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全員共通 消えた魔力に誰特トライアングル


―――私は悪魔達を納める魔女帝。

ありあまる魔力を、湯水のごとく使う。

そんなことを来る日も、来る日も続けていた。


城の玉座に座るだけで、代わり映えのない日々が何百年も続き、退屈になった私はお忍びで城を抜け出し、人の住む敷地に足を運んだ。


「あら……?」


なんだか意識が朧気になり、力が抜けていく。

―――――――――


ある日の夕方、母親と少年が森を散策していた。


「母さん陽が暮れてしまうよ、早く早く!」

「この森の奥に近づいてはだめよ」

「なんで?」

「森の奥には恐ろしい怪物の女王様が住んでいるのよ」


「へーあ、あそこに人が倒れてるよ!!」

「まあ大変。近くに教会があるからそこに運びましょう」


――――――――


目が覚めると、見知らぬ場所に寝かされていた。


柔らかな寝具、白く清潔なシーツに枕、簡素な壁、日が差す窓の他には特になにもない。


城の自室の寝具や部屋は黒を基調としているため、あまりに慣れない雰囲気に戸惑ってしまう。


どう考えてもここは魔とは対局のエリア。

倒れた私を通りがかりの人間が発見し、ここまで運んだに違いない。


「きがつかれましたか?」


黒く丈の長い衣服の男が、部屋に入ってきた。

金髪、首からクロスを下げている。

十中八九、神父とかいうやつだろう。

正体が知られると厄介だ。


「ええ……」


しおらしく、か弱い人間の女のように振る舞う。

スキを見てここから逃げよう。


「ここは村の外れにあるロスター教会です

私は神父のクレフです」


やはりこの男は神父、私はいま清浄な領域〈テリトリー〉にいる。


ここは教会なのだとしたら、膨大な魔力を持ち、悪魔を従える私には有害なエリア。


――――何も害がないのはおかしい。

いくら人間の姿を真似ても、本質までは変わらない。


見抜ける者なら気がつく筈。

だがこの男は神父でありながら私の正体を感知していないようだ。


「……私はネピリアです。あら~なんだか目眩が……」

「ゆっくり静養してください」


私が白々しい芝居をすると、神父は部屋を出た。


今のうちに元の姿に戻って、城へ戻ろう。

そう思って背に羽を―――――


生えない。それどころか、魔力がなくなってる?


きっと教会だから力を封じられているのだろう。

よし、窓から外に出よう。



だめだった。自身から魔力のマの力をまったく感じない。



そうだ。私は毎日魔力を使いまくっていたんだった。


魔力がないんじゃ城に戻れない。

配下に下克上されてしまう。


魔力が戻るまでここに居座り、隠れていようか。



「……神父さま」

儚げに上目使いで見つめる。


「はい、もう起きられて大丈夫ですか?」


希薄な反応で華麗にスルーされた。


「ええ……実は私、住む場所を追われ森を歩いている途中行き倒れてしまったのです」


嘘は言っていない。


「そうなのですか……

では、しばらく教会に住まれてはいかがでしょう?」


「……おねがいいたします」

――――――――――



「ったく……魔女帝様~ドコダー?」


使いパシりから城へ戻ると、魔女帝ネイピエリアの姿はなかった。


使い魔のオレは、契約者の居場所を感知する力がある。


―――筈なのだが、まったくそれが察知できない。


しばらく森を歩くと、ネイピエリアの魔力の名残があった。


「教会……?」


こんな場所にいる筈がないが、一応行くか。


悲しい話、オレは雑魚。

神仏による浄化の影響は少ない。

―――――――――――



あいつどうしてるかしら……。


私はここにくる数時間前、使い魔に買い物へいかせたのだが、すっかり忘れていた。


「……あ」

窓になにかコウモリがいる。使い魔のフロウだ。


「なにやってんだ?」

「……どちらさまかしら?」


私は通りすがりの村娘よ。

と思いながら目をそらす。


「バレバレだぞ。何年お前のパシりやってると思ってんだ」


フロウは窓越しにパタパタと羽を動作させている。


「私が退屈で城を抜けて森を歩いていたら倒れて目が覚めたら魔力なくなってた」


「意味わかんねー」


「そういうわけだからしばらく人間のフリしてここに住むから」


「はあああああ!?」


神父クレフィスは庭から見える窓辺に、近づく黒き物に視線をやる。


(あれは―――ただのコウモリか)

