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 僕の脇腹に鋭い異物が深く刺さった。嫌な感覚だ!!

 身体からだんだんと力が抜けていくのが分かる。


 ――でも、逃げないと……


 僕は必死に走った。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 僕は身体を引きずるようにして目的の小部屋に駆け込んだ。


 ――ここまで来れば……っ!?


 安堵の息を吐き出す間もなく、僕の視界はぐらっと傾き、気づけば身体を地面に打ち付けていた。


「がはっ!」


 ――何だ、何が起こった。


「くっ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 状況を確認しようにも身体がまったく動かないが、顔や身体中に少し冷んやりと伝わってくる感覚。


 ――これはダンジョンの石畳……そうか、僕は倒れた、のか。


「くっ……」


 ここはダンジョンの地下一階。出入口に最も近い安全部屋だが、ジメジメ湿ってカビ臭い。


 少し埃が積もっている状況からもこの部屋が殆ど利用されていないのが窺える。


 それもそのはずだ。


 こんな近くの、ジメジメカビ臭い安全部屋を利用するくらいなら、すぐに近くにある出入口から外に出た方がマシなんだ……


 だから、ここで他の冒険者が来るのを待っていても意味がなく、脇腹のケガの深さからもこんな所で寝てていいはずもない。


 ――起きないとっ……


 脇腹を押さえつつ、身体を起こそうとするが、ピクリとも動かせなかった。


 実際、脇腹を押さえているのかすら分からない。


 ――あはは……もう痛みも何も感じないや……あれ、懐かしいなぁ……


 薄れていく意識の中、これまでの人生が走馬灯のように浮かんでは消えていく。


 ――――

 ――


 僕の名前はシオン、14歳。


 孤児院の前に捨てられていたところを院長が見つけてくれ育てくれた。


 今でも各地に溢れだす魔物によって親を亡くした子供たちが後を絶たず、スラム暮らしをしている子供もいるくらいだった。


 それだけ親を亡くす子供が多く、王都にある孤児院だけでは抱えきれなくなっていたのだ。


 それを思えば孤児院の前で拾われた僕は、まだ恵まれている方だったのだろうと思う。


 貧しい生活を強いられてはいるが、寝る場所と少量でも口に入れることができていたのだから。


 でも、そんな僕たちも12歳になれば卒院し自立しなければならなかった。


「あ、そこのお兄さん荷物持ちましょうか?」


「うるせえ! 汚ねえガキが近づいてくるな」


 僕はとぼとぼと歩き路肩に腰を下ろした。


 ――こんなに冒険者がいるのに……




 僕の住む町はママール王国の王都アルスレイという大きな町だ。


 アルスレイは王都だけあって人や物、お金が集まり活気に溢れた都市だ。


 というのも王都にはダンジョンがあり、毎日のように莫大な量の魔石や魔物の素材が冒険者たちの手によって排出されている。


 そう、王都はダンジョン都市でもあったんだ。


 そのため、ここアルスレイを拠点として活動している冒険者たちの稼ぎはいいらしく、毎日、美味しそうな酒や食事を前に、流行りの話題に花を咲かせている。


 ……けど、それは冒険者じゃない僕にはまったく関係のない話だった。



 孤児で12歳の僕にできる仕事は少なく、あったとしても雇ってくれることはなかった。


 町の清掃などの簡単にできる仕事は孤児院がまとめて国から引き受けている。


 僕もやってきたのだから、それは分かっている。分かっているけど、仕事がなければ僕は野垂れ死ぬ。


 なんとかしなければと焦ってはみるが、ほんと仕事なんてない。


 どうしようかと、途方にくれているところで、たまたま冒険者の荷物持ちをしている子供を見かけた。


 それから僕は、稼ぎの良さそうな冒険者を見つけては声をかけ、ダンジョン内で荷物持ちをする仕事を始めた。


 ダンジョン内の荷物持ちは常に危険との隣り合わせだったけど、それでも生きるためにやるしかなかった。


 まあ、そうは言っても12歳の僕は、重い荷物なんてそう多く持てやしない……


 当然、冒険者からはいいように顎で使われる毎日で、薬草の採集やダンジョン鉱物の掘り起こし、その他の雑用、荷物持ちとは別の仕事を押し付けられる。

