週末の春うらら
週末の春うらら。
武さんは船橋の駅で、約束をした同僚と待ち合わせをした。
先に到着していた武さんは、時間通りにやって来た彼と改札口で合流する。
六十歳の武さんと三十代の彼の組み合わせは、傍から見れば親子にも見えるだろう。
駅は混雑し、人々はどこか落ち着かない様子で足早に歩いている。
武さんは、彼の案内に従い、そのざわめく人々の流れに紛れて歩き出した。
五分ほど歩いて着いた先は競馬場だった。
初めて訪れた競馬場は、武さんにはすべてが物珍しかった。
競馬場の上には開放感のある空が広がり、その下では、レース前の馬がパドックで厩務員に引かれながらゆっくりと歩いている。
そこで武さんは初めて間近に競走馬を見た。
その馬体には、走るための極限の美があり、毛艶はうっすらと汗が滲んで輝いていた。
馬に見とれる武さんとは対照的に、彼は馬券を買いに行きたくてそわそわしていた。
彼は武さんとスタンドの一角を待ち合わせ場所に決めると、武さんをパドックに残し、馬券を買いに足早に去っていった。
一頭ずつ馬がゲートへ入っていく。
スタンドに立つ武さんの隣には、競馬新聞と馬券を握った彼がいた。
真剣な表情の彼の新聞には、赤いボールペンでやたらと線や丸が書き込まれていた。
すべての馬が無事にゲートへ入ると、スタンドには静寂と緊張感が満ち、ゲートが開くと、喧騒とともにレースが始まった。
武さんの目の前を、人馬一体となって土を巻き上げながら駆け抜けていく。
その姿に、武さんは見とれていた。
その後、武さんはパドックとスタンドを何度か往復し、同僚の彼はスタンドと馬券売り場を往復した。
そうして、武さんはふと思い立ち、馬券を買ってみた。
売り場に並び、いざ自分の順番になったが、何を買えばよいかわからず、自分の誕生日にちなんで八番と十二番の馬券を千円分購入した。
スタンドに戻ると、武さんは買った馬券を同僚の彼に見せた。
すると、彼は「馬単ですか。入ったら万馬券ですよ」と笑っていた。
それから、武さんが賭けたレースが始まり、悲鳴と絶叫、そして無数の馬券が舞う中、レースは終了した。
隣にいた彼が興奮して叫んでいる。
「武さん、すごいですよ。万馬券ですよ!」
その日、武さんは8-12の馬券を繰り返し購入した。
そして再び、最終レースでは万馬券こそ逃したものの、かなりの高配当を的中させた。
結局、武さんは一日で二十万円近くの勝ち金を手にした。




