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31歳 独身貴族。  作者: みえこ
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2013年 平均初婚年齢

 男性:30.9歳 女性:29.3歳


巷では

「35歳過ぎてから結婚できる可能性 男性:3% 女性2%」


なんて調査結果も出ている。


つまり35歳になるまでに売れなければ、生涯独り者として生きていく覚悟をしていかねばならないのだ。


35歳。まだまだ若い。何より元気だ。魅力的な人は男女関係無く街中に溢れている。

仕事では責任あるポジションを担当し、やりがいも感じている頃だろう。

同時に時間にもお金にも余裕が出てくる頃ではないだろうか?


20代で入社してからがむしゃらに働き、やっと周りを見て、周りを動かせるようになってきた頃ではないだろうか?

稼いだお金は、未来への投資や、貯蓄、旅行や、自分を飾る装飾品など、とにかく自由にしがらみなしで使えている人が多いのではないだろうか?


「自由」


まさに、だ。


私もその一人。


仕事をして、たまには残業して、爆睡して。

休日は仲の良い友達とご飯をかねて女子会三昧。オシャレなカフェやホテルレストランで優雅にご飯。

街を歩けば、キラキラしたモノに目移りし、鏡に合わせてみたりして楽しむ。

ネックレス、時計、バック、服。少しずつだかプチプラ志向から、本物志向に手が伸びる。


だからといって散財している訳ではない。


計画的な貯蓄も忘れない。

その上で出来る範囲で楽しんでいるのだ。


これが「独身貴族」の「自由」の最大メリット。


誰にも縛られず、好きなように好きなだけ使えて遊べる。

全ては自分の思うままに。



しかし、この「自由」が最大の罠でもある。

これに慣れてしまうと、結婚にメリットが感じくなるからだ。


今が一番自由で楽しいのに、

なぜ「結婚」してこの「自由」を手放す?


時間もお金も恋愛も居場所も


それらの自由を手放してまでも

「結婚」するメリットとはあるのだろうか?



先に結婚した彼ら達は、何にメリットを感じて結婚に踏み切ったのだろうか?



私には、元来結婚願望がない。

子供も特別好きな訳ではないし、束縛もされたくない。


しかし、女が一人で生きていける程、この国のシステムはしっかりしていないし、

何より、「結婚して当たり前」の風潮が根強い。

そもそも、国民全員が一人で生きていくことにしたなら、子孫が残らず国は孤独死が溢れ、破綻するだろう。


と。いうことは。


「将来的には結婚しておかないと。」


になる訳である。


_______________________________________________________



「じゃあ。ばいばい。」


「うん。またね。」



そう言って、改札を後にした私達は、お互い別々の方向に足を進めた。


「またね」


なんて、二度と会うことがないと分かっていても、口から出てしまうものなんだなと、

少しひんやりした夜の空気に冬の気配を感じながら、足早にホームへ向う。

彼の姿も、もう見えない。


私達は夏に別れた。


別れを切り出したのは私の方だった。


30歳の誕生日に、「将来的に結婚をどう考えているのか?」

という問いに、3歳下の彼は

「俺はこの先、誰とも結婚するつもりは無い」


と、1年半の交際の果てに告げられた。


当時、彼は年内まで勤めていた大手電化メーカーの営業を退職し、スクールに通いながら、一年かけ公務員を目指していた最中だった。

想像以上に試験内容と範囲が広く、本人も大変そうで、珍しく弱気になっていた時期もあった。

もともと1時間の片道距離と、販売職の自分とは休みもなかなか合わかった事もあったが、更に会える機会が少なくなっていった。


その事に関しては、責めた事も、泣く事もなく、

「会いたい」なんて言わないようにしていた。


彼のペースで行こう。と思っていたからだし、彼も誕生日や初詣には誘ってくれたからだ。

そんな忙しい中でも、ちゃんと時間をとってくれた優しさが嬉しかった。


だから 我侭 なんて、

言った事が無かった。


あの日の誕生日も、試験が追い込みの時期だったのに彼は誕生日を空けてくれたし、提案してくれた。

その優しさよりも、周りが掴んでいる幸せという名の「結婚」を、私も欲しかったし、

彼が「結婚」自体についてどう考えているか知りたかった。


だから、私はそれとなく聞いたんだ。

1年半付き合ってきた中で、一度も話しに出さなかったテーマを。


しかし返ってきた言葉は想像外のものだった。


「今は」じゃなくて「この先」だったからだ。



若いから?

