目覚めて出会う
「「うわぁぁぁぁぁっ!!!」」
森の中を二人分の悲鳴がこだまし、双子の兄妹が走り抜けて行く。それを追いかけるのは緑色の肌をした亜人、つまりゴブリンだった。
「ギャギャギャギャッ!」
嬉しそうな声を上げて双子を追いかけるゴブリン。
兄妹の体力は限界に近づいていた。
「くそっ、お前だけでも逃げろっメイッ」
「ヤダよッ!そんなことしたらお兄ちゃんが死んじゃうよッ」
このままでは二人とも死ぬ、そう考えた兄ーーユトは、駄々をこねる妹をちょうど差し掛かった川の向こう側へと放り投げた。
ニッコリと妹に笑ってみせるユト。
「死ぬな、メイ。」
呆然とするメイの前で兄が今にもゴブリンに殺されそうになった時、疾風のようにゴブリンに近づき、その腹に掌底を叩き込む女が現れたのだった。
目を覚ます。
川のせせらぎが聞こえる。
辺りを見回し、カゲトラはここが森の中であることを確認する。
自分とは何者で、何故ここにいて、ーーといったことが何も思い出せない、ということに気付き、とりあえず自分の名前を確認するカゲトラ。
「私の名前は日下部景虎。22歳、独身。…ここまでか。」
限界まで自分のことを思い出し、カゲトラは名前を覚えていたことを安心した。大丈夫、記憶喪失において最悪のパターンではなかったらしい。
そんな風に自分を分析できるということは明らかに普通ではない、とその場に誰か他人がいればそうツッコんだことは間違いないが。
カゲトラはふと、目覚める前に見ていた自分の母親らしき人の夢を全て覚えているということに気づいた。
一般的に夢の内容はほとんど覚えていない、というのが当たり前であるあたり、少し不審に思いつつもカゲトラは周囲の状況を確認することを先決とした。
その時、川の向こう側へ少女を放り投げる少年がみえ、その後ろを追いかける緑色の肌の背の低い怪物を見つけた。
その少年が、少女に何と言ったのかは分からない。しかし、先程の夢の内容が色濃く脳内に残されていたカゲトラは、少年を助けなくては、という気持ちに駆られた。地を蹴り、凄まじい速度で怪物の懐へ入り込むと、体が覚えているままにその腹へと掌底を叩き込んだ。
呆然としている少年に、困った顔でカゲトラはこう言った。
「私って何者なんだろうか。」
「こちらが…聞きたいです…。」
続く