 もちろん報酬なんて払ってくれない。ただ働きだ。


 でも、いずれ僕も、冒険者として稼いでやるんだと心に決め頑張っている。


 そんなぎりぎりの毎日だったけど、卒院して早二年、僕はなんとか生きている。


 荷物持ちの仕事も少しは板についてきたけど、相変わらず、ぎりぎりの生活を送っていた。


 それにはちゃんと理由があって、冒険者たちは僕を見下しまともにお金を払ってくれないこともしばしば。かといって冒険者相手に払ってくれと強く言うことはできない。


 僕にとって一番怖いのはケガを負うことで、仕事ができなくなること。


 手を出されて下手にケガなんてすれば、お金のない僕にとってはすぐに死活問題になってしまう。


 昨日だって一日中、荷物持ちをしてたったの500ダネだった。

 でもまあ、その前の日は採集もさせられたのに1ダネだって払ってくれなかったから、払ってくれただけでもマシというもの……


「あ、そこのお兄さん。荷物持ちしますよ」


「ああん! お前みたいなくそガキが役に立つか!」


「あはは、そうですよね」


 ――こわっ、優しそうだと思ったのに……くそ〜僕だって……


 今は冒険者たちを真似て、魔法や剣術スキルの練習をしてるんだ。絶対、冒険者になってやるんだ。


 そんな毎日、そして今日も運良くソロで活動しているという中年冒険者の荷物持ちの仕事を得ることができた。


「そこのお兄さんソロですか? じゃあ荷物持ちますよ」


 そう、僕はお腹の出ている中年冒険者に声をかけた。


 強そうには見えなかった。どちらかというと駆け出し冒険者? それが僕の第一印象だった。


「お前がか? いいだろう。俺はな……」


 何でもこの冒険者は、凄いスキルを持っていて自分は実力があると、だから今日は十階層を目指すのだと、得意げに僕に言った。


 なんとなくウソじゃないかな〜と思ったけど……


「凄いですね~。じゃ、僕が戦闘の邪魔にならないように荷物持ちますね?」


 別に僕はこの中年の冒険者が十階層に行こうが行くまいが、荷物持ちの報酬さえ貰えればいい。愛想良くして中年冒険者を担ぎ上げつづけた。


「よし、いいだろう!! ほら荷物だ持て」


 そのお陰か、気を良くした中年冒険者からいい返事が貰えた。


 ――よし! 今日はお腹一杯ご飯が食べれそうだ。


 心の中でガッツポーズをした。


「はい!」


 僕は中年冒険者の荷物を担ぐとダンジョンに入った。


 ダンジョン内を歩くこと数時間、中年冒険者はまだ入口から少し離れた辺りをふらふらと歩いていた。


 一度の戦闘をすることもなく……


 このままでは報酬はもらえずただ働きになりそうだと危惧した僕は……


「冒険者様? 僕、地下ニ階までの道なら分かりますよ案内しましょうか?」


 そう、地下ニ階層までの道のりの案内を買ってでたのだが、返事は思わしくなかった。


「むっ! 案内はいらん。い、今は体を慣らしてるのだ」


 少し不機嫌な顔をした中年冒険者が僕を睨んできた。


「そうだったんですか、すみません」


 ――いけね。これで機嫌が悪くなったらますます報酬もらえなくなる。


 それから僕は魔物が出ることを祈りつつ、中年冒険者の後ろを歩いていた。


 僕が言ったことを気にしてか、中年冒険者は少し先に進み、今度は通路を行ったり来たりと歩き始めた。


「いました!」


 そんな時だった。僕たちは三体のゴブリンと遭遇した。


 ――よし!


 ゴブリンは、僕には倒せない相手だけど、普通の冒険者たちなら楽に倒せる相手だ。


 この時の僕は、これで報酬が貰えるとただ純粋に安堵したものだけど……


「冒険者様、ゴブリンが三体です。慣らしには丁度いいんじゃないですか?」


「で……で、出たよ。ほんとに出た!」


「何です?」


「ぁゎゎゎ……きぇぇぇぇ!!」


 なんと、その中年冒険者はゴブリン相手に怯え始め奇声を発し始めた。


「冒険者様?」


 さらに、その中年冒険者は僕の背後へと回り込んだかと思えば、ゴブリンたちに向かって――


 ドンッ!!


 僕の背中を蹴り出し囮にして逃げたのだ。


「っ!? ちょっ……」


 運が悪かった。背中を蹴られた僕は、担いでいた荷物の重さで体勢が崩れてしまった。僕は反射的に倒れないように踏ん張った。


 ブスッ!


