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1-38. 自由に向って逃げろ

 街に静けさが戻り始めた。

「オリ、娘と駆け落ちをしてくれないか。頼む」

 チャさんが真剣な表情で突然な事を言いだした。


「まずは詳しく話してくれませんか」

 内心と違い、冷静に問いただす。

「あ、済まなかった。私もどうして良いかわからない。そこにオリの顔を見たらそれしか無いと思ってしまった」

「はあ」

 ますますわからん。


「順番に話してください」

「ああそうだな。アイシャは以前別の工房に弟子入りする予定だったのは知っているかな」

 頷く。そんな事きいたかも。

「トトと行って私と同じ系列に繋がっている。王都ではかなり高名な錬金術師だったんだ」

 過去形だ。

「それが先の戦争で彼の流派で作った魔具が一切動かなくなった」

 これも共和国側の準備のなせる技だ。

「そこで彼が目を付けたのがアイシャの断熱板。あの製法は自分の所から盗まれたと言い出したんだ」

「そんな無茶な」

「彼の叔父は第2爵位を持っていて、その無茶が通る」

 はあ〜。

「その弁償としてアイシャを妻に差し出せと要求してきたんだ。弟子としてなら良かったが愛人の1人にする気はない。ましてトトは私の父より1つ下でしかない」


 考えるまでもない。

「アイシャどこに居ます。今すぐ国を出ます」

 俺は立ち上がり自分の荷物をまとめ始めた。

「わかった、すぐに呼んでこよう」

 チャさんは駆け出した


 出てきたアイシャはすでに旅支度は出来ていた。

「オリが来てくれなかったら1人で行こうと思ってた」

「行き先のあては」

「ここから南東の国ビィシャクイその港街プレスト。南大陸に渡るためにそこで錬金術師して名を上げる必要がある」

 本当に考えていたんだ。

「わかった。向かおう」


「お父さん、お母さんごめんなさい」

「お前が無事ならそれでいい」

「体には気をつけてね。オリ、娘をお願いします」

 大げさだが北大陸と南大陸の間には大切断と呼ばれる難所がある。簡単には通れない、もう会えないかもしれないのだ。

 日は傾き始めたが構わずに街を出た。


 その夜、俺はもう1つの覚悟を決めた。

 2人は焚き火を囲んでくつろいでいる時に

「少しいいか」

「うん」

「これから話す事を誰にも話さないと約束してくれないか」

「無論。オリが話すなと言うなら誰にも言わない。契約しようか」

「いや契約なんて縛りじゃなく、お互いの信頼の上での約束が欲しい」

 短く目をつぶったあと「わかった、約束する」

 真剣な顔が焚き火に照らされた。


「こいつは知ってるよな」と周りを警戒していたシュリーゲンを呼ぶ。

「うん、オリの使い魔だよね」

 そして手を火にかざし

「俺にはもう1匹、使い魔がいる」

 裾から黒い物体がもそもそと出てくる。

「え、なにそれ気持ち悪い」

 その声にボトリスが萎えている。

「こいつはボトリス。どこにでも入り込んで盗み聞きができる」

「あ〜そう言えばオリって何で知ってんのっていう事多かったね、これのおかげ」

 多少はね。


「俺はこいつの事は隠している」

「何で」

「こいつの存在は不要に警戒される事になる」

「それはそうか、盗み聞きが得意だものね」

「それだけじゃない」

 ボトリスの一部がポトリと地面に落ちた。

「分裂ができる。分かれた分身が聞いたことは本体にも聞こえる、そうなれば俺も知る事が出来る」

「ますます人に言いにくいな」

「チャの工房にも少し置いてきた。ご両親の近況は覗ける」

「ほんと」声が明るくなった。

「一方的にだけとチャ達の状況は随時確認できる」

 チャさんのところだけじゃない、他にも数カ所にボトリスは置いてある。

 それは王都クルバドンにもナポリクス共和国にもだ。

 そもそも1つにまとまるとかなりの大きさになっている、分けなきゃ連れて歩けない。


「もう一つ。俺は街に来る前洞窟で目覚めたがそれまで何をしていたか記憶がない。この世界での常識がないという事だ」