挿絵(By みてみん)


(この中に入れるということは、大した害はないだろう)

神父クレフィスは開きかけた書を閉じた。


(あの女……正体はわからないが、ただの人間ではないな。引き続き監視をしなくては)

――――――



「どうだ女帝<エンプレス>様!見ろよ!この黒い羽!」

フロウは羽をぱたつかせ、黒々としたそれをアピールする。


「はいはい」

私はフロウのパシ……、もとい買ってきたお菓子を食べる。


「こんなにプリチーなオレを無視するなんてひでぇよ……!」

「あのさぁ、私もう魔力ないからフロウとの契約も解除ってことでいいの?」


契約の書面は面倒だからフロウに丸投げしちゃったし、そこら辺の制約はまったく知らない。


「あー無理無理~契約はスタンダードにどっちかが死ぬと解除されるんだよ」


「へぇーつまりまだまだパシフロ[フロウをパシるの意]できるのか~」



「スコルティ様!!」

「なにネイピエリアが?」

「これは下克上のチャンスです!!」

「そうだな……くくく……」

―――


「なんだか寒気がするわ」

「魔女帝様本当に人間になっちまったのか……」

「ってことは私死ぬのかしら?」


人間でないから長い刻を生きられたわけで―――というか今生きていること自体奇跡じゃない?


人間の一生はあっという間に終わるらしいし、マジでやばいんじゃないのこれ。


「ネピリアさん」

「あらクレフ神父さま、なにかお手伝いありますかしら」

やりたくないけど一応聞いておく。


「いえ特にありませんが、体の具合はどうですか?」

「とても良くなりましたわ神父さまのお陰かしら(全然良くなってないしむしろ悪化したわ)」


そろそろ教会を出て魔力回復しないと――――


「お世話になりました神父」

と言って去ろうとしたが、神父に手を掴まれた。


「旅をなさっていたんですよね。住む家はあるのですか?」


―――しまった。作り話に矛盾が出てしまった。


「ほほ……いつまでもお世話になるわけにはいきませんもの~」

「構いませんよ」


遠回しに帰らせろと言ったが、神父には通じなかったらしい。



「で?」

フロウが呆れながらこちらをみている。今は人間の小僧のような姿をしていた。


「奴が外出しているときに逃げるわ」

――元よりそのつもりだったし、奴が中々外出しないから痺れをきらしたのだが。


「けど魔力もねーのに外に出て魔物に見つかったらどうするんだよ」

「だからって教会にいたら浄化されて魔力が回復しないでしょ」


リスクはあるが、かといって教会にいても魔力はたまらないしむしろ減る。せいぜい雑魚への抑止力になるだけだ。


「今日は取り合えず寝るわ」


ふだん使わない頭使って熱出そう。



「はあ……」


ネイピエリアはこれ見よがしにため息をつく。


「なんだよ」

「ここは質素すぎてローションティシューが使えないのよ!」


神父が買い出しに行っているので、フロウは人の姿をとって部屋の片付けをしている。


「はあ、そう」

「ベッドもシングルだしねぇ……私は女帝だけにクイーンサイズのベッドがいいのよ!」

「あれ別に男用とか女用とか関係ないと思うぞ」

「マジで?」


「助けて!!」


村の幼い少女が神父の元にかけこんできた。


「どうしたの?」


神父はいないので私がかわりに話を聞くしかない。


「悪魔!!悪魔がでたよ!!神父さま!!」

「いま神父様は留守なの……困ったわ」


―――これはきっとチャンスだわ。神父が留守の間に森へ出る大義名分ができたんじゃない?