「え!?」


 倒れた方が良かったかもしれない、僕は踏ん張り態勢を崩した状態で動くことができず、気づけばゴブリンの持っていた鋭い骨で脇腹を刺されていた。


 ゴブリンのニヤリとした凶悪な顔がチラリと見える。


 キケケケッ!


 あっ、という間だった。


「ぁ……ぁぁっ……」


 異物の刺さる嫌な感覚だ、脇腹から熱さがどんどん広がっていくが、不思議と痛みはない。


 ――思ったほど深くない、のか?


 ギャーギャーと嬉しそうにゴブリンたちが僕を取り囲もうと動き始めた。


 ――こ、殺される。


 慌てて、僕は背中の荷物を捨て、入口に向かって駆け出した。


 ――逃げないと……


 すぐに後からはゴブリンたちの足音が聴こえる。


 ――引き離せない!!


「はぁ、はぁ……!?」


 ――あそこなら!


 思い浮かんだのは出入口付近にある安全部屋。僕は必死に走った。


 だけど、走り出してすぐ、自分の身体に違和感を感じた。


 ――あれ……身体が変だ……


 走らないといけないと分かっているけど、だんだんと力が抜けていく。


 それでも背後から聞こえてくるゴブリンの足音から逃げようと焦る自分がいる。


 ――見えたっ、あそこだ!!


 足が前に出ない。でも……


 ――あの安全部屋に行けば……大丈夫。


 僕は、その事しか頭にはなかった、とにかく必死だった。


「はぁ……はぁ……はぁ」


 力を振り絞って走る。吐く息はすでに荒い。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 ――感覚が、ない。僕は走ってるんだよな……?


 もう、走っているのか歩いているのかもさえ分からなくなっていた。

 それでも必死に足を動かし――


 ――ここだ! 助かっ……


 安全部屋に転がるように逃げ込んだ僕は倒れだ。


 ――なんで……!?


 ゆっくりと僕の血が地面を真っ赤に染めていることに気がついた。

 慌てて両手で押さえて見たもののすでに感覚がない。


 ――このケガでは……無理だ。


 そこで初めて自分のケガの深さに気がついた。


 ――あはは、なんだよ。このケガ……


「……くそ……」


 今の僕にこれほどのケガを治す術がない。


 ――くそぉぉ!!


 薄れる意識を唇を噛み締めて辛うじて意識を繋ぎ止める。


 僕は右手を地面に叩きつけようとしたが、それさえも叶わなかった。力が入らないのだ。


「なんだ、よ、これ。もう……これで、終わりなのか悔しいな……くそ、くそおぉぉ」


 僕の瞳から大粒の涙が流れ落ちる。


 孤児で親がいないとよくバカにされた。奉仕先では見下され奴隷のように扱われた。まるで虫けらを見るように、誰も僕を見てはくれない。


 冒険者たちにからは役立たずだと罵られた。足手まといだったと荷物持ちの費用をケチられた。


 僕は見返したかった、必要とされたかった、それなのに……


 今までの思い出が走馬灯のように浮かんでは消えていく……意識がだんだんと薄れていく……


 ――あははは、懐かしいなぁ。孤児院……楽しかったなぁ……みんな元気だろうか……


 記憶は流れる続ける、10歳、7歳……3歳……さらにシオンの知らない深い深い記憶まで……


 ――えっ……!? 学校? こういち……だれ? 僕?


 その記憶は前世の記憶だった。日本という別世界で生きていた記憶……


 クラスメイト30人と突然異世界に召喚され勇者と呼ばれた記憶……


 クラスのみんなは勇者の証である光魔法のスキルを持っていた記憶……


 自分だけ魔族が使うと言われた【身体魔強化】【再生】のスキル所持者だった記憶……


 極めつけに【暗黒魔法】スキルだった。


 皇国に表面上ではクラスメイトみんなと同じように歓迎され、見たこともない豪華なご馳走を施された……そこから記憶が飛び……僕はその日に猛毒を飲まされもがき苦しむ記憶だ……そこで記憶は途切れた。


