表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第一章 五種族の戦士編
11/101

11:虫の知らせ

 町に入り、まず私達が踏み込んだのは中低層の古びた建物の多い区画だった。雰囲気から言うと西洋の下町という風情。下町というと生活感が溢れていると相場が決まっているが、人影も無い町並に活気はなく、死んだように静か。ちらほら見える看板のある商店らしきものも営業している様子は無い。

 聞くにヴァファムは社会主義のようだ。各々が利益を得るのではなく、食料等の物品は完全配給制、生産、活動も全て役割を決められた奉仕制。これはこれでありだとは思うが、面白くは無い。

 途中、箒やデッキブラシを持って黙々と清掃作業をしている一団に出会った。額に薄い印が浮かんでいるし、目も虚ろなところを見ると寄生されているのは明らかだ。私は身構えたが、彼等は私達を確かめても襲っても来ない。

「ヴァファムはすごく綺麗好きなんだ。神経質過ぎるくらいに」

 グイルは呆れた様に言う。へぇ、それは興味深い。虫とはいえそれは特筆して褒めるべき美点ではないだろうか。同じく比較的綺麗好きの民族と言われる日本人としては、大変素晴らしいと思う。そういえばこの町も道にゴミの一つも落ちていないし、先に訪れた村も非常に手入れが行き届いて清潔だった。よく汚い事を『虫が湧きそう』などと言うが、その虫が綺麗好きって……などと、どうでもいいことが頭に浮かんでみたり。

 清掃作業中の市民の横を通る時に、思わず「ご苦労様です」と声をかけそうになってやめておいた。刺激はしないほうがいいな。

「どうする? こうした一般人も解放しながら行くか?」

 グイルが私に指示を仰ぐが、極力余計な戦闘は避けたい。

「いや。指示を出している上の存在を叩けば、下っ端は従うとルピアから聞いている。向こうから襲って来た場合だけ迎え撃つことにしよう。彼等にはもう少し掃除をしていてもらおうか」

 そういうわけで、私は現在、グイル、ゾンゲのマッチョ組と共に役場に向かっている。人選は間違っていないと思いたい……のだが。

「あまりマユカの近くに寄るな、犬」

「俺の前を歩くんじゃねぇ、無駄に長い尻尾が邪魔だ猫」

 私とした事が間違えたな。よりによって猫と犬……いや、豹と狼だった。五人の中でも対個人戦向けのパワー系、かつ比較的口数の少なそうな大人を選んだつもりだったのに。意外とこの二人は仲がよろしくない。タイプが似すぎているからだろう。近親憎悪というのだ、そういうのを。

 今更戻れないし、出来れば仲良くやっていただきたいのだが。

「二人とも、もう少し協力的になれんのか?」

 ぎっ、と私が睨んでやるとグイルとゾンゲは大人しくはなった。しかし先は心配だ。

 目指すは町役場。やはりそう簡単には行かせてもらえない。虫特有のセンサーの様なものでもあるのだろうか。一般庶民の居住しているらしい下町を抜け、店の立ち並ぶ町の繁華街らしきところ……もっとも、商業活動もなされていないので華やかでも賑やかでも無い……に出た頃、最初の団体が襲ってきた。

「秩序、乱ス、敵」

 機械音声っぽいあの声で武器を手に立ちはだかったのは五人。

 おお、警察官のような服装だな。警棒なんか持ってるし、職業柄微妙に近親感を覚える。しかもここは犬族の町。犬耳と犬尻尾が見えてる。犬のおまわりさんリアル版! ちょっと萌え……は置いておいて。

「この世界の秩序を乱しているのは貴様らでは無いか」

 言い返した私に向かって犬のおまわりさんは警棒を振りかざしてかかって来た。

「邪魔者ケス」

 消してみろ。おまわりさんは秩序を守るだけでなく、人情も必要なのだぞ。

 振り下ろされた警棒を蹴りで飛ばずと、一人目は大外刈りでとどめに鳩尾に拳。二人目・三人目は連続回し蹴りでゾンゲとグイルにパス。とどめは任せた。だが、次の奴に拳を突き出した時、すっとかわされた。

「お、やるな」

 制服の胸の印が少し違う。こいつは寄生されている人が他の奴より偉いさんなのだな。中身のヴァファムも少し上位の見張りクラスかもしれない。空手に似た動きがなかなか早くキレがある。

 数秒徒手の様に受けながら様子を見たところ、足技は苦手らしい。少し本気を出して膝を払い、バランスを崩した所で首の根元に軽く手刀を入れておいた。

「ワリと苦戦したな」

「「ええっ? 今ので?」」

 ハモるな。一撃必殺が信条のこの東雲麻友花、数度かわされて少しは戦い甲斐があったのだぞ。

「表情一つ変えずに見張りをのして……怖い、怖すぎるよマユカ」

 グイル君、怯えた様に逃げるのはやめろ。段々この犬青年が同僚の上杉巡査に見えて来た。断然グイルのほうがイケメンだが雰囲気が似ている。上杉はワンコの様な青年だったからな。

