共通A 教会に住む
「お邪魔でないならしばらくお世話になります」
この神父そこそこ格好いいのよね。神父でなければ城に拐ってしまえたのに惜しいわ。
「今日は村に道化師が来ているようなのですが、一緒に観に行きませんか?」
「神父様が教会をあけてしまってよろしいんですか?」
というかいつもはクレフ一人で教会にいるのだから、悪魔が出たとき教会は留守。
「村はもかく教会の近くで悪魔が出た話は滅多に聞きませんから」
ついさっき留守のときに悪魔が出た。それはたまたま私の魔力を嗅ぎ付けてなのだろう。
「私、道化師は初めてみます」
「そうなんですか?」
魔城はテレビもないネットもない。
なぜなら娯楽は人間の作ったものなので、他者を笑わせるという道化師もいない。
だがさすがに怪しまれてしまった。
「あの、ピエロやサーカスはおろか電気も水道もないくらいとても田舎でしたから!」
「……それは大変ですね。この辺りも田舎と言われればそうですが電気や水道はありますし」
それは村というより街じゃない。頑なに村はずれと言うのはなぜ、こだわりなの?
「あれですね」
若いピエロ――いや、顔面を真っ白にしてシワが目立たないあの独特の化粧は年齢がわからない。
なんとなくジャグリングとやらを長い風船で形を作るのを見ていた。
―――ああつまんない。人間はこんなので喜ぶんだ。
――――いや、魔物でも笑うだろうが大抵のことは魔法でやれる私ができないこと、楽しいと思うことなどあるものか。
「あまり楽しそうではありませんね」
「そんなこと……いいえ、すみません」
ないと言おうとしたが、相手は神父だ。嘘なんてついてもすぐバレる。
「では他の場所へ行きましょうか」
「はい」
どこかしら、神父の行きそうな場所となれば無難な花屋か。
「……スラム街?」
「すみません。デートにふさわしくない場所で」
この神父いま何を言った。
「でっデート!?」
「違いますか?」
「ふふ、うら若い乙女をからかうのはやめてください神父様」
「このくらいで赤くなられるとは、初々しいんですね」
魔城にはロクな面をした男が兄かフロウしかいなかったので、デートには縁がない。
たまに外に出ていい男はいないか探そうとしても兄かフロウに妨害される。
それに人間はいつか死ぬわけで、いくら面がよくても愛しても短期で死ぬならそれは無意味だ。
いつか死ぬとわかっているペットを飼って死んで、また新しいペットを買う人間のよう。
「それともその美しさで多くの男を虜になさってきたとか?」
神父は余裕の笑みを浮かべ、私をからかう。ただの田舎娘と思って調子に乗っているわね。
「あ、神父さまー」
建物にいくと出迎えたのは人間の子供たち。これは孤児院というやつであろう。
「なになにー彼女つれてきたのー?」
「いいえ、私は神父ですから恋人ではありませんよ」
「おまえなにいってるんだよ神父さまは結婚できないんだぞー」
「なんで?」
「一生に一人しか愛せないっていう神様のきまりがあるし、神父さまは神様を愛しているんだって」
「じゃあ結婚はできなくても愛さないで恋人作るのもだめなの?」
「どうなの?」
私たちは人間のマセガキ達と戯れる。神父は純粋な瞳を向けられ、返答に困っている。
「他に好きな人ができる時点で、それまで好きだと思っていた相手を愛していたわけじゃない」
扉をあけて銀髪の青年が入ってきた。
このいかにもキザッぽい台詞をサラッと言うやつ誰よ。
「はじめまして美しいお嬢さん。私はネピスだ」
彼は私の手をとって口づける。
――――本当にキザ野郎だった。造形はいいので嫌悪感はないが、まあスコルティよりはマシだ。
「お久しぶりですね。何かご用ですかネピスさん」
「いいや、久しぶりに時間がとれたのでこちらの様子を見にきたら
たまたま堅物そうな神父が女性を連れているのを発見してね」
「それはそれは、その神父はさぞ迷惑した事でしょう」
「ああ、そうだね」
この二人知り合いなのね。孤児院のパトロンと訪問神父という感じだろう。
「ネピリアさん、彼はこの孤児院を建てられた方です」
「そうなんですか」
孤児院なんて子供を仕付けてヤバイところへ売り飛ばさない限り金儲けにはならないだろう。
ずいぶんと優しい心と金を持っているのねキザ野郎なのに。
「ネピリアさん。いくらそんな善人には見えない軽薄そうな方だからとはいえ、そのような以外そうな顔で見なくても……」
「君のほうがよほどひどいよ」
「ネピス様、そろそろお時間です」
「ああ」
「彼はネピスさんのところで働いているパルヴェさんです」
「……いかにも真面目そうな人ですね」
正直いって冗談が通じなさそうで融通がきかなそうで堅物そうな男だった。
「ではそろそろ帰りましょうか」
私達は教会へ戻ることにする。
「おや、今日は祭りの出店がありますね」
◆寄っていきますか?
【まっすぐ教会へ帰る】
【寄って行きたい】
【迷う】