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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第一章 五種族の戦士編
18/101

18:警察署の美青年

 ここ、何署って言うんだろうな?

 ウチの署はそこそこの規模の県警の本部だったので、総務部、警務部、生活安全部、地域部、刑事部、科学捜査部、組織犯罪対策局、交通部……そのほかにも警ら隊や機動隊もあって、それぞれ課に別れていていた。私はその中の捜査一課所属の刑事だ。こちらの警察もそんな風に組織内でわかれてたりするのかな?

 そういえば、車も無いから交通課って無いんだろうか。馬って免許いらないよな? でも事故処理とかどうするんだろう。

 ……まあ、どうでもいいけど。

 一緒に役場に向かったデザールの兵数名は表で待っていた隊と一緒に置いてきて、ゾンゲ、リシュル、私とルピアだけが署内に入る。

 私達は正面入り口から堂々と入って行ったにも関わらず、中は閑散としていた。さっきの町役場の様にお出迎えの団体さんもいない。

 犬のおまわりさんの警察署はスッキリ綺麗に片付いている。きっと綺麗好きのヴァファムが念入りに掃除をしたのだろう。雰囲気はやっぱりお馴染みの警察署と良く似ているな。

 先にグイル達が入ったからかな? 伸された奴も倒れてないけど。

「で? ミーアはどこにいる?」

「上。署長室」

 ルピアにゃんこがスリングの中から小さい手を出した。

 迷惑防止条例およびストーカー規制法に確実に引っかかる魔法ではあるものの、こういう場合は確かに役に立つな。どうせなら他の男性メンバーにもかけておいてもらおう。

「さて、ルピア。人間に戻っていいぞ。流石に役付きとこのままでは戦えんからな。エアバッグ代わりになるんなら別だが」

 そんな事するわけが無いけど。残念な人型の時ならともかく、ラブリー子猫ちゃんが殴られたり蹴られたりするのは絶対に見たくない。

「……人の姿だったらともかく何?」

「んー?」

 こいつは人の思考が読めるんだった。

 ぶーぶー文句を言いながらスリングから出たルピアが、いつもの金髪の美青年に戻った。四人になって、不意打ちに注意しながら進む。

 階段を見つけ、そこから上を目指す。途中踊り場で何人か倒れていたのは先に入ったメンバーにやられたんだろう。

「この上の階の奥」

 更に道案内してくれるルピア。

 表から見たこの建物は三階建てだった。最上階に署長の部屋があるのか。ウチの署長は警視正だったけど、やっぱ警官にも階級とかあるのかな……どうでもいいけど。

 もし、戻れなかったらコッチでも刑事になれるかな、などとちょっと考えてみただけだ。いや、すでに見張りを倒されてしまってるので、道中ヒマでな。

 とかいいつつ三階に上がると、ぴんと張り詰めた様な殺気を感じた。

 まだミーアやグイルは戦っているのだろうか。ここの役付きはどんな奴なんだろう。

 長い廊下を進んでいると、突き当たりのドアがいきなりバーンと派手な音を立てて開いた。開いたというよりドアごと飛んで来たというのが正解だ。

「グイル!」

 ドアと一緒に飛んで来たのはワンコ青年だった。

 攻撃を受けて吹き飛ばされたのだろうか。あちこちに傷がある。

「いっ……ててて」

「大丈夫か?」

 体を起してやると、グイルは驚いた様に私の顔を見た。

「マユカ! どうしてここに?」

「あっちはハズレだった。話は後だ。立てるか? 強いのか、相手は」

「ああ。アイツ無茶苦茶強い。イーアがすでにやられた」

 何っ? あのイーアがか? 小さいがあの電気は半端無いぞ? しかもこのグイルも吹き飛ばすような相手だ。一体どんなに強いんだ?

「きゃーっ!」

 ミーアの悲鳴?

 慌てて部屋に飛び込むと、床に倒れているイーア、天井に貼りついているミーアが目に入った。

 長い刺叉さすまたに似たもので胴を天井に押さえつけられて、ミーアは逃れようと必死でもがいている。

 その刺叉の長い柄を片手で握っているのは、意外にも細身の華奢な感じの若い男だった。

「グイル、イーアを外へ連れて行ってやってくれ」

「……わかった」

 いかに鳥族は軽いとはいえ、片手でミーアを捕まえたままの男は、後から入って来た私達を確かめても顔色一つ変えない。

 穏やかな微笑を浮かべたまま。

「大事な仲間を放してもらえるだろうか?」

 私は一応丁寧にお願いしてみた。

「いいですよ。いきなり襲い掛かってきた様な野蛮なお仲間ですが」

 声も優しげな男は、やはり片手のまま刺叉を軽く振る。開放され天井から落ちて来たミーアをゾンゲが慌てて受け止める。

刺又の形状と細いミーアのウエストが幸いしてか、押さえつけられていただけで怪我は無いようだ。良かった……。

 私は男に向き直り、刑事スキャン始動。

 身長およそ百七十センチ、体重は五十~五十五くらい、非常に細身。髪の色は薄いグレー、白髪にも見えるが若い。推定年齢十八~二十代前半というところ。一見学生服にも見える詰襟の上下揃いのスーツは濃いブルー。額にある印はフレイルンカスと良く似た複雑な模様で濃い。ルピアと良く似た緑の目がとても印象的な、非常に整った顔立ちのいわゆる『美青年』だ。残念な猫の王様より知的な感じがするがな。

