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俺は“ミラクルタケ”こと

 俺は“ミラクルタケ”こと武さんの椎茸に関して、一番弟子を自負している。


 舟に戻った俺は、和紙に包んだ椎茸をゲルの深皿に、そのまま笠を下にして、そっと置いた。


 「史郎、それからどうするんだ?」と善が尋ねる。


 「このまま、一晩何もしない。笠から落ちる胞子、つまり、種が和紙に付着するのを待つだけなんだ。そして、その種を増やし、原木に植え付けて椎茸を育てる」と俺は答えた。


 「上手くいくのか?」半信半疑の善だった。


 「俺にも上手くいくかは分からないが、椎茸を育てるために、その菌床には水槽の青い水を使う。それが俺の考えだ」


 それでもまだ納得のいかない善は、椎茸の下に敷かれた和紙を見ながら、「何も見えない平面の和紙の上に、本当に椎茸の種があるのか?」と重ねて聞く。


 「善、俺たちにはただの平面にしか見えないが、小さな生物にとっては、縦と横に広がる大地があり、さらに高く広がる空が存在する。彼らにとって、それは立派な三次元の世界なんだ。」


 首を傾げる善を見て、俺は矢立から筆を取り出し、和紙に平面と立方体の絵を描いて説明した。


 「つまり、俺たちが生きている世界が立方体の三次元、椎茸の胞子が生きている世界は、俺たちから見れば単なる二次元の平面だ。しかし、微小な彼らにとっては、奥行きを持つ立派な三次元の世界だ。」


 善は話を聞きながら、さらに椎茸の置かれた皿をじっと見つめ、ぽつりと呟いた。


 「彼らには、俺たちの姿が見えているのかな。」


 俺はその問いかけには答えられず「どうかな」とだけ答えた。


 すると善は急にそわそわと辺りを見回し、自分の体をあちこち触り始めた。


 何をしているんだと俺が尋ねると、善は「いや、二次元にも世界があり、三次元に生きる俺たちが存在するのであれば、もしかしたら四次元の世界が存在し、誰かが俺たちを、静かに見ているのではないかと思ったんだ。史郎、おまえはどう思う?」


 俺はその問いかけに「それはどうなんだろうな。もし俺たちが誰かに見られているのだとしたら、その誰かの世界では、俺たちはどんな姿をしているんだろうな」


 俺には、答えにならない答えしか持ち合わせていなかった。



 善が静かに俺を見ていた。





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