 ――ああ……


 ――ああ……思い……出した……


  僕は江藤光一(エトウコウイチ)だった。


 ――……これは転生って奴か……はは、折角思い出したのに……僕はまた……死ぬの……


 無意識に唇を強く噛みしめていた。


 その先に少しの痛さを感じ、少しだが意識を持ち直したけど、視界は真っ暗で本当は寝ているのかもしれない。


「嫌、だ」


「死に……たく……ない」


 僕は藁にもすがる思いで刺されケガしたところが治れと、死にたくないと念じ続けた。


 ――治れ……


 本当は神様が最後にお情けで見せてくれた都合のいい夢かも知れない。


 ――それでもいい


 習得していないスキルだが、前世の記憶では光一が取得していたスキルだ。


 ――【再生】


 ――【再生】


「再、生……して、くれ……たの、む」


 僕は何度も何度も意識を保っている限り念じつづけた。


 ――【再生】


 ――【再生】


「さ、い……せい……するんだぁ!」


 口を開いた衝撃で押さえていた傷口から血が少し噴き出した。


「ぐっ……」


 その時だった――


 ズキッ!


 ――ぐぅ、頭痛が……


 ズキ、ズキッ!!


「ぐぁ……」


 ――頭が割れるようだ。


 玉のような冷汗が額から流れ落ちる。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 尋常じゃない痛さに、薄れていた意識が一時的にはっきりし感覚も少し戻ってきた。


「ぐぅぅ……」


 ――痛い! まるで頭の中にあるすべての血管が切れそうだ。


 あまりの痛さに頭を抱えたいが、身体や両手は思ったとおりに動いてくれない。


「ぐっぁぁ……!!」


 どちらにしても何もしなければ、待っているのは死だ。僕はさらに念じ続けるしかなかった。


「はあ、はあ、はあ」


 ――【再生】


 ズキッ!


 ――【再生】


 ズキッズキッ!! ブチッ!!


「がぁぁ……」


 ――痛い、頭が割れるように痛い……でも……


 頭が痛くてやめたくなる気持ちを、刺された傷口の方をグッと押さえ痛みを脇腹へと、思ったが感覚がなくあまり意味がなかった。


 ――……まただ、まだまだ、さ、【再生】!!


 ズキッ、ズキッ、ズキッ!!


 ブチッ!!


 まただ、また頭の中で何かが切れていく感覚と激しい痛みが襲いかかってくる。


「ぐわぁぁー!!」


 ビリッ!!


 最後に、頭に中に電流のようなピリッとした刺激が走り【再生】スキル発動と共にスキル取得のイメージが流れてくる。


【身体魔強化、再生、暗黒魔法、毒耐性スキルを再取得した】


 そんな不思議な声が頭に響いてきた。


 ――!?


 ――脇腹がムズムズする。


 それから、急に脇腹を始め身体中がムズムズもぞもぞと不思議な感覚に包まれていく。


 ――なんだ?


 痛みが和らいだためか、うっすらとだが目を開ける事ができた。


 僕はもぞもぞと一番気になる傷口あたりに目を向けた。


 ――っ!?