私は少女に連れられ、フロウと森へ走る。


「あ……」


教会から一定の距離をあけると、力が戻った。


「まずい、プロテクターをかけないと感付かれるぞ!」

「そうね!」


私は意識を集中させ、魔力を気取られないようにした。


少女に連れられ、行った先には魔物に包まれ意識をなくす人間の女たちだった。


「ママ!!お姉ちゃん!!」


どうやらこの悪魔は女好き、今は昼ということはインクベスではなくアルモレウスあたりだろう。


「けけけ……こんなところで思わぬ大物にありつけるたァ!!」

「お前の相手はオレで十分だ!」


「フロウ……」

「―――なんて言うわけないだろ。オレただの小物だし中級なんて倒せないって!!」


フロウは目眩ましの魔法の後は少女をつれて後ろへ下がった。


そうね私は誰より強い魔女帝なんだから、私を守りたい男なんているわけないわ。


「全然期待なんてしてなかったわよ!」

「グアアア」


サクッと片付け、私たちは教会へ―――いや、なんで元に戻れたのに今さら戻る必要があるのよ。

城へ帰らなくては!!


進んでいると私に匹敵する魔力が感じられた。


「ネイピエリア様!!いくらなんでも高位悪魔の相手なんて無理だ!」

「なにいってるのよ王の私に敵うわけないじゃない」

「さっきは中級だったからサクッといけたけど力が一気に回復したせいで乱れてる」

「わかってるわ……でも逆にそっちのほうが強くない?」

「ネイピエリア様が強くても、暴発したらこのあたりが吹っ飛ぶだろ」


たしかに力を取り戻してまだ全開というわけでもない。


「ていうかなんでその子連れてきたの?」

「え?」

「人間のお嬢ちゃん、勝手に危ない人についてきたらだめじゃない。さあママ達のところへ帰りなさい」


私はやんわりと人間の少女へ諭す。


「やだ」

「なんで!?」

「お兄ちゃんかっこいいから一緒にいたいんだもん」


そういって人間の小娘はフロウの手をひく。


●その姿に私は……

《私のペットなのにムカツク》

《なんか変だわ……》

《からかう》


「放せ、オレは人間と馴れ合う気はねーよ」


フロウが少女を脅すと少女は去っていった。


「なんだ、未来の花嫁さんにしたらいいのに」

「はあ!?なにいってんだ冗談は花子さんにしてくれよ!」


それにしても高位悪魔がこんなところを召喚者なしに彷徨くなんて、普通なら考えられないわ。


「召喚でないとすれば、魔人族が魔霊物を使いパシりしているようね」


そして高位悪魔を使いパシりできる者など数えるくらいしかいない。


「やれやれ……仕度が整うまで足止めすることもできんとは中級は使えん」


――――この耳障りで嫌らしい声は!


