第一話
「さて、と……」
ある意味、神様に(半ば強制的に)見送られてから、異世界であろう大地に降り立てば、女性がくるりとこちらを振り替える。
「そういえば、自己紹介がまだだったから、ちゃっちゃと済ませちゃおうか」
「えっ……、確かにそれは必要かもしれませんが、今するんですか!?」
「だって、町に着くまで、自己紹介できる余裕があるとは思えないしね。何が居るのかも分からないこんな場所で、私はともかく、君は確実に死ぬよ?」
確かに、僕は死ぬかもしれない。神様の知り合いで、会話も出来る女性なら打破できる状況でも、僕という足手まといが一緒なら、早々に切り捨てられて、この森に放置なんてことも――……
「君が何を考え、思おうと構わないんだけど、君を放置する気は無いから」
「……」
「最初から何でも出来るなんて人は居ないんだから、最初ぐらい、大人しく従っておきなさい」
そういうわけだから、自己紹介を済ませちゃおうか、と女性は言う。
「私は鷹森結理。あのバカに指名された貴方のサポート役です」
「あ、相沢鳴です」
これからよろしくと言って握手をし、自己紹介が終われば、鷹森さんは「それじゃあ、手始めにどうすっかなぁ」と何やら考え始める。
「正直、君の格好だと、多分森を抜けるのは無理なんだよね。私が戦闘を担当したとしても、君にいくら体力があったとしても、絶対に途中で疲れるだろうし」
「絶対と言い切りますか……」
「なら、君は初見の森を簡単に抜けられると? それこそ、森を馬鹿にしてる」
夜になるまでに町付近まで行ければなぁ、と鷹森さんが言っている時点で、やっぱりこの状況はマズイらしい。
「……」
装備も何も無い状態だから、僕には鷹森さんが考えるの見てるしかない。
知識はあっても、身体能力が上がっていても、今の僕にはどうすることも出来ない。
「――うん、もう状況が状況だし、初っ端から飛ばしてもいいよね?」
あ、嫌な予感。
「君に最初からこんなことに慣れさせるのもどうかと思うけど、ちゃちゃっと武器を装備して、防具に着替えちゃおっか」
あっさりと言ってのけてくれるが、そんなものどこに――と思っていたら、鷹森さんは鷹森さんで、どこかの空間に手を突っ込んで、何かを探していた。
「あ、あったあった。とりあえず、簡易的なものだけど、無いよりはマシだし、遠慮せずに使いなよ」
「鷹森さんのは……」
「ああ、私は大丈夫だから、気にしないでー」
そう言われても、こっちは気にするのだが。
それにしても、年期の入った武器に対して、綺麗な防具である。
「もしかして、着方分からない?」
「あ、いえ、知識があるので大丈夫です」
そう返せば、「だよね。私は自分の武器用意するから、そっちで着替えておいで」と言われてしまう。
要するに、「目を逸らしといてやるから、さっさと着替えてこい」ってことなんだろう。
年上の女性に気を使わせたのもあれだが、防具を身に着けている最中も、後ろでがちゃがちゃと音がしていたから、武器を選んでいるんだろうなぁ、と思っていたら。
「わー、懐かしー! あ、まだ補正機能、効くんだー」
何か、嬉々として、真っ黒な鎧を手にしていました。
「え? あの、鷹森さん……?」
何ですか、その不気味な鎧は。
「ああ、これ? 前に使ってたやつだね。どうしても正体隠さないといけない時があってさ。これ着て全力疾走したこともあるんだ」
鎧着て全力疾走って……
「一体、何者なんですか。鷹森さんって」
聞いちゃいけない気がしたから、聞かないようにはしていたのだが。
「神様から聞いてないの?」
「聞いてませんね」
神様を『アレ』呼ばわりしてるけど、そういえば、鷹森さんは鷹森さんで普通に名前呼ばれてたっけ。
「それじゃあ、自己紹介のし直しだね」
そう言って、鷹森さんは持っていた鎧を空間に戻すと、姿勢を正す。
「時空管理局、戦闘機動課所属。現・空間神の神子にして、グラスノース世界の神の一柱、鷹森結理です。ちなみに、これは全部正式な肩書きだから、中二病扱いとかしないでもらえると有り難いかな。――まあ、そういうことなので、これからよろしくね。相沢鳴君」
「……な……」
な、何か物凄い人キターーーー!!
ちなみに、結理さんの黒い鎧についての詳細は、『グラスイースト編』にあります。