04 いろいろと判ったにゃ
(光の珠に弾かれたとき、何かが閃いたんだ)
なぜこの世界に猫として転生したのか? という理由は判らないままであった。
しかし、身の回りの多くの疑問が解消された。
文字や時計の事、ポータルや地下の施設。
魔法や薬、エンチャントについても判った。
「どうしたの? 悩んでるの?」
ペロはベッドから動かずボケっとしていた。
リーナが心配そうに覗きこんできた、その瞳は慈愛に満ちている。
(うーん、どうしたものか)
あの後、ペロは心配してくれたリーナに、抱っこされたまま眠った。
リーナの甘くて良い匂いに包まれて、心も穏やかに熟睡した。
では、何を悩んでるかと言うと、昨日の発見をどうやって教えるか。
それに関連して、自分の事をリーナに打ち明けるかどうかってことだった。
異世界から来たとか、中身が大の男だとか。
幽体離脱出来るとかは、元々言うつもりは無い。
それはペロの危険察知能力が、全力で阻止してるからだった。
(だって、キモチ悪いでしょ?)
お風呂も一緒に入ってしまい、耳に鼻息を散々かけてしまった。
(地下施設は教えたいんだよね、どうしたものか……)
この平和な日常は変えたく無い、悩みながらもご飯はしっかり食べた。
「うぅにゃ!」
(ご馳走様!)
悩みながらも、くつろぎ欠伸をしていた。
猫になったおかげか、深く考え込まないようになったような気がする。
(まぁ、元々そうだったかも知れないけど)
仕事の時間である。2人は工房へ出掛けた。
工房の扉を開き、換気する。
大きな机の上の籠に登る。いつものポジションだ。
下を見ると、青い珠が沈んでいるのが見える。
家の下の一際大きな珠と、繋がっているのも見える。
工房の下の玉からは、あと2本の線が伸びていた。
南にある、キャメロット村の中央の大樹と、西に方角にある泉の下だ。
あの珠は、魔核と呼ばれていた。
すべて生き物が持っている、魔力を蓄えるタンクらしい。
キャメロット村から、複数の小さな光の珠が向かってきていた。
ペロは、それが誰なのか、見極めるために外へ出て出迎える。
「ペロおはよー! お出迎え?」
「ペロくん、おはようございます」
ラナとハルだった、2人は子供の割りに大きな黄色い魔力を持っていた。
魔力は生まれ持った身体機能で作られ、へその下にある魔核に蓄えられる。
魔力を放出したり魔術を行使すれば、消費されるが時間経過で回復する。
消費して回復を日々繰り返すと、筋力と同じで超回復して魔核が成長する。
つまり最大MP量が増える。
トールが赤色で、子供たちも小さいけど赤の魔力持ちだ。
ジンジャーは光っていなかった。
実は魔核は持っていても、魔力を作れない人の方が多いらしい。
自身で作れなくても、魔力は持てる。
例えば、魔力保有者に触れて影響を受ける場合。
あとは、魔力を与えられたりすれば、魔力を一時的に持てるらしい。
ペロの幽体離脱は、高位霊体術という立派な名前が付いていた。
この高位霊体術は使用時には、魔力を消費していたらしい。
時間経過や移動距離の制限は、魔力切れが原因だった。
だから、MPを使い果たした後は、疲れて寝起きが辛かったのだ。
現在のペロは、起きたまま高位霊体術が使えるようになっていた。
昨夜の光の珠との接触が、きっかけだと思われる。
(そういえば、光の珠の側に居ただけで、能力が向上してた気がするな)
他の人の魔核が見えたりするのも、その効果の1部分だ。
(珠に触れた後、コツが掴めたというか、認識出来たんだろうな)
霊体の形は自由自在に、変形出来るようになった。
触手のように伸ばし、誰かに触れると鑑定というスキルが使えた。
(範囲に広げればレーダーみたいになるな)
どれだけ広げられるかは、まだ検証が必要だった。
元から使っていた能力は、物を掴み動かす事だ。
触手の末端を目にすれば、監視カメラのようにも使えた。
特に便利だったが、触手で範囲を決めて包む込むと結界が作成できる事だ。
空間内の質量と、時間の流れを無くす事ができる。
そして結界に閉じ込めた物質を、お腹の魔核ポケットに収納可能だ。
青いロボットの持つ、4次元ポ○ットに似た能力だった。
優秀なのは、わざわざ手を突っ込みアイテム名を叫ぶ必要は無い事だ。
前世でも使えた能力だった、随分と色々便利な物を収納していた。
(そんなに甘くは無いか……)
故に、こちらにも持って来れればと期待したが、無理だった。
(異空間の狭間に、飲み込まれたか……)
使い方も工夫次第だろう、検証を重ねてみるのも楽しいと思えた。
昼食後の休憩時間。
ペロは、工房の皆に見られないように、こっそりと屋根の上に登る。
「うなぁぁご」
(コーデックス)
自分専用の本を創りだす魔法だ。
A5サイズで、自分と御揃いのクリーム色の背表紙、角は耳と同じ濃い茶色。
目の前に広げ、自分の出来る事や仕入れた情報を、再確認しながら書き込む。
後で編集できるから、どんどん書き込む。
(ペンは要らないし便利だな)
昨夜見た紋様は、確認のために触手を地下に伸ばし、見ながら書き留めた。
絵心が無くても転写も可能だった。
あらかた済むと、閉じて魔核ポケットへしまった。
午後の仕事の時間だ。
監督業は見た目よりも忙しい。いつもの籠には戻らず、リーナの横に座る。
イスが無いから机の上だったが、どかされなかった。
