表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/20

文化祭の準備と、贈り物~街角の小さなカフェ~①



 ある日の休日。

 まだ初夏には少し早いが、緑は光を受けて輝いていた。 

 文化祭に向けて、家政魔術部ではお菓子や小物の準備が本格化しており、僕はレリーナさんとともに街へ材料の買い出しに出ることになった。

 お菓子の材料と、刺繍用の糸や図案集を揃えるため、僕とレリーナさんは街の中心へ向かう。

 部費の制約もあるので、計画的に買い物を進めなければならない。


「ウィン先輩、文化祭はどのようなお菓子作るんですか?」

「クッキーとカップケーキ、それに小さなマカロン。それから飾り用の小物かな」

「結構いろいろ作られるんですね」


 レリーナさんが小さく目を輝かせて、控えめに微笑んだ。


「わぁ……楽しみです。先輩の作るお菓子って、どれもきっと可愛くて美味しいんでしょうね」


 胸の前で手をそっと組み、少し身を乗り出すようにして僕の話を聞いている。

 その仕草を見て、自然に僕も少し嬉しくなった。


「ウィン先輩、ここのお店の卵、新鮮そうですね」


 レリーナさんが指差す先には、朝採れたばかりの卵が木箱に並べられている。


「うん、ここにしよう」


 僕は店主に必要な個数と配達の予約をする。

 僕たちは石畳の小径を抜け、少し繁華街に入った。

 路地を曲がると、パン屋の香ばしい匂い、花屋の草花の香り、遠くのカフェから漂うコーヒーとお菓子の甘い香りが入り混じり、街全体が生き生きとしているように感じられた。


「おい」


 突然、背後から低く落ち着いたよく知っている声が聞こえた

 振り返ると、長めのコートとサングラス、そして髪色を茶色に染めたカイルさんがいた。


「……カイルさん?」


 思わず声が漏れる。買い出しには行けないと言っていた彼と、こんな場所で会うとは予想していなかった。


「予定が変わった」


 カイルさんはそう言うと、少し視線を逸らして手で髪をかき上げた。

 普段の落ち着いた彼からは想像できない、ほんのわずかな仕草。


「……あの、どうしてここに?」


 サングラスの奥で目を細め、口元をわずかに緩める。普段の冷静な雰囲気とは違い、照れを隠せない様子がちらりと見えた。


「いや……ちょっと用事があった」


 言葉は短いけれど、声にはいつもより柔らかさが混ざっていた。

 カイルさんが腕を組み直し、再び髪をかき上げる。無意識なのか、少し落ち着かない様子も見える。


「そうだったんですか……」


 こんなふうに、いつもと違うカイルさんを見るのは初めてで、少し不思議な気持ちになった。

 三人で街を歩きながら、まずはお菓子の材料を揃える。小麦粉、砂糖、バター、チョコレート……。

 レリーナさんと相談しながら、一つひとつ手に取り、品質や量を確認していく。


「ウィン先輩、ここのバターも香りがいいですよ」

「うん、じゃあこれにしよう。あのお店でチョコレートも見てみよう」


 素材に触れ、香りを嗅ぎ、色や艶を確かめる。

 カイルさんは僕たちの後ろで、肩を少しすくめながら黙って歩いている。


「チョコはビター寄りのやつがいい」


 ぶっきらぼうな声がする。ちらりと視線を送ると、彼はすぐに顔を背けた。


「なるほど……じゃあ、両方買います」

「……」

「そうですね!いいですね!」


 レリーナさんははしゃぎながら笑って頷く。


 次に向かうのは手芸店だ。

 文化祭で販売する小物のため、刺繍糸を揃える必要があった。

 店内の棚には色とりどりの糸が並び、選ぶ楽しさがあった。


「この瑠璃色、いいかも」

「はい、きれいです!」


 二人で色を比べながら、どの色が小物に合うか相談する。

 レリーナさんは糸を手に取り、指先で軽く触れて光沢を確かめる。

 僕も隣で同じように糸を手に取り、どれが合うか迷う。

 カイルさんは少し離れた位置から腕を組み、落ち着いた表情で僕たちを見守っていた。

 髪を軽く撫で直したり、サングラスを整えたりするくらいで、いつもの穏やかさに戻っている。


「これはどうだ?」


 ぶっきらぼうに聞こえる言葉の裏には、普段通りの冷静さがあった。


「うん、すごくいい。ありがとう」

「べつに……」


 彼の手が選んだ糸に触れる距離はわずかだが、その低く落ち着いた声に胸がざわつく。

 普段通りのカイルさんが、隣でこうして関わってくれるのが自然に嬉しかった。

 僕は視線を少し逸らしながら、でも無意識にカイルさんの動きを追っていた。

 レリーナさんが微笑むのを見て、三人の距離感にほんの少し安心する。


 買い物の合間、僕はふと一年前の文化祭の準備を思い出す。

 クロード部長は相変わらず気まぐれな人で、ほとんど一人で作業していたときには感じなかった楽しさが、こうして誰かと一緒に過ごすことで増していく。

 肩越しの視線、互いに話す笑い声、さりげない手の触れ合い……。


「ウィン先輩、次はどの色にしますか?」


 レリーナさんが尋ねる。僕は迷いながらも糸を手に取り、カイルさんと相談して決める。


「…これがいい」

「なるほど、じゃあこれにしよう」


 選ぶ楽しさと、肩越しの温もり。三人で過ごす時間は、静かに心を満たしていった。


 



 今回は三人でお外です。

 お話続きます。


 葉月百合


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