに柔らかくて……。

「今日はいっぱい頑張ったもんな。ゾンゲを助けた時……王様らしくてカッコよかった」

「ホント?」

「魔力補給、しないといけないな」

 思わず言ってしまったけど……今なら猫にならなくても出来る様な気もするけど……。

「押さないでってばっ」

「もうっ何もたもたやってるのよ」

「こら、聞えるぞ」

 ……おい。

 街灯の陰からものすごい視線と、声が聞こえるんですけど? 橋のたもとから尻尾覗いてるんですけど?

「おい、お前達」

 街灯の方に声を掛けてみると、ばたっと二人倒れた。イーアとミーア。橋のたもとからは男三人そろっと出てきた。

 つまり、五戦士全員いるな。

「ルピア、帰るか。子猫ちゃんになれ」

 残念ながら今回の魔力補給も子猫ちゃん姿で、半泣きになったルピアだった。


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