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「まさかアンタが本当にただの変態だったなんてね。元から思ってたことだけど今のでさらに幻滅したわ。これからアタシの半径十キロ以内に入らないで、きしょいから」

「いやお前、流石にそれは無理だろ。半径十メートルならまだしも。考えて物言えよ」

「うるさい黙れ、でくの坊でストーカーの変態」

「それもうただの悪口だよな? 小学生かよお前は」


 ――先ほど、天馬がうっかり入ってしまった場所、それは女子トイレだった。


 急いでいたからでは理由としては弱いだろう。気になる女子が入っていったからというのはもっとよくない。それこそ、ただのストーカーとしてドン引かれるのが目に見えている。しかし事実である以上、悲しいかな他に理由も見付からず、多少ぼかしつつ脚色までして六反田に話したところ、天馬の経歴に変態の二文字が加わり、今に至るというわけだ。


 現在いる場所は昼休みに利用した中庭で、舌戦繰り広げる天馬と六反田の他に、案に違わずマシロが一人、それから引き止めることに無事成功した龍泉寺が一人の計四人、傍目に三人と紛らわしいことになっていた。

 今朝の天気予報では、気象予報士が降水率八十パーセントと言っていたにも関わらず、午前中あんなに大量にあった黒雲もどこか別の場所へ流れていったようで、上空には久しぶりに綺麗な夕焼け空が広がっていた。


「……で、この痴話喧嘩を見せるために、私はここに居残らされてるの?」


 二人掛けの椅子に天馬とマシロ(物に触れられる状態にしてある)、その正面に、木製のテーブルを跨いで六反田と龍泉寺が座っていた。

 半ば呆れた様子の龍泉寺に、引きとめた側の天馬から切り出す。


「痴話喧嘩でもねェし、意味深なこと言って帰ろうとしたのはお前だろ。……つかれてる。あれは俺が幽霊に取り憑かれてるって意味で言ったのか?」

「へえ、自覚あったんだ。まぁ話してるように見えたからそうかもとは思ってたけど」


 この反応、二つの意味でドンピシャだ。

 一つ目は憑かれているということと、もう一つは龍泉寺にマシロの姿が見えているということだ。


「九条君の隣にいる彼女はお友達? それとも守護霊かな」

「ちょ、ちょっと待て。話を進める前に俺の方から訊きたいことがある」

「なに? 三サイズ以外でいいなら答えるけど」

「ああ……って、ちょっと待て。その言い方だと俺がお前の三サイズを知りてえみたいじゃねェか」


 このことでなぜかマシロが胸元を隠し、六反田に至ってはゴミを見るような目で天馬を射抜いた。

 取り付く島もない、と天馬は思った。


「……龍泉寺。霊が見えるってことは、お前は霊能者だったりすんのか? それともそれに準ずる何かとか」

「残念ながら、私は霊の存在を知覚できるだけの一般人。九条君の望むものとは異なるかもね」

「ん、そうか」


 事の顛末を聞いてあっさり引き下がる。

 そりゃあ、そんな都合よく霊能者が転がってるわけないわな。期待してなかったと言えば嘘になるが、大きめの宝くじで三等を当てるくらいの確率は必要だろう。とは言っても、幽霊を視認できるだけでも十分凄いことには変わりないんだけどな。って、これじゃあ自画自賛になっちまう。


「話の腰を折って悪かったな。さっきの質問に答えると俺にもよく分かってねえんだ。そもそも、こうなったのには複雑な事情があんだよ。少し長くなるかもしんねェけど、聞くか?」

「まあ、どうぞ」


 天馬は昨日起きた出来事をできるだけ短く、かいつまんで話をした。

 もちろん、今日の出来事からも重要な部分だけを抜粋して。


 一通り話しを聞き終えた龍泉寺は、「なるほどね」と軽く相槌を打つと来る時に自販機で買った缶コーヒーに口をつけてから、


「霊のことならその手のスペシャリストに頼るという発想自体はいいけど、私から言わせてもらえば安直すぎるね。漠然と霊能者に任せることしか言ってないから、記憶を取り戻すというビジョンはあるのに、その先がまったく見えてこない。青写真でもいいから描いて、もっと外連味を利かせるべき」


 口から飛び出したのは、思った以上に辛辣しんらつなコメントだった。

 提案者である六反田は、あまりメンタルが強くないのか、うぐっと悔しそうな声を漏らすと下唇を噛んだ。

 その惨めな姿を見たからではないと思うが、龍泉寺がすかさず補足する。


「たださっきも言った通り、その発想自体盲点と言えるものだから誇っていいと思う。そのやり口もてんで駄目ってわけじゃない。……少し上からすぎるか。もし今ので気を悪くしたのなら謝る。ごめん」

「べべ、別にこの程度で気なんか落としてないから謝んなくてもいいわよ。続けるなら続けて、どうぞ」

「そう? ……他に聞いてて思ったんだけど、マシロさん自身の情報があまり開示されてないように思える」

「マシロの情報って、こいつ記憶喪失なんだぞ? 情報もくそもねえだろ」

「違う、そうじゃない。私が言いたいのはそういうことじゃなくて、……寒いな、外。ここじゃなくて、もっと違うところで話さない?」

「場所を変えるのはやぶさかじゃねェが、そう言うからにはちゃんとあてはあんだろうな?」

「あそこ」そう言って龍泉寺が指差したのは北校舎の四階。「部室があるから、私の」


 いち早く立ち上がる龍泉寺は、誰の返事を待つこともなく、すたすたと歩き始める。


「ちょっと自己中心的すぎるんじゃない? あの子」


 お前が言うなと天馬は思ったが、団体行動を乱すのは確かによくない。規則の乱れがなんとやらだ。

 立ち上がり机に置きっぱなしになっていた缶コーヒーを手に取る天馬は、どこか物寂しげな背中に「おい!」と声を掛けた。立ち止まる龍泉寺。


「まだコーヒー半分くらい残ってんぞ!」

「あ、そっち突っ込むんだ」


 笑顔を取り繕うマシロの横で、龍泉寺の言葉を待つ。

 制服のフラップに両手を突っ込ませる龍泉寺は、その場で踵を巡らせると前屈み気味にいたずらっぽく笑ってみせた。


「上げるよ、それ」


 その日、天馬は間接キスというものを生まれて初めてした。


ちょっと進展しました。

次回、近日中。

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