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31 アーレスの仕事風景2

グロテスクなシーンを連想させる部分があります

「これらは、最近友人となった人たちからの貰った物です」

 執務室の中央に置かれた机の黒光りした厚い天板の上にそれらを並べる。


 光沢が無く、光を反射しない金属製の弓。


 魔弓破魂はごんはグリップのすぐ上に、丸い覗き穴のような物が開いている。

 グリップ部分に魔力を込め弦を引くとグリップの穴に光が灯り、引き伸ばされて魔力の矢が現れる。

 金属製の弓だが、身体強化が掛かったアーレスには軽く引けた。


 リーナが使っていた魔弓桜花おうかは一番小さいサイズで、アーレスが授かったのは一番大きな物だ。

 桜花の同時発射は、多数の矢が複数の敵に自動で追跡し当てる能力があったが、破魂にはそれが無かった。

 だが、自らの連射動作と移動しながらの射出でカバー出来るから、問題は無い。

 パラライズ矢と通常の矢の多数同時発射は出来ないが、単純な威力と貫通力は桁違いだった。


「この弓は相手を麻痺状態にする、パラライズ矢を撃てます」

 実際に弓を引き、魔法の矢を出現させると、3人の幹部は目を見開いて破魂に見入っていた。


「竜族種全般に言えるのが、パラライズが通用することと、その効果で動きが一定時間止まります」

 団長はアゴに手をやり、しきりに頷いている。


「そして竜族種の持つ能力の[結界]が切れ、固く重なる鱗が浮き隙間が出来る」

 この発言には感嘆の溜め息が漏れた。革新的な発見なのだ。


 そこで、短刀を指さす。

「この短刀は、魔力を込めることであり得ない貫通力を発揮します」

 アーレスも正直仕組みは判らない、教えてもらったが結界の反作用で次元がどうのこうのだった。

 短刀は突くことに特化していて、ブレード部分は滑らかな曲線では無く角ばっている。


「首の後ろの浮いた鱗の隙間にコレを突き刺すと、運動機能が停止します」

 全部受け売りの味気ない説明しかできなかったが、3人とも経験上その現象は想像できたらしい。


 後で聞いたが、短刀には仕掛ギミックけがあり、竜族種の持つ強い自己再生能力を防いでいた。


 自己再生を上回るには、リーナがやったように直接、魔核を壊すしかない。

 そもそも、落雷を人為的に落とすという行為は、今の魔法体系には無いそうだ。

 あの娘は桁違いだった。



 そこまで説明が終わると当然のように「弓の数を揃えられるのか」と聞かれたが作れる人が行方不明だと説明した。


「今迄の討伐とは別物になりそうだな、戦斧も作れるといいんだが」

「数が揃えられないのは残念ですね、自分は弓は扱えないが短刀と同じ素材でハルバートが欲しいな」

 アクィラ副団長とコルヴォ隊長は、自らの武器を欲しそうにしている。後でペロに聞いてみよう。


「うーむ、個人でチーム並みに動けるか……いざという時にサポートが居た方がいいな」

 団長はひとしきり、唸りながら独りごちると。


「明日レッサードラゴンを討伐するのを確認してからだが、アーレスをリーダーと別動部隊を組むか」

 明日の出来次第だが、どうやらアーレスは出世したようだ。



 ここで、ココルの腹が鳴り一段落ついた。



 飯を食べていると、ココルがトレイを持ってアーレスの隣に押し掛けてきた。

「あたし、アーレスさんの別動隊に立候補してきましたよ、たぶんOKだって」

「そうか、しかし偵察要員が居なくなって困るんじゃないか?」

「あたしの前任だった人を使うと思いますよ、立候補した時呼び出されてましたから」

「まあ、まだ確定したわけじゃないけど、そうなったらよろしくな」

 アーレスは相変わらず顔が近いココルに、飯を食えと促す。


 明日の準備に装備の手入れをしている時に、団長に呼び出された。

 執務室には幹部3人とココル、そして普段は炊事をしている少女が居た。この娘も新人だ。


「アーレス、明日の作戦にはココルとステラの2人を同行させてくれ」

 ココルは判るが、ステラとは挨拶程度しか話したことが無い。戦えるのか不安だった。


「ステラです、よろしくお願いします。家事全般と鷹の目、テレパスあと結界が使えます」

 家事全般も頼もしいが、鷹の目とテレパスは凄いスキルだ。

(行動範囲が広がりそうだな)


 団長が目を細めながらステラの頭を撫でる。

「しばらくお前の元で経験を積ませて、将来は司令伝達の役を与えようと思っている。よろしく頼む」

「判りました」

 聞けば、団長自らが才能を見出しスカウトして来た娘らしい。



 その後、明日の段取りを地図を差し示しながら行った。

 親睦を深めるという名目で別動部隊専用の部屋を用意され、3人部屋で就寝することになる。

(気まずいな)


