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己と向き合う

冬場に相応しい肌を刺すような風が丘の上に吹き付けている。カゲトラは重心を低くし、拳を構えて立っていた。


「やはり体が覚えている。私は以前武術に触れることがあったのだろうか……」


体が動くままに目の前の空間に向かって掌底を放つと、突然頭の中にノイズが走った。


「ヴィィィン ブッ ザザーッザー ッ ……世界システムとのリンク確立。アップグレードを試みます。アップグレード中……。……完了しました。これより再起動します……。」


カゲトラは視界が真っ暗になり、一瞬意識が飛んだかと思うとすぐに目を覚ました。そして、何処か変わった所はないかと、試しにステータスを開いてみた。


「ステータス・オープン」


カゲトラ 真人 Lv1

HP30/30

MP20/20

Gift 〈oblivion〉

Curse〈perfect remember〉


スキル

〈日下部流武術〉


「レベルという表示が増えている……。そしてスキル?も一つ増えているな。〈日下部流武術〉とはどういうことだ?これも聞いてみることのリストに追加しておこう。」


カゲトラは犬人を襲う真人を捕らえて詮索をしてみるつもりでいた。もしその真人が同じ日本から来たのであれば、何か情報を聞き出せるかもしれないと考えていたからだ。しかし、何となく想像はできた。


(リンクを確立とか言っていた。つまり私がよりこの世界の理に馴染んだ、ということではないのか?だからレベルという表示もつき、私がゴブリンを屠った時には増えなかったスキルも増えたと考えると納得できる。)


そうして考えることを一度止め、再び前方に掌底を放つと、右手の掌から細い雷のようなエフェクトが出現した。


「成程。スキルを得るとこのようになるのか……。ん…?何だ、掛け声が必要?」


カゲトラは何となく思い浮かぶことに任せ、さらにもう一度掌底を放った。


「破ッ!!」


突然雷のエフェクトが強くなり、勢いよくほとばしると同時に強大なエネルギーが掌底から生み出された。


「これは俗に言う必殺技というやつなのだろうな。しかしすごい威力だ。今はこれだけしか無いようだが、今後増えることもあるかもしれないな。……もしかして」


再びカゲトラがステータスを見てみると、MP量が5減っていた。やはり使用制限があるらしいことを確認し、ウンウンと頷く。そして、もう一つの気になることを確認した。


(取り敢えず声に出して言ってみよう。)


「オブリビオン!」


カゲトラが唱えた瞬間右手に得体の知れないエネルギーの塊が宿った。また頭の中に次の手順が浮かんで来るが、それを無視してカゲトラはエネルギーを霧散させた。そしてステータスを確認して驚いた。10PもMPが減っていたのだ。


「今のは危なかった。おそらくは〈忘却〉の名前の通りあのエネルギーで何かを忘れさせるのだろう。が、私にはまだ制御できそうにない。余りにも強過ぎる感じがした。」


取り敢えず力試しを切り上げて、ユト達の家に戻るカゲトラ。その帰り道、森の奥の方で低く轟くような呻き声が響いてきた。


「ゴルグルルルルル……」


山鳥が怯えて一斉に飛び立つ中、カゲトラは冷静だった。


「森の中には凶暴そうな魔物もいるのだな。私はゴブリンしか見たことが無いが、一目見てみたいものだ。きっと猛獣みたいな奴がいるのだろう。」


彼女は目を光らせて森の中の魔物に思いを巡らせる。

元来戦うことが好きなのか、元はこうではなかったのか分からないが、今のカゲトラは好戦的な性格であるらしかった。そして機嫌良く道を急ぐカゲトラであった。


チャポーン

ザバァァァァン!!


「それにしても広い風呂だなぁ。ありがたい。」


カゲトラはユト達のーー正確にはその両親のーー家のサイズに似合わない広い風呂を満喫していた。




先刻。


「風呂って入ることはできるのか?」


「あ、はい。ありますよ、とても大きいお風呂が。メイ、風呂を沸かすのを手伝ってくれ。」


「はーい!カゲ姉ちゃん、一緒に入っていい?」


「構わないが、そんなに大きな風呂なのか?失礼かもしれないが、この家は家族4人でピッタリのサイズではないか。」


「大丈夫ですよ。父が風呂だけは大きくしたいと奮発したので。僕達の部屋よりも全然風呂の方が大きいです。」


「そうか、ではよろしく頼む。」


ユトは井戸から水を汲み、風呂に水を張った。そこにメイが30cm程の棒状の器具を浸し、何やら念じるとたちまち水が湯になるのだった。


「不思議だな。それは何だ?」


「カゲ姉ちゃんは魔道具も知らないの?ギュッて念じて魔力を込めると水を温かくしてくれるんだよ。」


「成程…こんなものがあるのか…」


カゲトラはこの世界に来てから、電気 ガス 水道等のあちらの技術がここには無いと気づいていたが、魔道具と呼ばれる器具がその代わりをしていたのだと、驚くと共に納得した。


(水は井戸から汲むのに湯を温めるのは一瞬とは何ともアンバランスだが、不思議と釣り合いが取れているのであろうな……早く慣れなければ。)


ともかく風呂が冷えてしまう前に運動してかいた汗を流そうと、かけ湯をしてからメイと共に風呂へ飛び込むのだった。




「カゲ姉ちゃんって美人さんだよねー!」


「そうか?自分ではあまり分からん。」


カゲトラは最初見た時には驚いた大きな鏡の前でメイと体を洗っていた。


「だって背は高いしおっぱいもおっきいし!」


「いや、まぁ胸は大きくても動くのに邪魔なのだがな……」


カゲトラは身長170cm 推定Eカップの鏡に移った体を見て首を傾げた。もちろん自分がかつて男に好かれていたのかどうか等記憶が無く、分かるはずも無かった。


「カゲ姉ちゃんみたいになりたいな……お母さんみたいにポッチャリになりたくない!」


「そんなこと言っちゃかわいそうだ。お母さんは頑張って町で働いているのだろう?」


カゲトラは苦笑しつつもメイの髪を洗い、湯で流してあげるのだった。




リビングにて。


「そんな話を聞こえてくるぐらい大きな声でしないでくれ……」


犬人として早めの思春期を迎えていたユトは、しばしの間悶々と苦しむのであった。


続く


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