 犬のおまわりさんは全部で八人。三人掛かりで数分で倒した。本職は警察官らしいので、同業者として私直々に耳かきをしてやった。うう、虫が出てくるのは何度見ても気持ちが悪い……。

 正気に戻った警官達は何度も礼を言って、早々に職務に戻ると言ってくれた。そんな彼等にまだ寄生されずに残っている人を見つけたら保護するようお願いすると、私達は先を急いだ。

 その頃、ミーアやリシュルも下っ端の一群と戦っていたらしいというのは後で聞いた話だ。

 町の案内は近くの出身だというグイルに任せてある。

 どうも区画毎に見張りがいるみたいだ。そしてお約束どおり、偉い奴が居る所に近づくにつれて、警備は厳しくなっていくのが常。十~十二人ずつくらいが波の様に襲ってくる。

 所詮ゾンゲ、グイル、そして私の敵では無かったが、かわされる機会も増え、一撃では昏倒させる事が出来無い相手が増えてきた。しかもほとんどが武器を持って武装している。しかしこれはある意味こっちで間違いないと回答を得たようなものだ。

 先を急ぐ道すがら。

「猫などその程度か」

 相手の剣が僅かにかすめ、服の一部に切れ目が入ったゾンゲを見てグイルが笑った。

「そういう犬も大した事が無い」

 私と同じく表情は変わらないが、ゾンゲが傷のついたグイルの防具を指差して顎を上げた。

「何を!」

「やるのか?」

 おい。ワンコとニャンコ。お前らがケンカしてどうする。血の気が多いのは若くて良いが。

「……おすわり」

 私が小さく声を掛けると、びくっとグイルが身を縮め、条件反射の様にしゃがみこむ。

 うわ、犬族にも有効なのかこれ。面白いのでもういっちょ。

「お手」

 顔の前に手を差し出すと、ビクビクしながらそろーっと私の手に自分のでっかい手を乗せるグイル。それを目を細めて見ているゾンゲの肩が震えている。笑ってるな? 次はお前だぞ。

「貴様も笑っている場合では無いぞ、ゾンゲ」

「うっ……」

 別に睨みつけたわけでは無いのだが、私より上にある顔を見上げて目を合わせると、ゾンゲは蛇に睨まれた蛙のように固まった。しばらくして先に目を逸らしやがった。これ、猫も絶対に先に目を逸らすよな。反応が同じで面白い。

 更に顎を持ち上げて豹柄もふもふの喉を撫でると、目を細めてゴロゴロと音を立て始めたゾンゲ。おお、なんか可愛いぞ。それにここの毛は柔らかくていいなぁ。癒されるぅ~! じゃなくて!

「仲良く出来んなら二人とも帰れ。私一人で行く」

 さっさと歩き始めると、二人は慌ててついて来る。

「「姐さんに一生着いて行きますっ!」」

 誰が姐さんだ。一生ってなんだ? ってかハモるな。

 その後ゾンゲとグイルはやや協力的になった。のちに二人が語った所によると、私の機嫌を損ねると『られる』と本能が訴えたという。まったくもって失礼な話である。

 その後は二回程見張りの団体さんと戦って、少しづつだが豹男とワンコ青年にも疲れが見えて来た頃、目指す町役場らしき建物が見えて来た。

 丁度その時。

 イーアと共に残したルピアに何か異変が起きた事は、私に虫の知らせのように届いた。

 虫と戦っている中で虫の知らせ。それ何の冗談? とのツッコミはいらん。

『マユカ……』

 すぐ耳元でルピアに呼ばれた気がした。

「ルピア?」

 思わず辺りを見渡したが、勿論こんな所にいるはずも無い。いればそれはそれで問題だ。

「どうしたマユカ?」

「ん、何でも無い。気のせいだ」

 もう二キロくらいは歩いて来ただろうか。中央広場は繁華街の横手にある図書館の近くだとグイルが言ってたから、広場からでも一キロくらいある。全行程を馬で移動しても良かったのだが、目立つといけないので耳かき部隊用に置いて来た。

 それにしても……。

 さっきのルピアの声は酷く弱々しかった。それに何だろう。この嫌な胸騒ぎは。ルピアの身に何かあったのだろうか。

 酷く気にはなるが、すぐ目には役場がそびえている。

 そして、尋常ならざる殺気も感じる。

 この中に強い奴がいる。それがわかる。

 もう向こうには見つかっているか、今までに倒した見張りのヴァファムから報告が行っているだろう。どうも虫達はテレパシーの様なもので交信している節がある。

 ここにいるのは『役つき』と呼ばれる、軍隊でいう所の将校の様な奴。無事倒すまでは、非戦闘員であるルピア達を呼ぶわけにはいかないのだ。

 不気味に静まり返った石造りの立派な建物。

 その役場の重いドアに、私は手を掛けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