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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第一章 五種族の戦士編
20/101

20:放送局内線一番の男

ぴんぽんぱんぽーん。

「清ク正シク勤勉ナル市民ノ皆様、正午ヲオ伝エイタシマス。昼食ヲ摂ル時間デス。一時間ノ休憩ノ後、速ヤカニ午後ノ作業二移ッテ下サイ」

 街の街灯と共に設置してあるスピーカーから、放送が流れてくる。

「……学校か刑務所みたいだな」

 それが第一印象だった。面白くも無いアナウンスだが、これも今向かっている放送局から流されているのだろうか。外は大変な事になっているというのに、長閑な事だ。

 警察署を出て有線放送局に向かう途中、私達は下っ端に寄生された市民に囲まれた。警察官のロキル君に寄生していた第三階級の役付きの虫を捕獲したのはいい。しかし、近くにいた見張りが上役の危機を同胞に知らせたみたいだ。

 こちらも結構な数の兵力がいるので一気に立ち向かう事も出来たものの、時間が惜しいし負傷者もいる。また、一般市民を出来るだけ傷付けたくはないので、ルピアが魔法障壁とやらを展開して私達一行を包んだ。

そうこうしているうちに、先程の放送である。

 私達を取り囲んでいたとんでもない数の下っ端達は、放送を聴いた途端にさっと散った。ええっ、なんで? と私は思ったが、意外と周りは平然としている。

「ああ、そんな時間か」

 それで終わりなのか? こう、もっと驚きとか無いのか? これが普通なのか?

 昼御飯に戦闘休止って! 暢気だな、ヴァファム。でもって、誰も疑問も持たずにそれを当たり前に受け取る味方。何て健全な世界なんだ、ここって……。

 だが一時間待ってやる筋合いも無い。この隙に気を取り直して私達は放送局へ向かう。

「魔法障壁とはすごい事が出来るのだな、流石は連合軍指揮官」

 珍しくグイルやリシュルまでルピアを褒めている。うん、私もすごいと思った。

 しかし……連合軍指揮官だったのかルピア。それは知らなかった。

「で? 何でルピアは猫ちゃんに戻らんのだ。ほれ、色々頑張ったからスリングでねんねしてていいんだぞ?」

 無駄にゴージャスな男前のまま、馴れ馴れしく私の肩を抱いて歩いている残念な王様。手を払いのけても、まだしれっと抱き寄せられ、もう面倒臭くなってきた。それに魔力を使ったからか微妙にフラフラで肩を抱くというより寄りかかっているのが正しい。

「だって、どちらかと言うとこっちが本当の姿だから」

「疲れているようだから運んでやろうと言っているのに」

 むぅーと口を尖らせて、縋るような目で見られてもな。まあ、言いたい事はわかっているのだが。

「マユカ、魔力補給は?」

「全力で拒否する……と言いたいが、その弱り様だ仕方が無い」

 途端にキラキラした目になる猫王様。わかりやすいな、コイツ。

「でも、猫ちゃんに戻ったらな」

「なんで? このままの方が色々といいカンジなのに」

 色々と何だって? 肘を食らわせたいが弱ってる相手にぐぐっと我慢だ。

 笑いかけて……わたしはそのつもり……みると、ひぃっと小さく漏らして、ルピアは大人しく子猫ちゃんになった。

 最近必殺技になりつつあるな、私の笑みは……そんなに怖いのだろうか? 今度鏡でじっくり見てみよう。

「はい、ちゅう」

 ついでにもふもふぷにぷにを補給しつつ、ちっちゃな牙のあるピンクの口にキスをしておいた。こっちも癒されるなぁ、この手触り。

 何だかんだで持ちつ持たれつな関係なのかもしれないな、私達は。

「これで、また魔法が使えるよ」

「期待してるぞ、ルピア」

 今度は相手の武器が事前情報でわかっている。こちらも素手では勝てそうにないので、ゾンゲに先程のグレアから徴収した刺叉を、ミーアに以前フレイからもらった鞭を持たせてある。

 耳かき部隊には医療関係者や、デザールの王族直属の癒し専門の魔導師がいるので、五種族の戦士全員すでに回復済みだ。マジ、魔法ってすごいな。

「全員で行くのか?」

「幾ら強敵とはいえ、一対六は無いだろう。第一、同士討ちになっては困るから戦いづらい。交代出来る様、素手の四人には控えていてもらう。私、ゾンゲ、ミーアでまず様子を見よう。あ、ルピアはまた隅っこの方でよろしく頼む」

 現場担当者として、私はちゃっちゃっと仕切らせていただく。何故に私はこの様にやる気になっているのだろうか。

「では行くぞ」

 この町の警察署長を取り戻しに。初の第二階級と戦いに。


 有線放送局……とはいえ、そこそこの規模のあるラジオ局の様な趣の立派な建物。

 一歩踏み込むと内は静まり返っていた。ひょっとして見張りもお昼休み?

