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昨日、ゲルの型枠に流し込んだ蜜蝋

 昨日、ゲルの型枠に流し込んだ蜜蝋が固まっている。


 俺はその型枠を小刀で縦に割り、中からできたローソクをそっと取り出した。


 細い竹にゲルを巻きつけ、燈芯を立てるための突起を作った型枠は、思い通りに機能した。


 試作した型枠がうまくいったので、数を増やせば、より効率的にローソクを作れるだろう。


 そこで、もう一本作ることにした。


 型枠に燈芯を立て、再び溶かした蝋を慎重に流し込み、ゆっくりと固まるのを待った。


 そして、その日の夕方には二本目のローソクが完成した。


 夕食後、仁右衛門さんからもらった抹茶を薄茶にして四人で飲んだ。


 俺はそのまま飲んだが、三人は少量の蜂蜜を優しく混ぜて飲んでいた。


 意外とその組み合わせは相性が良い。


 日が落ちて辺りは暗くなっていく。


 俺は初めて家の中でローソクに明かりを灯した。


 いつもの灯明皿の小さな明かりに比べれば大きく明るい。


 三人は灯されたローソクの炎をじっと見つめていた。


 その炎は、燈芯にある空洞のせいか、ゆらゆらと揺らいでいる。


 そして、溶ける蝋は甘い蜜の香りではなく、優しく包み込むような香りを部屋に広げる。


 すると、真之介が姿勢を正し、その炎に手を合わせて目を閉じた。


 瞑目を終えた彼に、その理由を尋ねると、蝋の香りが母親を思い出させ、炎の淡い揺らめきに命の儚さを感じ、亡くなった両親に手を合わせたくなったという。


 それを聞いた花里もローソクの灯りに手を合わせ、小六も一緒になって手を合わせ祈り始める。


 その後も、三人はローソクを囲んでしんみりとしている。


 初秋は侘しさに誘われるのだろうか。


 俺はそんな雰囲気を打ち消そうとみんなに話しかける。


 「花里、今年は柿も栗も豊作だぞ。干し柿作りは楽しみだし、栗も茹でて皮を剥き、冷凍庫に入れておけば、一年中食べられるぞ」


 花里は寂しそうな笑顔を向ける。


 次は小六に目を向けて話しかける。


 「小六、来年は蜜蝋を巣箱に塗れるので、蜂の誘引ができる。巣箱が増やせて、もっと蜂蜜が取れるぞ。」


 小六は最初から俺の話を無視している。


 最後の頼みで真之介に話しかけようとしたが、すでに彼は自身の内面に深く沈み込み、かつて教えた童謡を口ずさむ。


 いつの間にか、それを習い覚えた二人も一緒に歌い始める。


 三人は悲しみの螺旋らせんに嵌まり込む。


 こうなると、俺にはもうどうすることもできない。


 ローソク一本でこんな事態になるとは思わなかった。


 こんな状況に、相反する人の心情が不思議で、なぜか俺は可笑しくなり笑いそうになる。


 ここで、笑ってしまえば深刻な事態を招きかねず、悲しみの裏に可笑しさが滲む。


 これは悲劇とも喜劇とも言えない舞台に立たされた役者のようなものだ。


 迷う演者のぎこちない動きは、ますます滑稽になり、独特の「ズレ」と「間」が生まれ、笑いへとつながる。


 俺は不謹慎な笑いのスパイラルに嵌まり込み、それを堪えて途方に暮れる。




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