 すると、脇腹の傷が盛り上がり少しずつ塞がっていっている。モゾモゾと見ていると気味が悪い。


「これが……再生の力なのか?」


 僕が呆気に取られている数分後には、刺された傷が完治していた。


「治っ、た?」


 傷口を触ってみるが、そこにキズらしいものは何もなく綺麗な肌に戻っていた。


「はは、やっ、やった、やったぞ。ぼ、僕は生き延びたんだ」


 ――あ〜、でも血を流し過ぎたのかな……身体がすごくだるいや。


「……」


「……」


 ――――

 ――


「はっ!!」


 横になっていると気が抜けたのか、気づけば少しの間、寝ていたみたいだ。僕はゆっくりと上体を起こし傷口を確認した。


「やっぱり治ってる。夢じゃない」


 今の僕には、前世の光一の記憶と、この世界で過ごしてきたシオンの記憶がある、なんとも不思議な気分だった。


「僕が召喚された国はたしかクイール皇国だったっけ……」


 手足にぐっ力を入れ動けることを確認した。


「この世界にある国なのかな?」


 ――スキルは使えたから同じような世界だと思うけど……僕が毒殺されたのって過去の話かな……それとも……


「……あの時は、たしか、皇国一の美姫と呼ばれた王女殿下に果実水を薦められたんだったなぁ」


 ――綺麗な人だった? あれ、よく覚えてないや。


「毒飲んで苦しむ僕の姿を見て、笑っていたっけな」


 僕だけ別室に通されたときに疑うべきだったんだけど、異性から誘われて断ることなんてできないし……


 女性にモテたことのない僕は浮かれていたんだよね。


 ――ああ、あの時、なんであんなに焦ってたんだろう。

 それに再生スキルが使えなかったのは何でかな……


 お陰で僕は、召喚されたその夜、城から出ることもなく、スキルだって使用することなく死んだんだ。


 ――……やめよう。


「そうだ。今回こそスキルを使ってみよう」


 試しに【身体魔強化】を使った。


 ――うわぁ、凄いや。これ……


 どうやら魔法で全身を強化して、全てのスキルや魔法の威力までも上げてくれるスキルみたいだ。


 視界がクリーンになりすべてが鮮明に見える。ダンジョン内の小さな虫の動きだって捉えることができた。


「これなら敵の攻撃も簡単には当たらないんじゃ……」


 ――次は、えっと。【毒耐性】はそのままだよね、前世は毒で死んだから耐性がついたのか……


「後は【暗黒魔法】って何だ?」


 ――ん?


 暗黒魔法の知識が流れてくる。


 無、火、水、風、土、光、闇、雷、木、神聖、の10属性魔法のどれとも該当しない、聞いたことない暗黒属性のようだけど……


 ――便利そうだからいいや。


「よし、これで僕も戦える。これなら荷物持ちじゃなくて冒険者にもなれる」


 僕は、歓喜に震えた。


 ――後は武器を確保して冒険者ギルドに登録しよう。そうと決まれば……ダンジョンを出るか。


 僕はさっそく解除していた身体魔強化を再び使う、全身の感覚も鋭くなり周りの気配を探る。

 感覚が研ぎ澄まされ辺りのモンスターの気配が手に取るように分かる。


「おお、これは凄い……ん?」


 この部屋の扉の向こうにも三体いる。多分先ほどのゴブリンだろう。相当諦めが悪いらしく、まだ安全部屋の前をウロウロとしているようだった。


「……良いこと思い付いた」


 暗黒魔法に暗黒魔装とある。暗黒魔装は暗黒の武器と鎧を纏えるみたいだ。


 ――武器だけでも魔装ってできないのだろうか? 物は試しだ。


 僕はファンタジーゲームの定番である、暗黒剣をイメージしてみた。


 体から魔力が抜けていく。



「うわっ……なんか抜けていく……これが魔力の減る感覚? ……採血した後に似ているな」


 そんな意味の無いことを考えている間に、僕の右手には暗黒の魔力が集まり、次第に黒い光を放ち始めていた。


 それが何かの形に成っていき――


 ――これは……剣?


 自分のイメージ通りの全体が真っ黒く臼黒いオーラを放つ暗黒剣があった。


「すごい……凄いや! 暗黒魔法、凄いよ!!」


 僕は暗黒剣を片手に意気揚々と立ち上がった。


「よぉし。ゴブリンは三体だ」


 不思議と恐れはない。それどころか一度死にかけた僕なら、何でもやれそうな気さえする。


 ――いくよ。


 僕は勢いよく扉を開けると、ゴブリンの手に持っている物を素早く確認し目標を決めた。


 ――まずは、お前だ。僕を刺した、あの時のにやにやした顔は忘れてない。


「はああぁぁぁぁ!!」


 僕は尖ったら骨を持っているゴブリンに向かって駆け出し、懐に潜り込み軽く横に振り払った。


 ズン!!


 そのゴブリンの首と体があっさりと離れた。


「遅い!! お前たちの動きは分かってる」


 ゴブリンは身体魔強化された僕の動きに全く反応できていなかった。

 それが嬉しくて、更に後ろにいるゴブリンに振り向き際に一振りした。


 スン!!


 頭から二体目を両断にした。


「お前で最後だ」


「ギッギギー!!」


 そのゴブリンが踵を返し逃げようとした背中を見せるが、僕はそのまま最後のゴブリンに暗黒剣を突き刺した。


「……」


 ゴブリン三体は溶けてダンジョンに吸い込まれるように消えた。


 そして、そこには魔石、錆びたナイフ、無骨なメイス、尖った骨、が残っていた。ドロップアイテムだ。


「剣を振った時の抵抗が全くないなんて……」


 右手の暗黒剣は役目を終えると消えてしまった。


「ははは……」


 未だ信じられない気分だけど、鮮明なままの視界に映るドロップアイテムを見て頬を緩めた。


 世界が変わったみたいだった。あれほど怖くて倒せなかったゴブリンを簡単に倒してしまった。


 新たに習得したスキルや魔法は、何も無かったシオンに確かな自信を与えるものとなった。

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