6/34
彫金職人パルティスの証言1
デケンベルのカレエンダの5日前 マルスの日 (11月27日火曜日)
曇り
ワシはの、初めから反対しておった。
あの娘との結婚をな。
遊牧民の子というても、どこの誰かもわからぬ娘さ。
おかしげな服を着ていてな、民族衣装だとゆうとった。
息子はなかなかの腕前の彫金師じゃったよ。
ワシの技術の全てを教えたんじゃから当然さ。
それが何を思うたか、突然「パン屋になる」などと・・・・
ワシはもちろん反対したが、息子はその娘の言いなりでな。
遊牧民に伝わる秘伝の酵母とやらが大事なんだと、
そんな事をゆうとったわ。
子供が出来てしばらくして娘は病で死んでしもうたが、
その後からじゃなぁ、あの子の様子が変わったのは。
あの子は不憫な子さ。
やはりあんな娘にはまともな教育も出来んかったのさ。
あの子にはワシらの教育が必要だ。
医者や占い師だというような、そんな胡散臭い連中に
あの子の事が分かるわけがない。
ワシらと暮らしていればそのうち元どうりになるさ。
何の問題も無い。
大げさに騒ぐ方がおかしいんじゃ。