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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第一章 五種族の戦士編
17/101

17:薙刀演舞

 他の町や村でもそうだったように、やはり人の姿を見かけない静か過ぎる町の中。そんな町を私達は黙々と行く。店も営業しておらず、通行人もいない石畳の道は寂しく、綺麗好きのヴァファムが掃除して回ったのであろう事がわかるゴミ一つ落ちていない清潔さにすら、寒々しさを感じた。

 複雑に入り組んだ路地の向こうに一列に並んで行進する人が見えたが、下っ端に寄生されている市民は極力避けて大通りだけを真っ直ぐに行く。目指す町役場はもう目の前だ。

 五階以上はありそうな立派な石造りの建物は、西洋の要塞を思わせた。

「ここにいるかな?」

「さて、中を見てみないとわからない」

 表に耳かき部隊を残し、私達三人プラス一匹は町役場の中に踏み込んだ。


 前の町の静まり返った町役場とは違い、今度は賑やかだった。

 ざっと三十名以上はいるだろうか、武器を手にした、明らかに下っ端という男達は待ち構えていた風情だ。

「大人しくしてろよ」

 スリングの中のルピアにゃんこに言うと、みゅうと返事が返って来た。

 まず『役付き』の場所を聞き出したいところだが、下っ端達は何も言わずにいきなり襲い掛かってきた。聞く耳持たぬというところか。

 相当広いエントランスとはいえ、室内で皆が武器を持っているとなると、かなりの混戦になるな。こちらにとっては好都合だともいえる。

 指示を出さなくても、リシュルとゾンゲはいい判断で左右に散っている。まず斬りかかって来た奴をかわして正拳突きを脇腹にお見舞いしながら、ホント使える奴等だと感心した。

 スリングの子猫ちゃんを危険に晒すわけにはいかないので、腹には攻撃が来ないようにだけ気をつけながら立ち回る。

 あ、薙刀ナギナタに良く似た物を持っている奴がいるな。馬鹿者め、周りが全て敵という場面では効果的だが、このように味方が犇いている中で使うのは得策ではないぞ。

 よし、味方にその身一つで戦えと言った本人だが、少しお手本を見せてやろう。

「武器を使うのは本意では無いが……」

 ちなみに私は全ての武道の中で、柔道についで剣道が得意だ。薙刀は三番目くらいだろうか。祖母が師範だったのでこれも長いことやっていた。

 薙刀は元々武家の女性が対刀用に身を守るために身につけた武道。舞の型の元にもなっているくらいだから、その動きは優雅で好きだ。

 狭い空間で長物を持っていても何の役にも立たない。扱いをそう知らないだけでなく、振り回す事も出来無いので突きに来た薙刀。その柄を掴んで、ぐるんと回してみたら使い手は見事に一回転して飛んで行った。

 薙刀を奪い取ることに成功した。さて、にゃんこをぶら下げたままだが演舞といこう。

「これはこうやって使うのだ。ゾンゲ、リシュル、少し退けていろ」

 私が上段に構えると、エントランスにいた全員が一瞬固まった。殺傷能力がありそうなので、くるりと刃を逆さに向ける。

 西洋の両刃の剣や槍では無理なことだ。その点、日本の刀の様に片刃は繊細な事が出来る。技量さえあれば、相手の血を流さずとも倒せるからな。いわゆる峰打ちというやつだ。

 構えてしばらく動かない私に向かい、一斉に掛かって来る下っ端達。

 では私の八方振りを特と味わうがいい。

 まず斜めに振り下ろし、避けられた所はすかさず足を払う。これで一気に数人倒れた。斜めに振り上げて相手の剣を落とし、横腹に峰打ち。剣を刃先で受け止めくるんと先で小さく円を描いて絡めとる。斜めに振り下ろし、肩に叩きつける。