まだ試験中だから?

試験中で働いていない身だから?

彼の環境が変われば変わる?


いろいろ考えたが、やめた。


なぜなら、今の彼の答えがそれならば、何を期待しても無理だからだ。

彼の考えが今後変わる。という保障も無いのに、この関係を続けていくのか?

考えが変わるときが来るのだろろうか?

来るのはいつなのだろうか?

来たとしても、その時も選ばれるのだろうか?

年をとり過ぎたのではないだろうか?


このまま付き合ってても、彼の考えが変わらないならば、必ずまた同じテーマで火蓋が切られるだろう。

お互いの事を考え、将来への形が違う方向のままならば、




「一緒にいても、一緒にはなれない。」



ならば、仕方ない。


私には、「気が変わるかもしれない 人の気」

を待てるほどの時間に余裕はない。


そう決断し、試験が落ちついた2ヶ月後に別れを切り出した。

その日は、蝉の声が鳴り響く蒸し暑い夏の夜だった。



それから2ヶ月後、彼のタイムラインに試験が終わったような内容が書き込みされているのが上がり、

私から連絡をした。


4~5通ラインをやりとりし、分かったことは公務員試験に落ちたこと、

もう公務員は受けないこと、

民間企業に転職することだった。

じゃあ、新しい場所でも頑張ってね。の返事に


「久しぶりにどっか行く?」


と誘ってきたのは彼のほうだった。

「この人は別れた事を分かっているんだろうか?」と本気で思ってしまったが、

彼のその後に興味があったのもあり、食事に行く事にした。


久しぶりに会った彼は、開放感に満ちているようにも見えた。

話を聞いていると、すでに転職先は決まっていて、来月12月からだという。

今度は大手車メーカーの法人営業になるらしく、最終面談で4人いたけど彼しか受からなかったらしい。

他にも3社受けていて、内定は出ていたが、車に決めたのは車が好きとかじゃなく、彼曰く


「福利厚生の充実」だと言う。


車好きで入社したやつに謝れ。 

 と心の中で呟いた。


意気揚々と話す彼には自信が蘇っていた。


「なんで、ご飯に行こうなんて言ったの?」


そう聞くと


「ひまつぶし」


と、「何?期待してんじゃねえよ」と言うような目で言われたから、若干イラッとした。

いやいや、期待してませんけど。


あれか。

試験終って、久しぶりに飲みたくなって、内定(しかもまた大手)に決まったことを、誰かに聞いて欲しかったんでしょ?

自分を振った元カノに自慢したかったんでしょ?