「そんな事言ってたね。本当だったんだ」

「あぁ。本当だ」

 すべてを話していないが嘘は言っていない。

 そもそも前世の話は聞いても'それで'にしかならない。


 クハドール王国とビィシャクイ王国の間には国境というものはない。緩衝地域の深い森が有るだけだ。

 本来は道のある共和国に入りビィシャクイ王国に向かうのが安全だ。だが今回その道は選択しなかった。

 王国と共和国の今を知らない、下手に踏み込めばトラブルに巻き込まれそうだと考えたのだ。

 この森に出る魔物なら俺にも対応出来た。対応出来なそうなのはシュリーゲンに見つけてもらい回避した。


 6日ほど歩いてやっと森を抜けた。そこには砦、この森を抜けてくる人を見張っていた。

「止まれ。クハドール王国からか。何でこっちから来た」

 砦の兵士に取り囲まれて質問を受ける。

 俺もアイシャも抵抗せずに従う。

 両手を嘘発見器に乗せられている。


「だってナポリクス共和国と戦争したのこの前じゃないですか。どうなってるのかわかんないから共和国避けてきたんです」

「何でクハドール王国から出国した」

「貴族の血筋を持つエロ錬金術師爺が俺の妻を愛人にって言い出して。相手が貴族なら逃げるしかないじゃないですか」

 兵士達がクスリと笑う。

「あの国ならありそうだな」


「お前が冒険者で女が錬金術師か。面白い組み合わせだな」

 俺達を値踏みしている。

「俺、錬金術師で商人でも有るんです。新しいところで工房を建てようって逃げてきたんで」

 ネックレスにぶら下がっている証明を見せる。


「おかしなところは無さそうだな。一応話の筋も通る。ビィシャクイは2人を歓迎しよう」

「よかった」無事入国できた。

「では入国料を払ってくれ」

「え、金必要なの。全部ギルドに預けて来ちまった」

「オリは本当に常識ないな。はい2人分」

 そう言ってアイシャが払ってくれた。

 周りの兵士の肩が揺れてる。

「良い妻を持ったな。大切にしろ」

「はぁ〜」


 良い妻と言われアイシャは上機嫌だ。俺が好きだと言うわけでも無いだろうに。

「良い妻、良い妻だってよオリ。大切にしろって」

 これはしばらく言われるな。


 最初の村までは道がなかったが、村からは道があり安全度が上がる。

 それに道には馬車も走っていて、空いていれば金はかかるが乗れる。

 急ぐ旅でもないしゆっくりと歩いて移動することになった。

 この世界の女性は歩くことを苦にしない、特にアイシャのように魔力があれば文句は出てこない。


「これ便利ね。オリが作ったの」

 大きな車輪の付いたキャリーケースを引きながらアイシャが言う。

 旅が当たり前でなく体力の底上げが可能なので、1人が荷物を運ぶ場合は登山家が背負うようなリュックが主流。

 俺は大きなリュックを背負っている。キャリケースは俺用に作っていた。

 アイシャのリュックを背負い俺がキャリケースを引く図は俺の良心が耐えられない。


「オリでも収納袋はむりだったか」

 この世界には定番の異空間収納が可能な袋が存在している。

 ほとんどが国の所有物で個人で持っているものはいない。もしかしたらいるかも知れないが絶対に秘密にしていると思う。

 俺も何度か作れないかチャレンジしているが無理だった。

 異空間をどう考えればいいのか思いつかない、俺の常識が邪魔する問題の一つ。


 もっともあんな物を作れてしまうと良くて保護、最悪監禁だろう。

 少し前にこちらの戦争を調べる機会がありそう確信した。今は絶対に作りたくないもの第一だ。

 素人は戦略を語りプロは兵站を語るというが。こちらで兵站が問題になることは少ない。

 言葉のとおりの一騎当千が本当にいて、収納袋に1部屋分の食料を入れて運べる世界。戦争の常識が地球とは違う。


 異空間の収納袋は完全な軍事物資。作れないほうが幸せなのだ。

「絶対に無理だね」と答えておく。


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