ルーク
ルークから少し距離を取り、ミアとアンヌは人目を避けるように向かい合った。沈黙が二人の間に重く落ちる。
「アンヌ……正直に答えて」
ミアはアンヌの瞳を真っすぐ見つめた。
「ルーク殿下に、本当のことを伝えていないの?」
アンヌは一瞬視線を逸らし、唇を噛みしめた後、ゆっくりとうなずいた。その仕草だけで、答えは十分だった。
「……そう」
ミアは胸の奥が締めつけられるのを感じながらも、言葉を続ける。
「だったら、殿下に真実を伝えて。聖女の座を退いて、きちんと罪を償ってほしいの。それを条件に、私はヴィエール王国に祈りを捧げるわ」
アンヌの反応を、ミアは息を詰めて見守った。かつては何でも話し合えた親友だった。反省し、正しい道を選んでくれると、心のどこかで信じていた。
しかし、次の瞬間、アンヌの顔は怒りに歪んだ。
「そんなの、無理に決まってるでしょ!!」
甲高い声が空気を切り裂く。
「どうしてそんな酷い条件を出すの!? 友達でしょう!?」
「友達だからよ」
ミアは声を震わせながらも、はっきりと言い返した。
「友達だから、見逃せない。アンヌが犯した罪は重いわ。ちゃんと償って。お願い……私に、あなたを許したいと思わせて」
ミアは祈るようにアンヌを見つめる。しかし説得の言葉は、彼女の心には届かなかった。
「はっ……ふざけないで」
アンヌは歯を剥き出しにし、抑え込んでいた感情を吐き出すように叫ぶ。
「ずっとずっと、あんたばっかりちやほやされて……許せなかった! たまたま精霊に選ばれただけで、調子に乗って!」
ミアは何も言えず、ただ立ち尽くす。
「私はね、努力してきたのよ! 魔法が上手く使えるように、血のにじむような努力を! 良家との結婚を断ってまで宮廷魔術師になったのも、全部、魔法で頂点に立つため!」
アンヌの声は次第に震え、憎悪に染まっていく。
「それなのに……何の努力もしないで、たまたま力を授かって聖女になったあんたが、どうして尊敬されるの!? それが許せなかった!」
そして、叫ぶように告げた。
「だから私は……あんたに罪を着せて、偽物の聖女になったのよ!!」
その瞬間、背後から低く震える声が響いた。
「アンヌ……何だよ、それは」
振り返ると、そこには青ざめたルークが立っていた。アンヌの様子を不審に思い、いつの間にか近くまで来ていたのだ。
アンヌは血の気を失い、震える唇で問いかける。
「……私を、どうするの? 婚約破棄して、処刑する?」
しかし、ルークは怒りを露わにし、声を荒げた。
「そんなこと、できるわけないだろ!」
拳を握りしめ、吐き捨てるように言う。
「そんなことをしたら、僕が偽物聖女に騙されたと世間に知られるじゃないか。僕はそんな愚かな人間じゃない。それに婚約破棄なんて、世間体の悪い真似できるか」
その瞳には、アンヌへの愛情ではなく、己の立場への執着だけが浮かんでいた。彼の本性を目の当たりにして、アンヌは言葉を失い立ち尽くしている。そんなかつての親友の姿に、ミアは怒りを覚えながらも心が痛んだ。
「僕は完璧な王になる。そのためには……邪魔になる情報は、徹底的に管理しなければならない」
ルークは冷たく言い放ち、兵士に命じる。
「おい。ミアを捕らえろ」
次の瞬間、ミアは兵士たちに囲まれた。逃げようと一歩踏み出したところで、鈍い衝撃が頭を襲う。視界が歪み、意識が闇に沈んだ。
「調べでは、この近くに使われていない小屋がある」
遠くで、ルークの声が響く。
「そこに監禁しろ。四隅には魔力を消す石を置け。忘れるな」
ミアは何もできないまま、兵士に引きずられていった。




