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次に訪れた清澄寺のある山は

 次に訪れた清澄寺のある山は、夏の余韻を惜しむかのように、ひぐらしが鳴いていた。


 山の中に舟を隠し、奥の細道を歩いて、静かな佇まいの山門にたどり着く。


 門前には若い僧が立っており、俺は善との面会を求めた。


 僧は快く案内を引き受け、善が寝食をする僧坊まで連れて行ってくれた。


 掃き清められた境内を進むと、僧坊に到着する。


 そこには文机に向かう善の姿があった。


 「よう、善」と静かに声をかけると、善は日に焼けた顔を上げ、「やあ、史郎」と挨拶を交わした。


 訪問の理由を伝え、蜂蜜を手渡すと、善はしばらく待つようにと言い、僧坊を出て行った。


 待つ間、僧坊の中を見渡す。最小限度の調度と簡素な室礼は、寺での善の規則正しい修行の様子が窺える。


 僧坊の板張りの床はよく磨かれて、日の光に鈍く光沢を放っている。


 どこからかお香の香りが漂い、ふと善の家に泊まった際に見た夢を思い出した。


 夢に現れた白い袈裟を纏った僧侶と白髪の少年は誰だったのだろうか。


 そう考えているところに、善は師匠である道善房を伴って戻ってきた。


 二人は俺の前に座り、道善房は再会の挨拶と蜂蜜のお礼を述べてくれた。


 俺は今日の要件であるローソクについて道善房に尋ねた。


 彼曰く、寺でもローソクを作る機会はあるが、その数は多くない。


 理由は原料である蜜蝋が貴重で、ほとんどが海外からの輸入品であるためだと教えてくれた。


 俺は蜜蝋を手に入れたので、ローソクを作る際の燈芯をどうするかを尋ねた。


 すると彼は、せっかくなら芯を作る材料もあるので、作り方を教えるので実際にやってみようと提案してくれた。


 初めに道善房が手本を見せてくれた。


 細く削られた竹串に和紙を巻き、その上から、乾燥させたイグサの茎の内側にある繊維を丁寧に巻き付けていく。


 道善房によれば、燈心草と呼ばれるイグサ自体は湿地に自生しているので簡単に入手できるという。


 巻き終えれば、あとは竹串を燈芯から引き抜き完成となる。


 俺と善は道善房の手ほどきを受けながら十本ほどの燈芯を作り、それをもらった。


 帰り際、道善房にローソクが出来たら「お持ちします」と伝えるとにっこりと喜んでくれた。


 それから、あらかじめ用意されていたと思われる筆記用具、小さな硯と墨、筆が入った矢立、そして和紙をお土産にもらった。


 道善房に改めてお礼を言い、清澄寺をあとにした。


 「しずかさや 山にしみ入る 蝉の声」俺は一人山道を歩く。


松尾芭蕉の奥の細道「閑さや 岩にしみ入る 蝉の声」へのオマージュです。

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