表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/54

03 地下室の探索

 眠ってからおよそ90分で、幽体離脱が始まる。

 ペロが前世で培った経験である。

 

 小学校5年生の夏休みだった、夏にも関わらず風邪をひいた。

 高熱を出したあげく、夏祭りという大イベントを逃したのが事のきっかけだ。

 祭りは関係ないかもしれないが、本人はそう信じていた。

 

「ただの夏風邪だな」

 親は事を軽んじていた。

 意外に臨死体験だったのかもしれない。


 体調は回復したものの、彼の身に不可思議な体験が降りかかった。

 小学5年生には、いや、大人にとっても大事件であろう。

 少年は必死になって親に相談してみたが、呑気な両親で相手にされなかった。


 当時、仲の良かった5つ年上のお兄さんに、涙ながら訴えた覚えがある。

 そのお兄さんは、面倒見がよくて辛抱強く話を聞いてくれた。

 親にも、見習って欲しいものだ。


「得体が判らない経験をすれば、不安にもなるさ」

 少年にとっては、信じて貰える事が一番重要な事になっていた。


「解決するには、知れば良いし体験すれば良い」

「どうすれば良いの?」


「繰り返し体験すれば経験値が上がって、レベルアップするんだよ」

(それって、ゲームの話だよなぁ)


「検証しよう」

 お兄さんは、検証という言葉が好きだった。

 

 夜眠ってから何分後にそれが起こるのか。

 寝る前に時計を確認しておき、何分後だったか確認した。

 それが、おおよそ90分で固定だった。


「検証データが揃えば、見えてくる物もあるんだ」

 わざと夜更かしをして、昼間に寝てみたりもしたが、やはり90分後だった。


 移動が出来る範囲、時間もチェックした。

 家の近所に、キレイな女の子が住んで居なかったのが今でも悔やまれた。

 あの頃に覗きなど覚えたら、取り返しつかなかっただろう。


 壁をすり抜けたり、空を飛べるのは楽しい体験だ。

 ときどき本体から離れ過ぎたり、時間オーバーをする時もあった。

 地獄のような朝を迎えたが、日が経てば感覚で限界を覚えることができた。

「それが、経験値が上がったということさ」

「なるほど!」


 幽体離脱をするのは、大概が大人の時間帯である。

 見てはいけないモノを、偶然見てしまった事もある。

 しかし不思議な事に、驚きはしたがドキドキはしなかった。

 

「心臓も無いし、脳内分泌物も無いからドキドキ出来ないね」

「そういうモノなのかぁ」

 理屈は判らなかったが、納得はした。少年時代から適当だった。


 

 中学生の頃は修学旅行で、片思いした女の子の寝顔を覗きに行った。

 寝顔を見ると、ヨダレを垂らしていてゲンナリはした。

 パンツ丸出しで寝ていた別の女の子を見て、2度目の恋をしたのはご愛嬌。

 パンツを見ただけで惚れるとは、思春期なのだろう。


 高校生の頃に地面に潜ると別世界があったのに気が付いた。

 当然スカート覗きをしたが、あまりの馬鹿さ加減にうんざりして止めた。


 幽体離脱中は、達観したモノの見方をするという発見である。検証である。


 大学生の頃に、指先程度ならモノに触れ動かすことが出来るようになった。

 幽体離脱のレベルアップだ。



 検証もそろそろ終わりという頃、お兄さんと約束をした。

「幽体離脱の事は秘密にする」

 使い方次第では、悪用される恐れがあるからだ。


 幽体離脱を利用したビジネスを、2人で始めたのは、また別のお話である。



 

 幽体離脱してみると、リーナはまだ起きていた。

 普段は食卓にしているテーブルに、赤い表紙の本を出し読んでいた。

 

 本にはキレイな色彩の植物の絵が描かれている。

 しかし字が読めない、会話は理解できたが字が判らない。

 

 見当で、調合のレシピが書かれてるのは予想できる。

 本のことをコーデックスと呼んでいた。

 

 てのひらの光った紋章から、出し入れできるらしい。

 紋章は普段は見えないようになっている。

 

 そもそもリーナは宙に浮くし、魔法で物を加工したりとかする。

 色々な不思議な事象も、ペロは大した疑問もなく受け入れていた。


(まぁ、自分でも不思議な体験をしてきたから、麻痺してるんだろうな)

 しかし不安に包まれている自分に気が付いた。


(どうしてボクはこの世界にきたのだろう?)