なんて。意地悪いほうに考えてしまう自分が嫌だ。

心狭いな。自分・・。


主に彼の近況を聞く形で飲み食べし、新天地でも頑張ってと言うことで、お別れし。

健全な21:00という時間でお開きになり、私たちは解散した。



そうして今、私は駅のホームにいる。


少しひんやりした空気が肌をかすめ、時期にくる冬を感じていた。


「付き合ったのも、この季節だったな。」


少しセンチメンタルな気持ちを乗せ、電車は私の住む街へ走り出した。


____________________________________



「街コン行こう!!」


「え?」


突然どうした・・?と、飲んでいた紅茶のカップの手を止めた私に向かい、「あたしも出逢いが欲しい~」と、さきが言う。


「最近周りの友達も彼氏とか、結婚とか多くなってきたしさ~!」

うんうん。もう30超えましたからねぇ。。ちゃんとパートナー探しをみんなやっていますよね。


「この間行った街コンも、友達だけ、終った後もメールとか、遊んでて、良い感じなんだよね~!」

ふむふむ。なるほど。やりおりますな。


「だから、みえこ、行こう~!」


「行きましょう!!!!」

即OKした。


彼と別れてからの私は、大型婚活パーテイから、少人数制の企画まで月1ペースで参加していた。

どれも「結婚」を本気で視野に入れているタイプのモノにしか、狙いを定めなかった。

中にはカップリングになったり、連絡先交換や、その後別の日に食事に行ったりもしたが、3・4回目には繋がらなかった。


本気型のタイプは、参加する男性も、女性も本気で来ている。

そのため、「お嫁さん候補面接」にはみなこだわりがあるようで、

事細かく聞いてくるタイプや、婚活用に、髪型や服装、回答など仕込んで完成させてきたような人もいた。

逆に、全然場慣れしておらず、服装もそのまま来ちゃったような人もいれば、

会話するにも、目を合わす事自体が出来ないような人もいた。


2極化 だった。


本気の婚活に参加してわかった事は、


「優良物件はすでに完売している」

「女の年齢は、女が思っているよりずっと重い=若い女が良い」

「若くて少しおバカな、癒し猫系が一番売れる」


余談だが、男性に比べ、女性の完成度は高いのが揃っている。

こんな所に来なくても良いでしょうよ~!といった若い20代前半から、身なりも化粧も受け答えも完璧な、モテ女子もかなりの確率で参戦している。


女性のほうが賢い。

と思わずにはいられない。


という事で、私は初戦突破は出きたが、彼らの「花嫁候補リレー」からは戦線離脱していったのだった。

そんな試合が続いていて、疲れていた頃に、

さきの町コン話が持ち上がった。



「町コン」ならば、それこそ、本気の出会いなんて求めてはならない。

本気度が低いからだし、独身証明や、所得証明が不要で自由参加ならば、

当然、既婚者・彼女持ち・付き合い・ワンナイト探し...だっているに違いない。

下手に引っかかったら、それこそ面倒な事になる。


でも、息抜き程度の気持ちで参加をしてみたかった。

本気のレースに疲れ、ただ休憩したかったのだ。

だから、楽しくお酒が飲めればいいし、気分転換したかったから


「町コン」に行く事にした。


__________________________



12月 


街は赤と緑のカラーを基調にクリスマスムードで溢れている。

通りの木々も、ビルも、街灯も、煌びやかな光で装飾され、

ショッピングビルからは賑やかなクリスマスソングが聞こえてくる。


冬季賞与を手に入れた人々は、お金への余裕と、待ちわびるクリスマスから始まる、年末年始休暇への楽しみさからか、街中が浮ついていように感じる。


一年の終わりと始まり。

期待する新しい年への幕開け。


すれ違う人々もみな、心なしかいつもより

笑みがこぼれているように感じる。


きっと、一年で、一番楽しい時なのかも知れない。



しかし、私はそんな楽しさを楽しんだ記憶がない。

12月に入ると考えるのは仕事の事だけ。


ここから1月末までは気が抜けない。

入社してからずっと販売職を続けているが、

このシーズンは、一年で1・2番目をに売り上げ指数が高いシーズンだからだ。


ただ売れるから忙しい。


だけではない。


12月プレセール→ボーナス商戦→クリスマス商戦→年末商戦→初売り年始商戦→棚卸


毎週のように販促内容に修正追加があり、平行して年始準備と棚卸し準備があるからだ。


また年末年始は各企業が休暇に入るため

爆量の商品が年内に前倒しで入荷する。


加えて、こういう繁忙期になると

クレームや詐欺や事件も多発してくるのがお決まりだ。

お客様のご自宅に謝罪に訪問した数なんて数えきれない。



「師走」



かけめぐるように

1ヶ月が過ぎていく。



カウントダウン

なんて楽しんだことが無い。



そう思うと、

毎年人生損してるなぁ。なんて思ってしまう。


この職業を自分で選んでしまったから、高望みはしないけど、

それでも、少しばかりか、羨ましい。と思ってしまう。



だから今。

この煌びやかな輝きを見ても

「楽しみ」という「期待」

は出てこない。


明日からの仕事の修正と追加を

常に考える。


そんな事を考えながら、光る街を横目に

私はさきとの待ちあわせ場所へ向った。


_____________________________________________



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