「スコルティ!?」

「ふーお兄様、だろう?」


殺気がないから瞬間移動されてもまったく対応できなかった。


「アンタの存在事態が変態だわ!」

「ネピリア……?」


クレフ神父の声がして、私は人の姿をとる。

そして空気を読んだ兄も人の姿をとった。


「ああ、神父様!?」

「どうしてこんなところに?」

「村の少女に悪魔が出たと言われ、神父様を探していましたの」


嘘だがある意味、嘘はいっていないような気がする。


「そうですか、ところでそちらの彼は?」

「俺はネピリアの唯一の存在だ」


スコルティは私の肩を抱き寄せる。彼の前でこいつを突っぱねるのはためらわれるし、まあ唯一の身内というのは間違っていない。


「旦那さんですか、探し人が見つかったようで、よかったですね」


神父は優しく微笑んだ。


●なんだか勘違いされたわ。


《悪い気はしないけど誤解はとかないと》

《彼には勘違いされたくないので誤解をとく》

《ささっと誤解をとく》


「そうですか、早合点してしまいすみません」

「いえ」

「ネピリア、彼は色恋には疎い神父だから仕方無いさ。きっと結婚に憧れているんだろう」


スコルティは結婚できない神父をあわれんでいる。


「そんな言い方は失礼よ」

「すまない可愛い妹に異性が近づいて、つい気が立ったんだよ」


王の座を奪おうといつ私の寝首をかこうか必死のくせに心にもないことをいうわ。


「君がいなくなると、教会も寂しくなりますね」


●クレフ神父は寂しそう


《なら教会に通うことにする》

《教会に住んでもいいのかたずねる》

《さっさと帰ろう》


「そこまで言うなら、ネピリアが住んではどうだ?」


スコルティは私が教会に数日住んでいたことを知らないのか、神父を可愛そうだと見下している。


「ならお兄様も一緒にいきましょう」


居候は道連れ、力無さげよ。



「……村の外れで森の近辺となると人気も少ない。なんだか殺伐としているな」


スコルティは神妙な面持ちで教会〈てきち〉を分析しだした。


「あら怖じけづいたの?」


そんなことで帝王になれるのか、私は小声で彼を煽る。


「いかにも悪魔やら化物が出そうなエリアだと、お前を案じたまでさ」


なにをわかりきったことを言う。


「そんな恐い顔をしてどうした?」

「ええついさっき、悪魔に襲われたのよ」


「なんだって?」

「本当に怖かったわ」


さっきの中級悪魔やら強い魔力はこいつのせいだろうに、白々しい口ぶりだ。


「それで、どうなんだ?」

「悪魔なら太陽に当てられて昇天したんじゃないかしら」


私が昇天させたとはクレフの前で言えない。


「いや、だから怪我は?」

「残念ながらしてないわよ」


見ればわかるでしょうに、わざわざそんなことを聞くなんて変ね。


●もしかして―――

《心配するフリで私を騙す気かしら》

《こいつはやっていない?》

《悪魔が怪我をしたか聞きたいのね》


なんであれ今はどうでもいい。


「ネイピエリア、お兄様はここにいることにする。お前も嫌なら城に帰ろう」


自分から教会に住めばいいと言ったくせに、なぜ今さらそんなことを言い出したのだろう。

スコルティは教会に少し近づきはするが、入ろうとはせず森のあたりで待機した。


「どうしようかしらねフロウ」

私は蝙蝠姿のフロウにたずねた。


「なにいってんだ。魔力は回復したんだからここにいる意味ないだろ」


この姿のフロウの声は人間には聞こえないので、私がペットに語りかける変人と思われるのは必至〈ひっし〉だ。


「そういえばさっき教会をはなれて気がついたけれど、大気中の魔力が濃いわね」

「最近ここらでは吸血鬼ハンターのクリュトラやフォルに加えてエクソシストがいる。このエリア限定だが魔力を喰う奴が減ったんだろうな」


私たち魔族には魔物と魔人族がいるし、聖霊のような思念体と妖精のような物体で別れているが君臨するのに魔力が高い魔人であることは必須〈ひっす〉。

そして美しい人型をとれるのほうが本来の姿がなんであれ魔力が高いことになる。


故に高めようと必死〈ひっし〉な魔物がいるがそれらは人間を騙したり堕落させて力を獲る。


私の場合は私は霊態と物体のハーフだから生まれながらにすぐ魔力が回復する得意体質で、だから魔女帝になれたのだ。


つまり、倒れたのは教会に近づいて、環境変化による食欲低下のような状態になったとかだろう。


「どうしました?」


あまりに教会内に入るのが遅いからクレフが私の様子を見にきた。


●どうしよう


【やはりたまに通う事にする】

【えーい!住んでやるわ!】

【ごめん、さよなら!】

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