表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/9

先輩、ズルいんですけど!~甘いキャンディー~(レリーナ)


 朝の光が教室の窓を淡く照らす。

 一年生棟の教室から校庭を見下ろすと、遠くに二人の先輩が、それぞれの棟へ向かって歩いているのが見えた。

 背の高い黒髪のカイル先輩。

 戦闘科棟へ向かう足取りは、自然と空気を変えてしまう威圧感と落ち着きを同時に持っている。

 思わず目が止まる。

――でも、ドキドキしているわけではない。

 カイル先輩は身分も科も上の人。

 尊敬の対象だ。

 部活では気さくに接してくれるけれど、恋の対象ではない。ありえない。

 近くで話すだけで威圧感で緊張するくらいだ。

 ふと気づく。

 カイル先輩が遠くから、こちらを見ている。

 窓越しに視線を感じ、背筋がぞくりとする。

 鼻で小さく笑ったように見えたのは、気のせいだろうか。

 視界の端にもう一人、一般魔法科棟へ向かうウィン先輩。

 ただ普通に歩いているだけなのに、胸がぎゅっと痛む。

――何この反則。歩くだけで胸が痛いとか、普通ありえない。

 その歩き方、肩の傾き、手の振り方までもが、勝手に私の目に焼き付く。

 手を振るわけでも笑うわけでもないのに、なぜか世界の空気まで変えてしまう気がする。

 いや、ほんとに変えてるかも。

 私の心だけでなく、空も風も空気も何もかもざわついてるに違いない。

 好きだから。

 どうしようもなく好きだ。

――なのに、理性の私が心の奥で突っ込む。


(いやいや、ただ歩いてるだけでドキドキするとか、私おかしいから!)


 声に出さず、頭の中で自分にツッコむ。

 でも、その突っ込みを無視するように、目は勝手に追ってしまう。

 小さく息を吸うだけで、胸がざわつき、心臓が跳ねる。

――こんな状態で、昼休みまで持つのかな、私。



 昼休み。

 校庭の端のベンチに、二人を見つける。

 ウィン先輩が膝の上で紙包みを広げ、カイル先輩に手を差し出す。

――あの距離感、ずるい!

 私はベンチの少し後ろに立ち、頭を抱える。視線は二人から離せない。


(無言なのに……何その空気……!)


 心の中で叫ぶ。

 誰にも聞かれたくない声で。

 ウィン先輩は平然としていて、カイル先輩も無言でわずかに口角を上げる。

 ウィン先輩の包みは二つ。

 一つは自分用、もう一つはカイル先輩用。

――カイル先輩の分まで作ってる……ズルい……!

 ウィン先輩が三つ目の小さな包みを取り出す――


(……それ!それは私用ですか……!?)


 目が一瞬で輝く。

 思わず頭を抱え、息を漏らす。

 少し心を落ち着け、私はベンチの脇に立った。


「……こんにちは、ウィン先輩。カイル先輩」


 自然な声で挨拶する。

 ウィン先輩はちらりと視線を向け、にこりと微笑む。

 カイル先輩も少し目を細め、口角を上げる。


(もう、ズルすぎる。ウィン先輩、その笑顔反則です……!)


 私は膝に手を置き、深呼吸をして座る。


「お昼、一緒にいいですか?」


 小さな声で尋ねると、ウィン先輩はにこりと頷き、包みを少しずらして私の前に置く。

 開くと、三つ目の小さな包みは、やはり私用だった。

 目を丸くし、思わず口元に手をあてる。


「……わ、私用まであるなんて……!」


 ウィン先輩は「どうぞ」とだけ言い、軽く微笑む。

 カイル先輩も紙包みを開き、無言で受け取る。大きな手で少しぎこちなく、でも丁寧に扱っている。

 そっと開くと、ふんわり卵のサンドイッチ、トマトとレタスのミニサンド、チョコチップクッキー。

 どれも丁寧に作られている。

 一口食べたカイル先輩が、低く「……美味い」と一言。

 ウィン先輩は何も言わず、にっこり見守る。

 私は頭を抱えながら、心の中でツッコミを連打する。


(……ズルい……! なんで二人とも、こんなに自然にやり取りできるの……!)


 サンドイッチを口に運び、小さく息をつく。

 チョコチップクッキーをかじり、紙包みの香りをかぎながら、二人の視線のやり取りを観察する。

 軽い会話も混ざる。


「……トマト、いい感じだな」


「そう?」


「味、控えめがちょうどいい」


「良かった」


 ふっと視線を上げると、カイル先輩が私をちらり。

 鼻で小さく笑うように口角が動いた。


(なんですか、その勝ち誇ったような。カイル先輩。貴方様は、目上で、なおかつ尊敬しておりますが、その笑顔、いただけません……!)



 昼休みも終わりに近づき、二人は何事もなくベンチを離れる。

 私はベンチの後ろに立ち、ポケットから小さなキャンディーを取り出す。


「……ふふ、これでちょっと落ち着くかな」


 口に放り込むと、甘い味がじんわり広がる。

 頭を抱えながら、二人の残した影を思い浮かべる。

 キャンディーを口の中で転がして、私はそっと笑った。





 レリーナちゃん、崩壊進行中。

 しばらく進行が滞ります。


 葉月百合

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