プロローグ
「あ、やっべ。また落としちゃったよ。というわけで、二つ。二つ探してきて」
いろいろなことをすっ飛ばし、目の前の人物はそう言った。
「……あの、それより、ここがどこで、貴方が何者かが知りたいんですが」
「ん? ああ、安心して。案内役はちゃんといるし、彼女が全部教えてくれるから」
彼女、ということは、その案内役は女性なのだろう。いや、女の子、という可能性もあるわけだが。
「そもそも、一体、何をしているんですか?」
「これ、知らないの? ジグソーパズルだよ?」
「見れば分かります」
ただ、そのジグソーパズルが透明なのが気になる。
「でさ、このパズルの欠片を探してきてほしいんだよね。この世界のどこかにあるはずだから」
あるはずだからって何だよ。
あやふやすぎる。
しかも、会話が成り立ってることに驚きだよ。まあ、成り立たせてるのはこっちだけどさ。
「……はぁ、それで、見つけ方とか何か無いんですか?」
「んー……一応、君には『パズルの欠片が分かる能力』は与えるけどさ」
ダメだこいつ、やる気ねぇよ。
何とも言えない返事をしながら聞いたけど……え、何。『パズルの欠片が分かる能力』って。
「その、『パズルの欠片が分かる能力』って……」
「え、言葉通り、『パズルの欠片が分かる能力』だよ。欠片って、何でか知らないけど、ダンジョンにあったり、強力なモンスターと融合してる場合もあるんだよね」
は? 今、何つった?
「ああ、安心して。僕もちゃんと探しに行くから。あちらへ降りて再会した暁には、よろしくね」
何がだ。
「じゃあ、レッツゴー!」
「え――」
明らかに突き落とす、と言うような行動をする目の前の人物に対し、「結局この人は何だったのか」や「サポート役の人が真面目な方が良いな」と思っていたのに、目の前の光景が変わり、目の前の人物の片手を付きだした変なポーズがおかしく思えてきた。
そして――
「おいこら、何勝手に喚び出してくれてんだ」
目の前の人物を足蹴りにする影が見え、気づけば身体の傾きも止まっていた。
「君もさ、ちゃんと自分の要望は言わないと。言葉通じなかったら、自力で覚えることになるんだよ? 発音はともかく、読み書きなんていつまで掛かるか分からないんだから」
はい、ごもっともです。
「って……ん?」
――態勢を直しつつ目を向ければ、女の人がいた。
おそらくこの女の人が案内人なんだろうが、呆れたような目を向けられてるのは気のせいか?
「とりあえず、生活に必要であろう言語、先のことを考えて身体能力の上昇、魔法使用及び魔法耐性をこの子に掛けてあげなさい」
「えー……そんなにいるの? めんどい」
その言葉に女の人がぴくりとした。
「面倒くさくてもやるの。他の神様だって、勝手な都合で喚び出したことに罪悪感感じて、特別な能力を与えてるんだから、あんたが自分の都合で喚び出したこの子にも掛けるべきでしょうが」
「だから、『パズルの欠片が分かる能力』を……」
「んなもん、探す間にしか役に立たんだろうが」
あ、確かに。
さっきから女の人の言葉に頷いてばかりだったけど、かなりパニックになっていたらしい。
「私を喚んだ以上、その辺はきっちりとしてもらいます」
「えー……じゃあ、帰――」
「らないから」
あ、言葉を遮られたのと拒否されて落ち込んでる。
「結ちゃん、西からやっと帰ってこられたばかりでしょ? 休まないと――」
「問題ないし、喚んだのはそっち。仮に逃げようとしても、他に追いやろうとしても、私は管理局経由でいつでも来ることが出来ますから無駄ですよ?」
ぐぬぬ、と唸る目の前の人物に、“結ちゃん”と呼ばれた女の人が振り返る。
「ごめんね。こいつ馬鹿なのか、同僚でも他人に気を使うことがないから」
「酷いっ! いくらなんでも、そこまで言うことないでしょ!?」
喚く目の前の人物に、女の人は無視して肩を竦める。
「本当にごめんね。君が帰りたければ帰すから」
「ちょっ、結ちゃん。召喚して頼んだのは僕だよ。勝手なことされちゃ、困るよ……!」
「なら、面倒くさがらずに、きちんと面倒みなさい」
……何と言えばいいのだろうか。
目の前の人物が母親か姉に叱られた子供みたいだ。
「うぅ……分かったよぉ」
そう言うや否や、こちらに向けて手が振られると、体が光る。
「今、言語関係に身体能力関係、魔法関係とこの世界の地理と歴史の知識を与えたから」
「ま、確かにそれだけあれば、不自然さは減るだろうし、何とかなるだろうね」
「あ、でも、武器に関しては、いくら身体能力が増減してるとはいえ、必ず扱えるとは限らないから」
マジっすか。
「まあ、剣とか使いたければ、結ちゃんに聞けばいいよ」
曰く、目の前の人物は魔法専門であり、武術系はあまり得意ではないらしい。
逆に女の人は文武両道、どちらも器用に扱えるタイプらしい。
……何か、凄い人がパートナーになっちゃった?