 コイツもフレイの時同様、目が虚ろでもなければ、声も自然だ。やはり役付きに寄生されている者は下っ端とは明らかに違う。

 穏やかに笑みを浮かべているその男から感じるのは、吐き気がするほどの殺気。

 放送局だと言っていたが、この強さに気配。コイツが第二階級の司令だろうか。

「第二階級のユングというのは貴様か?」

「いいえ、僕は第三階級グレア。グレアルンカスです。ユングレア司令はここにはいらっしゃいません」

 やっぱり先に聞いた通り放送局のが司令か……。

 まあしかし、ヴァファムの名前はややっこしいな。苗字とか名前とか別れてるんだかいないのか。推測するに名前と階級なんだろう。同じ第三階級のフレイもルンカスとついていた。では第二階級がレアなのかな。

 ……どうでもいいけど。

「貴女がフレイが言っていた異界からの戦士ですか。なるほど、目の前で仲間が倒されていても眉一つ動かさないあたり、冷静ですね」

 冷静ねぇ。実際は無表情なだけなんだけどな。あえてツッコミは入れないでおこう。

「お手合わせ願いましょう。ユング様の所には行かせません」

 グレア様とやらが微笑んだまま刺叉を私の方に向けた。ゆらっと闘気が見えたのは気のせいだろうが、その位の迫力だ。

 こちらも構える。あの刺叉は結構厄介だ。表に薙刀預けてくるんじゃ無かったな。ただの先の丸いアルミ製のやつは警察官として私も使った事があるが、グレアが持っているのは黒光りする金属らしき柄と太い水牛の角の様な先の重厚な作り。相当の重さがあるとみた。

 こいつ華奢に見えて相当の腕力だな。あの素早いミーアを捕まえるところをみると、スピードもかなりのものだろう。

 ちら、と横を見るとルピアは壁際でミーアを介抱しているし、ゾンゲ、リシュルもいい感じに広がって臨戦態勢だ。

 この部屋は広く、正面のデスク以外障害物も無い。床が石なので倒れたら痛そうだ。

 ビュッと風を切る音を立てて、刺叉が突き出された。戦闘開始。

 かわして掴もうとしたがさっと引き戻された。やはり動きも判断も早いな。

 重そうな柄は百五十センチほどか。それをぶん、と振り、今度は殴打に来た。これは薙刀に似ているな。低い位置で足を払うように来たそれを、私はジャンプでかわす。

 グレアの後ろにゾンゲが回ったのが見える。よし、捕まえてくれ。

 しかし、後ろに目でもあるように、組みに行ったゾンゲがあっさりかわされる。それでもほんの少しそちらに気を取られた隙に私は懐に入れた。

 思いきり顎を蹴りに行くも、空いた方の手で軽々と止められた。私の蹴りは結構重いはずなのに、この細い腕であっさり止めるとは!

 すかさず空いた脇腹に突きを入れに行くがこれも止められ、振られた刺叉の柄にゾンゲ共々薙ぎ払われる。豹男と共に尻餅をついたが、重い武器を振り回して仕切り直すのにも時間はかかる。次が来る前に私達は何とか立ち上がれた。

「ほう、女性の攻撃とは思えない。効きますね」

 蹴りと突きを受けた手を軽く振ってグレアが笑っている。一応痛くはあったようだ。余裕の顔をされるとこっちは心が痛いけどな。

 コイツ、マジで強い。あの余裕の笑みを崩せるんだろうか。

 とにかくあの刺叉だけでもなんとか封じなければ。

 自分でも驚くほど、私はやる気になっているのに気がついた。強い相手と戦うのは燃える!

 そういえばリシュルはどうしたと思っていたが、彼もそれなりに作戦を立てていたようだ。この手の武器にはおそらく一番有効なのが中国拳法の動きだろう。それに良く似た戦い方をするのがリシュルだ。

 リシュルがこちらを目でちらっと見てから動き出した所を見ると、自分の作戦に乗れという事だな。

 リシュルは正面から突っ込んでいき、突き出された刺叉をかわす。う~ん、蛇だけあってくねっとした動きで、絡む様に刺叉の柄を掴んだ。

 よし、いい感じだ。ゾンゲは空いている方の手で止められる事を前提に殴りに行く。そして私は横から後ろ膝を狙って足を払った。

 かくん、と膝を折ってグレアがやっとバランスを崩す。その隙に脇腹に正拳を突き入れる事に成功した。ここはそう鍛えられまい。

「くっ!」

 よろめきながらも、思いきり振り回された刺叉の柄に、掴んでいたリシュルが飛ばされ、ゾンゲと私も慌てて飛びのく。

「……痛いですよ」

 やっとグレアの美しい顔から笑みが消えた。


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