 翌朝、何かに顔をくすぐられて目を覚ます。ココルの耳が顔に当たっていた、顔が近い。

(そろそろ季節的にも肌寒くなってはいるが不謹慎では無いだろうか)

「俺も気が抜けてたな、気が付かなかった」

 2人ともアーレスのベッドに潜り混んでいたが、何もしていない。

 気にすると意識しているようで負けた気がするので、何事も無かったようにベッドから抜け出した。



 準備を整え出発する、砦の石壁から跳ね橋が降ろされ、鳥たちが朝が合唱をするなか森に分け入る。

 他のアタッカーチームも、距離を置きながら付いてきている。


『4頭のレッサードラゴンの位置を、鷹の目で確認できました』

 ステラの声が頭の中というか、耳の奥で聞こえる。不思議な感覚だ。

 ステラは、森に溶け込むような緑の革のハーフコートと、厚手のレギンスにブーツという普通の格好だ。

 

 あとはリーナが被っていたのと同じような帽子で、髪をすっぽりと入れた3角帽子を横の紐で後ろで縛っていた。

 目が隠れて見えないんじゃないか? という位に目深まぶかに被っている。


 1匹目は麻痺させた後、ココルに見せながら俺がトドメを刺す。

 2匹目はトドメをココルに任せる、短刀を3組渡しておいた。

 麻痺させてから、武器を持ちかえながら近づきトドメという行程が省略される。

 弓を放つ時には既にココルが、隠密行動で側に控えている、麻痺した直後にトドメを刺すので安全だ。


 こうなると、油断は禁物だが単純作業の様相で、レッサードラゴン総てを討伐出来た。

 昨日の1頭も忘れず解体作業する。

 討伐よりも解体作業の方が時間が掛かる嬉しい誤算だ。


『ワイバーンを見つけました、あの丘の向こう側に10頭います』

 ステラが丘を指差しながら報告した。

「どうします?」

 ココルにも同じ報告が伝わっている。

「5頭の解体作業ともなると1日仕事だし、彼らをここに置いて行くのも危険かもな」


 解体作業はアタッカーチームでは無く、非戦闘メンバーが行っている。

 完全に人手不足だった。



『これを見てください……』

 目の前にステラの見ているイメージが現れる。

「これはオークか、これは凄い数だな」

「うわぁ、気持ち悪いな……」

 

 オークを含めた蛮族は知能こそ低いが、集団で集落を構え狩りをして暮らしている。

 中には長く生き進化し、魔法を使う固体もいるらしい。

 大人しければ良かったが、残念ながら敵対するしか道が無いようで、人の村を襲撃する事が頻繁にある。

 男は殺され、女は繁殖のために拉致され死ぬまで酷使される、女性にとっては特におぞましい存在だ。

 そんな敵対関係を過去から延々と繰り返している。


『ワイバーンを使役するオークがいますね……』

 ワイバーンはオークに肉の塊を与えられている、背中にはサドルまで備えていた。

「こんなの初めて見たな、今までに聞いた事もないぞ」

「あれに乗って、リヴィーナとか襲われたら怖いなぁ」

 ココルが腕にしがみ付いてくる。



「団長に報告しないとな。たぶんリヴィーナの常駐軍だけでは足りない、はやく対策を取らないとまずい」

 オークは崖に横穴を掘り壁一面縦横無尽に足場を組み、棲家としていた。規模が尋常ではなかった。

 柵こそ木造の簡易な物ばかりだが、武器防具が充実した固体やワイバーンよりも巨体なオークも見えた。

「数は……4桁いくか、もう少し近寄れるか?」

『はい……』


 実際に鷹を使ってないから見つかる事は無いが、ぶよぶよとした肉の塊のような集団の側に寄るのは気持ちの良い物ではないだろう。

『木で見えなかったほうにも、まだいますね……』

「4桁確定だな、王都にも援軍を頼まないと無理だろ……」


『ひぃ……』

「ぐっ」

 2人が悲鳴をこぼした。

 オークの棲家の一角に見えたモノがある、多くの女性が檻に閉じ込められていた。


「こんなに大勢、どこから連れてきたんだ?」

 リヴィーナ伯領内では、各村に自警団を組織していて、尚且つオーク等の害獣討伐のための兵士が常駐しているはずだ。

 領民が攫われて気が付かないとは考えにくかった。



「アーレスさん、助けてあげられないですか?」

 情けないことに、アーレスはココルの涙声を含んだ問いかけに即答できなかった。しかしその時。

『あれは?』


 女性たちが監禁されている檻の前に、しかもオークの棲家の奥地に……黒い外套を纏い、肩に黒猫を乗せた人物が見えた。



「キリア……」

 アーレスは駆けだしていた。


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