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012



《コロニー・ロアノーク》を巡る戦闘は、艦隊戦を経て、互いの司令官同士による“一騎打ち”を以て勝敗を決したが、その勝敗をこの戦場にいる全ての者が受け入れられるほどには――人類という存在は成熟してはいなかった。


 ノエルの敗北は、多くの騎士と兵に動揺を与え、冷静さを失わせた。


《統合軍》――《大英神聖帝国騎士団・第二方面軍》には、まだ戦力が残されている。多くの艦が沈み、多くの騎士と兵が戦死した。このまま王女殿下と共に捕虜とされるよりも、死を覚悟して最後まで戦い抜くのが騎士の誉れではないか、そう考える者たちがいてもおかしなことではなかった。


 この時、《第二方面軍》に残された艦隊は静かに反撃の機会を伺っていた。


 そして《月同盟軍》もその不穏な動きを敏感に感じ取り、再び砲火を交える準備をしていた。


 艦隊戦の第二章が幕を開けるのは目前だった。

 

 しかし――


「全ての艦と兵に告ぐ――」


 戦場を(つんざ)く静かな声が宇宙に響き渡る。


「この戦場に置いての雌雄はすでに決した。これ以上の争いは双方の望むところではない。何より、この戦場でこれ以上の犠牲を出したくないと願った王女殿下の思いを踏みにじるものである」

 

 互いの艦隊の間に立った“黒い機体”から、全ての艦に向けて呼びかけが行われた。

 片腕と片足を失った傷だらけの“黒い機体”の腕には、四肢を失った“黄金の機体”が抱き寄せられている。


「《月同盟軍》大将ユリウス・ハイペリクス・カエサルが、この場において約束しよう。ノエル・アルトリウス・コーンウォール第三王女殿下を《月同盟軍》の捕虜とせず、我が軍の客将として迎え、大使級の扱いをもって遇することを。そして、全ての《統合軍》に重ねて告げる。速やかにこの宙域を離れ、貴官らの祖国へと還るがいい。祖国の地にて、王女殿下の武勲を誇るがいい。敗北こそしたが貴官らに恥ずべきことは何もなく、貴官らの将は誇り高き《誉れの騎士》であった」


 この言葉には、撤退を告げられた《統合軍》だけでなく、勝者である《月同盟軍》にも動揺が走った。


 敗北した《統合軍》を捕虜とすることは、一騎打ちの条件だった。勝利を確実のものとしていた戦場で一度妥協した上に、無力な《統合軍》を無傷で祖国に帰すとは弱腰であると、声を上げる兵も少なくな無かった。しかし、司令官が決めたことであればと各提督達も納得して頷き、荒ぶる旗下の兵たちに言い聞かせた。


「ええい、黙っておれっ。この私とて、納得はしておらん」


 グナイゼナウは怒鳴り散らした。

 彼の旗下の幕僚や士官には、グナイゼナウ同様に気性の荒い者が多く集まっており、この戦場において《統合軍》を捕虜としないというカエサル提督の決断に、一番否定的な感情を持っていた。

 しかし、グナイゼナウは声を荒げて幕僚と士官たちを無理やりに押さえつけた。


「この決断が、後にカエサル提督とその旗下に参じた我々の命取りとならなければいいが」


 ミニッツが物思いにふけりながら一人ごち、彼の周りいた幕僚たちを慄かせた。


 ミニッツの言葉を遠くから受信したかのように、鉄面皮を僅かに微動させたロンメルは、《統合軍》を捕虜とすべきだと迫る好戦的な幕僚たちを睨みつけて言った。


「この戦場はカエサル提督自らの手で幕を下ろされた。私に二言を告げさせるな」


 押し黙って去って行く幕僚たちには目もくれず、ロンメルは胸の裡で思う。


「はたして、我々はいつまで勝ち続けられるだろうか?」


《統合軍》――《第二方面軍》の艦隊は複雑な感情を押し殺して反転し、《L5》方面の宙域へと舵を切った。最後まで戦い抜こうと声を上げる騎士や兵は少なくなかったが、ユリウスの最後の言葉に毒気を抜かれ、戦意を喪失した者が多かったのも事実だった。


「我々は情けをかけられた。慈悲をかけられたのだ。これ以上戦場を穢すわけにはいかぬ」

「俺たちが最後まで戦ったら、姫殿下の思いを踏みにじることになる」

「我々が祖国の土を踏まなければ、王女殿下の尊い犠牲は無駄になるんだ」

「姫様の武勲を誇り讃えよう。王女殿下万歳」


《第二方面軍》の騎士と兵は、それぞれのやり方で自分の感情に蹴りをつけてこの敗戦を受け入れた。


 しかし、帰途を辿る艦隊の中から一機の連絡艇が発進していたことに、この時は誰も気が付いていなかった。

 

 こうして互いの司令官を立てて行われた“一騎打ち”によって――戦場の雌雄は決した。

 


 ――流星の一つが、宇宙のかなたに消えた。


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