 入ってすぐの正面には手動のエレベーター、ロビー奥の受付に、内線電話らしい物があった。結構ハイテク……といってよいのかどうか……では無いか。『じーころころ』ってするダイヤルすら無い、この電話機の木製のパネルと、番号に別れた通話先を差し替えるプラグが泣かせるがな。このコップみたいなのに喋って聴くんだな。

「よし、司令様を呼び出してみよう」

 一部屋ずつ探すのも何なので、出るかはわからないが掛けてみることにした。

 周りに呆れられつつ、内線一番にかけてみると……。

「ユングレアだ!」

 いきなり司令ご本人様が出た! かなり野太い声だ。

 こちらから掛けておいて何だが、まさか最初の一回で、しかも本人に繋がるとは思っていなかったので、なんと言っていいやら私も一瞬言葉に詰まった。

 ま、いいか……探す手間は省けたわけだし。

「貴様は既に包囲されて……じゃなかった、第三階級グレアルンカスは倒した。現在受け付けにいる。出てきてくれるとありがたいが」

 流石にそれは無理だろうと後ろから皆の声を受けつつ、返答を待つと……。

「わかったっ。今行く!」

 あっさり返事が返って来た。なんてマメな司令なのだろうか。

 受話器を置き、皆に向き直って報告。

「司令、来るって」

「……マユカ、笑ってもいいか?」

 既に笑ってるではないか、ゾンゲ。ってか、笑ってる場合じゃないし。そういうワケで、打ち合わせ通り展開し、私とゾンゲ、ミーアで待ち構える。恐らくエレベーターで来るだろう。数人デザールの兵が横手の階段の方に身を隠している。

「うぉおおおおおおっ!」

 ものすごい熱い声が近づいて来た。

 え? まさか階段を走って来たのか、司令様?

「とおっ!」

 ひゅん、と踊り場から何か巨大なものが飛んで来た。同時に階段の所にいたデザールの兵士が紙の様に飛ぶ。

 ずしーん。

 目の前に大きな音をたてて着地したのは、なんとも巨大な男。

 手にはたった今、目にも止まらぬ速さで振り回され、兵士達を吹き飛ばした三節昆。

 刑事スキャン最速バージョンで始動。

 性別男。身長二メートル十五センチ、推定体重百キロ。既にマッチョと言うのでもない、岩石のような筋肉の固まりだからもっと重いかもしれない。腕周りだけで私のウエストほどある。年齢は三十から三十五というところか。予想外にノースリーブのシャツに短く切った半ズボンというラフ……というより野生味溢れる格好。しかも裸足。とりあえず警察署長にはとても見えない。中途半端に長い黒髪に、暑苦しく太い眉の濃い顔に犬耳、フサフサ尻尾という犬族の特徴も濃い……。

 や~め~て~! 似合わんっ、その黒い可愛い犬耳が勿体無い~っ! もふもふへの冒涜っ! と心の中で叫んでおく。

「お前かぁ? グレアを倒したという奴はぁ!?」

 喋り方も暑苦しくゾンゲに絡み始めたユングレア。グレアの刺叉持ってるもんな。気の毒に豹男の尻尾はしゅんと垂れてしまってる。怖いよな、うん、怖いのわかるぞ!

 そーっと無言でゾンゲが私を指差した。見るとルピアもミーアも、遠巻きに見てる他の面々も皆私を指している。いや、あのぉ、押さえ込みまではしたけどグレアにとどめ刺したの、リシュルなんですけど……?

「女っ! この細っこい女にやられたというのかああああぁ!」

 濃い、濃いよ、ユング様。私はこういう暑苦しい男は嫌いでは無いが、濃すぎるよ、あんた! 胸焼けしそうだ。

 細っこいって初めて言われたぞ。それだけは微妙に嬉しい。でもグレアも怪力ではあったが超華奢だったぞ?

「彼女は異界より召還された伝説の戦士だからな」

 もしもし? ルピア、しれっと焚き付けてるんじゃない。

「ほおお、お前が伝説の戦士とやらか。我名はユング。女王様の崇高なる理想郷を実現すべく遣わされた西方方面司令、第二階級ユングレアだっ! 覚えておけ」

 ……夢にも出てきそうな濃さなので忘れはしないと思うよ。

「私は東雲麻友花だ」

 一応名のっておこう。声、震えてないよな。

「相当な自信だな、すました顔をしおってぇ。女と言えど容赦はせん、泣いて許しを請うまでやってくれるわあっ!」

 がちゃり、と鎖の音を響かせ三本の棒の両端を握って、ユングレアが構えた。その目は私しか見ていない。

 さて、どうしたものかな。


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