 足は肩幅に開き前後に、動きは常にすり足で。上半身は倒さず、舞うように体を止めない。ばあちゃん、ちゃんと覚えているぞ。

 隅っこの方に逃れて、リシュルの回し蹴りに伸された奴を最後に、あっと言う間に、エントランスで立っているものは私達の側だけになった。

「なんと美しい動き……」

 ゾンゲが私に足を払われて転んだ奴にとどめを刺しながら呟いた。

「武道は殺す為のものでは無く型だ」

 ああ、久しぶりだが気持ちよかった。

 足元に倒れている者を一人起して、背中に活を入れてみると虚ろな目が開いた。

 それでは尋問ターイム。

「この建物に司令はいるのか?」

「……答エナイ」

「そうか。忠誠心は立派だが、答えておいた方が良いぞ?」

 などと脅してはみたが、どうやって吐かせるか。勿論これ以上無駄に暴力を振るうつもりも無いし、困って笑ってみたつもりだった。その途端。

「コ、ココニハ居ナイ! ユング様ハ放送局……」

 あっさり吐いたな! 怯えてるし。そこまで怖いかっ? 私の笑顔は。

「マユカの最強の必殺技は、その悪魔の微笑みだな」

 お腹にぶら下げてるスリングの中から暢気な声がしたので、軽く指先で弾いておいた。うにゃっ、と声を上げたルピアにゃんこは以後無駄口を叩かなくなった。

「ここに居ないとわかったら用は無い。急ぐぞ」

 早々に町役場を後にして、私達は放送局に向かう事にした。念のため役場の扉は開かない様に封鎖しておいた。全て片付いたらまた耳かき大会だな……。

 気がつくと、薙刀を持ったままだった。これ、競技用みたいに刃を木に替えるとかすれば、大人数相手には使えるな。護身術をルピアにでも教えるためにもらっておこう。こちらの得物はフレイルンカスの鞭に次ぐ二つ目だな.

 そこでふと疑問が浮かんだ。ヴァファムはどうやって武器を調達しているのだろう?

 鞭や警棒の様な殺傷能力の低い切れない武器は、警察や軍隊では使用する軍人のグイルが言っていた。しかし元普通の村人や市民である下っ端でさえ、西洋刀の様な剣や槍を持っている。調理器具や農器具の鍛冶屋はいるのだから技術的には問題ないだろうが、数が多すぎる。どこかに武器専用の大規模な工場でも持っているとしか思えない。製造現場を叩くなりしないと、向こうの大陸の様にレジスタンスまでが武器を使い出すと、大変な事になってしまう。銃や大砲は言わずもがな、弓矢の様な飛び道具を出して来ないのが救いだが……。

「なるほど。武器工場か……考えねばならんな」

 ルピアがまた考えを読んだらしい。少し慣れてきたのでもう腹も立たなくなって来た。

「私達に襲いかかって来る分には良いのだが、いかに寄生されていると言っても素人に持たせているのが危ない」

「……マユカ、襲いかかられるのもどうかと思うぞ?」

 ゾンゲ氏、ツッコミをありがとう。

「なあ、僕はいつまでこの中にいればいいのだ? 人型に戻って歩いてはいかんのか?」

「放送局で役付きと戦闘になったら降ろしてやる。味方を守ってくれ。それまでそのプリティな赤ちゃんスタイルで私とくっついているのは嫌か?」

「実はかなり嬉しかったりする」

「……正直者め」

 私だって嬉しかったりする。子猫ちゃんと密着しているというのは。中身はともかく見上げる緑のくりくりお目めが、ホント可愛いんだよな、マジで。

「ん?」

 早足で歩いていると、突然ルピアがスリングからぴょこんと顔を出した。

「どうした?」

「ミーア達が先に役付きとやりあってるぞ。放送局に向かう前に警察署の方に向かった方がいいのではないか?」

 なんだと? 警察署?

 やはり役付きは一人では無かったのか。ユング様とか言ってた第二階級の司令は放送局だという。では第三階級の役付きか?

 グイル、ミーア、イーアの三人がいれば問題無いし、倒せなくも無いだろうが気になるな。

「どうせ合流する予定だ。先に行こう」

 役付きの強さは半端では無いと知った。急ごう。

「しかしルピア、どうして向こうの班の動きがわかるのだ? 魔法か?」

「うん、魔法。ふっふっふ。まじないの式をミーアに忍ばせてある。離れていても動向が手に取るようにわかるぞ」

「すごいじゃないか。主要戦士に仕掛けてあるのか?」

「いいや、マユカとミーア、あと掃討部隊の女の子数名」

 何故女にだけ? 一応フェミニスト?

「野郎の行動が逐一見えてもな~。お風呂とかトイレ悪夢だし」

「おいっ……!」

 どこまで見えるんだ、その呪いはっ!

「私にも仕掛けてあるのか?」

「うん。勿論」

「外せ、今すぐ」

 目の前で握り拳をボキボキ言わせてみたら、変態子猫はスリングの中にひっこんだ。

「で、でもっ、役に立ってるじゃないか」

「その件は後でゆっくり話をきかせてもらおう」

 覚えて置けよ。今晩も撫で回して散々啼かせてくれるわ。人間の姿になど戻らせてやらないからな!

 まあ今はそんな場合じゃない。急がねば。

 幸いな事に、重要施設は町の中心部に集中している。町役場から程なく警察署に到着した。

 表には戦わない掃討みみかき部隊が待機していた。グイル、ミーア、イーアの三人と数人のデザール兵だけが中に入ったということだ。

 確かに感じる。この嫌な気配、この前の役付きのいた建物から感じた殺気と同様のもの。ここには強い奴がいる。

「どうする、ルピアはここで降りて皆と待っているか?」

「僕も行くってば」

 まあいい。私達が入ったらイーアを非戦闘員の護衛用に出そう。

「では行くぞ」

 警察署か。皮肉だな、刑事の私が踏み込む側になるとはな。


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