リーナの机の上に開かれた、赤い革表装の本を覗き見る。
文字は読めるようになったし、使い方も理解出来るようになっていた。
各種ポーションのレシピ以外に、デバフ効果の毒・麻痺・行動阻害・睡眠。
バフ効果の各ステータスを一時的に底上げする薬。
攻撃用の火炎・爆雷・などの物騒な物まで書いてあった。
空欄もある。まだデータが無く作成できないのだろう。
入手できない希少な素材もいくつかあった。
それらを使うアイテムは、どれも効果の高いアイテムばかりだった。
エリクサーは、ドラゴン系モンスターからの剥ぎ取り素材だ。
(取ってきたらリーナ喜ぶだろうな)
この時がペロのコレクター魂に、火が着いた瞬間だった。
試しに広範囲で探索、鑑定をする。
嬉しい事に、触手を地下に伸ばし光の珠に触れると、魔力を分けてもらえる。
つまり、ケーブルで魔力の供給が得られ、魔力の枯渇する心配がない。
(お願いをすれれば、すんなり分けてもらえるんだ)
光の珠とは、そういうモノだった。
探索の結果。栽培系・採掘系の素材はかなり集まったと思う。
採掘も鑑定後、地中に潜って必要な鉱物資源だけ、通り抜きとって来る。
小型・中型の動物や魔物も、結界に封印して収納していった。
火属性ドラゴンも捕獲した、これにはイグルニールという固有名詞があった。
動物や魔物達から見れば、知らぬ間に見えない触手に包まれ捕まる。
認識も自覚も無い、たまった物では無いだろう。
弓や魔法で命がけで捕獲している、猟師や冒険者に合わす顔も無い。
(チートだ、だけど気にしない。だって自分は猫だから)
生き物を結界に閉じ込めると、時間が止まり死んでしまう。
腐ったりはしないので、保存維持には便利である。
出す時に死んでいても、鮮度が良いので蘇生薬があれば大丈夫かも知れない。
前世の時には、やむなく人間を封印し収納する事態があった。
その時は、すぐに心臓マッサージをして蘇生は出来た。
ペロは、それをやりたくないと思った、こちらの心臓に悪いからである。
(まぁ、もともと素材にする為の封印だから、蘇生の必要は無いかな)
貴重な素材も集まってきた。
(いまはまだ、集めた素材出せないな。どうしたものかなぁ)
リーナの本には勝手に書き込む訳にはいかない。
未確認アイテムのレシピと、素材の採取できる場所のメモをはさんでおいた。(夜には気がつくかな?)
この世界には2通りのアイテム作成方法があった。
一つは、加工道具を使い、手作業で作りあげる従来の方法。
もう一つは、魔術による練成だ。
魔術で作る場合は魔導書などの魔導具が鍵になる。
それと素材と完成品の収まる容器を揃え、練成を行いアイテムは完成する。
どちらの方法が優れてるとかは、特に無いらしい。
職人の技能で高品質品が出来き、魔法でエンチャントをかけられる。
魔法耐性、斬耐性、火属性耐性や簡単な防水など種類は多い。
鍛冶や裁縫、革細工は手作業の割合が多いようだ。
リーナは薬作りを、魔法の練成でやっている。
採取した素材を、作成用の2次素材にする加工にも、魔法が使われていた。
ちなみに、トールの作る包丁は、そこらのバスターソード以上に強いらしい。
夕方、ペロは視界の端の時計を見ると、4時半だった。
(終業時間ですよ~)
籠から這い出て、ストレッチをしてからリーナを見る。
リーナは視線が合うと、気が付いたのか頷いた。
「では、そろそろ終わりましょう」
その声を合図に、皆が背を伸ばしながらストレッチをしていた。
「皆が頑張ってくれたので、注文分には間に合いそうです。週末のお祭りを楽しめるように3連休にしますね。明日は特別に多くお給金も渡せますので、もう一日頑張りましょ~」
皆は顔を合わせて、満面の笑みだ。
決して仕事がキツイって感じでは無く、祭りが楽しみなのだと様子で判った。
日当を渡し、今日もお客さんからのお土産を配ったあと、戸締りをして帰る。
ちなみに、この工房の日当は、他の工房の3倍だそうだ。
それでも、経営が成り立つのだから、リーナは凄い経営手腕を持っている。
家に帰り、美味しいご飯を食べた。
「うぅにゃ!」
(ごちそうさま!)
「ふふふ、ちゃんとご挨拶してるみたいね。偉いぞ~ペロ」
ペロは、お腹ナデナデのご褒美をいただく、至福の時である。
「お祭りにはパパとママ、帰ってくるかなぁ?」
「にゃにゃ」
(は? パパとママ生きてるのか! 勝手に亡くなってると思っちゃったよ)
「ポータルが使えれば、移動も楽になるんだけど……」
「にゃ……」
(リーナ?)
「ペロはまだ会ったことなかったねぇ、君が来る前に出かけちゃったから」
「ううにゃ」
(どうしたの?)
「2人とも冒険者なんだ。Sってクラスなんだって」
(ほほう、Sって凄そうだな)
「だから強い魔物が出たりすると、討伐する仕事の呼び出しあるの」
「うにゅー」
(特別依頼みたいなのかなぁ)
「はやく帰ってこないかなぁ……」
リーナは会話になっていないが、ペロに話しかけ続けていた。
(やっぱり、子供がひとりで暮してるのは、寂しかったんだろうな)
ペロは彼女を抱っこして、慰めてあげたいと思った。
身長差で無理があったので、肉球をリーナの手に重ねた。
(あのね、ポータル壊れてないし。使い方わかるよ)
「にゃああん」
(さて、どうやって教えようか……)