 考えても判らない。


(魔法ってどうやって使うんだろう? 仕組みは?)

 当然、判りっこない。


(時計の見当たらないこの世界では、時間をどうやって知るのだろう?)

 これは、ただの勉強不足に感じた。調べれば判りそうだった。


(リーナは、なんでこんなに可愛いのだろう?)

 知ったことでは無いが、主観の問題だろう。

 

 ペロは、知らない事が多いのに気付き、不安になってきたが。

 お兄さんの言っていた言葉を思い出す。

「繰り返し体験すれば経験値が上がって、レベルアップするんだよ」


 経験値の話も今なら判る。

(ゲームに限らず経験すれば、前より確実にレベルアップする。たぶんね)



 

 独り考え事をしている間に、無駄に時間は過ぎる。

(探索に行こう。行動して、経験を積もう)


 リーナをもう一度みると、見慣れない光がお腹の辺りに漂っていた。

 その光は時折、本をなぞる指先に小さな光を流している。


(むむ? なんだろう)

 そう思ったった瞬間、リーナが振り向いた。

 ペロはというと、いつものモヤのような存在では、なくなっていた。

 青白い人型をしていて、自身でも驚いた。


(見えてるのかな?)

 手を振ってみるが無反応で、何かを察したが見えてない様子だ。

 リーナが本に視線を戻したので、地下に降りてみる事にした。



 地下施設は、魔道灯が壁や天井に設置されており明るい。

 壁は漆喰の壁のようだった。

 光の反射をしない白い壁で、天井はドーム型だ。

 

 真下にある空間は、割と広めな特に何もない部屋だった。

 壁には3つの扉らしい線が引いてある。

 まさに描いてあるだけの、扉の枠に見える。

(広間のような気がするな)

 

 工房の方角の壁を通り抜けて行く。

 その部屋の床一面に、幾何学紋様が彫り込まれていた。

 工房側の壁には、大きな扉の痕跡が見える。

 部屋の横を見やると、黒い石版が立っていた。

(玄関なのかな?)

 

 後で判るが、ポータルという転送装置だった。

 工房側から入りこの装置を使い、他の町などのポータルに移動できる。

  

 

 とって返して、先ほどの部屋に入るとピンときた。

(ここは玄関ホールだ)

 それからは、奥の部屋へ移動しながら見ていく。


 居間にキッチン、大きなベッドのある寝室。

 シングルベッドの部屋が2つ、2段ベッドのある部屋もあった。

 大きなお風呂にトイレは3か所。

 本が詰まった棚が6つもある部屋に、その奥には書斎。

 食料庫に調合素材らしき物が蓄えられた部屋もあった。

 

 10以上の部屋があり、それらが立体的な通路で繋がっていた。

 

 蟻の巣のようなイメージ、と言えば伝わるだろうか。



 もう一度外へ出て、離れて見ようと思い土の中に入り込む。

 

 昨日は見えなかった、大きな光の珠が部屋の下に浮かんでいた。

 そして光の珠はここだけではなく、離れた場所の土の中に浮いている。

 その数はかなりのもので、いくつあるかなどは見当も付かない。


 一番近そうな珠は、おそらく工房の辺りと花畑の大樹の下。

 キャメロット村の方にも見える。

 

 地中では距離感が掴めない、方角が頼りの感であった。

 そしてその[光の珠]同士を光の線が繋いでいる。


 まるで前世で見た、インターネットの模式図のようだった。



 目の前にある光の珠からは熱も感じない、淡くボンヤリ光る青色だ。


 ただ眺めていると、知らぬ間に惹きつけられるように近づいていた。

(危険は感じないな、心が穏やかになる気がする)


 そっと指が触れる。


「バチッ」

 感電したかのように弾かれた。


 弾かれた瞬間に元の身体に戻っていた。

 もちろん猫の身体。

 きっと悲鳴をあげたんだろう、リーナが心配して抱き上げてくれた。


「ペロ大丈夫? 怖い夢を見たの?」

「にゃーん」

 ゴロゴロと喉を鳴らし、リーナに甘えている。

 そのまま、眠ってしまった。

 





 




 


 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