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若干の手違いがあったものの……  作者: 白い黒猫


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恋のお呪い

 子供時代の思い出の詰まった段ボール箱は、大人になった今みると何が飛び出して来るかわからないパンドラの箱。

 結婚して初めて夫婦として帰省したお盆休み。母親に子供時代の荷物が出てきたので、中身を確認して欲しいと言われ、恐る恐るその段ボールをのぞき込んでいた。小学校時代の荷物が中心なようで小学校六年分の通信簿、文集、図画の時間に書いた絵とか作った謎の物体、友達からもらった手紙とかプレゼントといった懐かしいモノばかり。思わぬ形で過去が私の前に躍り出てきたことで、なんとも複雑な気持ちになっていた。

 ハッキリ言って、三十近くになった今、過去の成績表とか文集とかシュール過ぎる絵なんて、改めて見直したいと思うものではない。成績表は見た瞬間に鞄に突っ込んで隠したものの、文集は相方に見つかってしまい取り上げられる。そして今、隣で爆笑しながらそれを読んでいる。元々同じ小学校だっただけに、共通の知り合いも多く、彼にとってもそれなりに面白いものなのだろう。馬鹿な事を書いている自分自身の文章は意外な事に彼は気にしてないようだ。

「マイちゃん、コレな~に?」

 いつのまにか側にきていた幼稚園生になる姪ッ子のメグちゃんが、何かが入っているガラスの瓶を箱から取り出し聞いてきた。その瓶を見てみると黒地に白い大きなハートの模様のついた小さい玉がいっぱい入っている。

「ん? ああ、コレは風船(かずら)の種よ」

 その風船葛の種は、私の心になんとも懐かしくそしてくすぐったい気持ちを湧き起こす。

「カワイイね~ハートがついていて」

 私はその言葉にフフフフと笑ってしまう。そして小学校の時に女子の間で流行ったある他愛ない『恋のお(まじな)い』を思い返していた。

「コレはねハートシードとも言ってね、魔法の種なの。このハートを恋人になりたかったらピンクに、結婚したかったら赤く塗り潰して、その好きな人に纏わる場所に植えてその種が実をつけて再びその種を手にする事が出来ると、想いが叶うの」

 その為子供時代女の子の間では、この種を好きな相手の住む家の庭、アパートの敷地の端、サッカー場のフェンスといった所等に風船葛を勝手に植えるのが大流行した。一年草とはいえ、蔓性の茂る植物を強引に植えるなんて、チョットした迷惑行為のような状況でもある。

几帳面な親にあたると、よく分からない植物が生えてきた段階で抜かれ、マンションのような所だと繁ってきたなという所で業者の植栽が入り伐採されたりと、蒔いた側と蒔かれた側で知らぬ内に攻防が繰り広げられていた。私はというと……ガーデニング好きな家に当たった為に、世話もしっかりしてもらえ、蔓も優しく支柱で誘導され、誰よりも見事に成長させる事には成功した……。

「あれ、風船葛って、細かくギザギザな感じの葉っぱで、ほおずきみたいな実が出来る植物だろ?」

 文集に夢中になって、過去世界にトリップしてここにはいないものになっていたと思っていた相方が突然会話に加わってくる。その言葉に私はギクリとする。

「そうだよ! よく知ってるね?」

 相方はフフっと笑う。

「昔お袋が『突然庭に何か植物が生えてきたと思ったら、風船葛だったの』と、隣の家の人と話していたの思い出して」

 そして私の方を見てニヤニヤしていた。私は慌てて首を横に振り否定するが、顔が赤くなるのを感じる。そんな私を見てメグちゃんが、キラキラした表情になり近付いてくる。

「素敵~! それで二人は結婚したの? コレ本当に魔法の種なんだ! 頂戴! ね、頂戴!」

 メグちゃんの目もスッカリハートになってて、真実はここで言えなくなる。とりあえずコレ以上その話題は相方に出来ないので、メグちゃんに向かって私は微笑む。

「もしかして、メグちゃん、好きな男の子いるの?」

 私がそう切り出すとメグちゃんは恥じらうようにモジモジとして頷く。

「ヒマワリ組のタツヤくん! 大人っぽくてカワイイの~」

 大人の落ち着きがありながら少年のような笑顔が魅力的な幼稚園児ってどういうモノか想像出来ないが、一丁前に恋する女の子の目をしてメグちゃんはその好きな子の事を語り出す。

「あげるよ、この種。でも古いから魔法は切れているかも。それにもうこの種を植える時期は過ぎているから、今度来る時、新しいの用意してあげる」

「俺の実家にまだ植わってるはずだから、新しい種出来たら、おふくろに採っててもらうよ」

 相方の言葉にメグちゃんは、文字通り跳び跳ねて喜ぶ。

 あの子供時代の私達が夢中になったあの『恋のお呪い』が、こんな形で大復活するなんて不思議な気持ちである。

 しかし女の子の恋愛はこういうファンタジーから始まるもの。こう言う思い出を重ねて『女の子』は『女性』になるものだ。

 風船葛の種の入った瓶を、宝物のように両手で持ち去って行くメグちゃんを見送ってから相方の方をチラリと見る。彼は私を見てまたニヤニヤしている。

「あのさ、誤解しないでよ! アンタの庭の風船葛、私じゃないから! あの頃そう言う遊び流行ってたから……」

 相方はフッと笑う。

「隣の家の境界線だぞ! 道から離れたあんな場所、お前以外誰が種埋められるんだよ!」

 家族ぐるみの付き合いがある幼なじみな為に、互いの家の往き来は確かに自由だった。そして実際この場所に風船葛の種を蒔いたのは私である。しかしそれは認める訳にはいかない。

「素直じゃねえな、お前も。

……でもさ、俺もズットお前の事好きだったから、なんか嬉しいよ」

 想いもしない言葉にドキリとして顔が熱く赤くなるのを感じ私は何も言い返せず俯いてしまう。私と相方は恋愛したばかりの中学生か! という感じで赤くなったまま向き合いもじもじとしてしまった。

 こう言われてしまうと、ますます本当の事言えなくなった。もうコレは墓場までもっていく秘密にするしかないようだ。


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