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♪すきすきすきすき すき すき 




 ♪すきすきすきすき すき すき 愛してる

  すきすきすきすき すき すき 椎茸さん

  

 ♪香りは鮮やかだよ 一級品

  肉厚満点だよ 一級品

  成長厳しい 一級品

  だけど 恥ずかしがり屋だよ 三級品

 


 畑の脇には、クヌギやコナラなどの広葉樹の原木が積み上げられている。


 太さはまちまちだが、長さはある程度揃えている。


 俺たち五人は、椎茸の植菌を流れ作業で行った。


 小六と真之介が俺の指示に従い、原木にのみ金槌かなづちで小指大の穴を開けていく。


 一メートルほどの幹に五か所開け、その反対側にも五か所、計十か所の穴を作る。


 開けた穴には、壺に入った種菌を詰めた後、花里がほどよく溶かした蜜蝋を木べらで薄く塗って、蓋をする。


 あとは、すぐそばの林の中、枕木の上に積んでいく。


 

 ♪あー あー なむさんだー

  とんちんかんちん とんちんかんちん 植菌

  菌糸なら 菌糸なら 菌糸なら

  のぞみは深く 果てしなく

  わからんちんども とっちめちん

  とんちんかんちん 椎茸さん


 

 俺はみんなに細かい指示を与えながら、替え歌を歌う。


 意味不明な言葉を並べた歌詞だが、気分は良い。


 善が種菌を詰めながら尋ねた。


 「一体、その歌は何なんだ?」


 俺は、これは替え歌で、本来は小坊主の一休さんの歌だと紹介し、みんなに頓智に長けた一休さんの物語を語った。


 ある男が毛皮を身につけて寺を訪れると、一休は「ケモノの皮を身につけた者は寺に入ってはならぬ」と言い、立ち入りを拒む。


 すると男は「寺にある太鼓もケモノの皮ではないのか?」と反論する。


 それを聞いた一休は、「なるほど、それならば」と言い、太鼓のバチを手に取り、男を追い払った話。


 ある時、将軍様が一休に「屏風の虎を縛れ」と命じると、一休は「では虎を屏風から追い出してください」と返す。


 将軍様が「絵の虎を追い出せると思うか?」と問うと、一休は「ならば、絵の虎を縛れると思うか?」と切り返す話。


 他にも「この橋、渡るべからず」の立て札に、端を渡らず真ん中を堂々と歩く一休の話。


 瞬く間に、四人の間で一休さんは人気者になった。


 小六が、俺の替え歌でなくオリジナルが聴きたいというので、俺はそれを歌い、そしてみんなは覚え、一緒に歌いながら作業を進めた。



  ♪わからんちんども とっちめちん

   とんちんかんちん 一休さん


 

 小六が言う「替え歌より、やっぱり本物が良い」


 しかし、善がポツリと尋ねた。


 「俺は寺で修業をしているが、一休さんの話を聞いたことがないな。一体、どこの寺にいるんだ、一休さん」


 

 俺たちは、三日間かけて、百二十本の原木を積み上げた。


 それから原木に水をかけて、筵で覆い、その上に枝葉を重ねた。


 あとは雨風と程よい湿度、すべてを自然に委ねる。



 “有漏路うろじより 無漏路むろじへ帰る 一休み 雨降らば降れ 風吹かば吹け“



 一休宗純がどの時代に生きた僧なのか、俺は知らない。



有漏路うろじとは、煩悩がある迷いの世界。

無漏路むろじとは、煩悩を離れた悟りの世界。すなわち涅槃ねはん

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