花里が木箱の中に
花里が木箱の中に敷かれたシートに垂れる蜂蜜を飽きずに眺めている。
蜜がいっぱいになった蜂の巣に小刀で切り込みを入れ、巣箱を傾けて自然と蜜が滴るのを待つ。
これは素朴でありながら確実な方法だ。
翌日になれば、巣箱の中の蜜はすっかりシートの中に収まっているはずだ。
「花里、明日になったら、貯まった蜜を麻布で濾して取り出すんだ。それから、蜜を取り終えた巣は麻袋に入れて潰し、圧搾機にかけてさらに蜜を取る。それだけじゃない、搾りかすからも蜜蝋が取れて、それでろうそくが作れるんだ。」
圧搾機といっても、木箱の底に穴を開けて、上から石の重りを乗せて時間をかけて絞り出す簡単な仕掛けだ。
花里は話を聞きながら目を細め、嬉しそうに微笑んでいる。
俺は小刀についた蜂蜜をゲル製のヘラでそぎ落とし、そのヘラを彼女に渡した。
花里は指で蜜をすくって口に含み、さらに目を細めて俺に笑顔を見せてくれた。
それから一週間の間に、他の巣箱から採蜜し、同じ作業を繰り返した。
そして今、俺たち四人の前には、赤褐色の陶製の大きな壺が一つ置かれている。
その壺の赤褐色の蓋を開けると、中には光沢のあるトロリとした蜜がたっぷりと詰まっている。
最初に声を上げたのは小六だった。
少し震える声で「すごいぞ。六貫以上はあるぞ!」と叫んだ。
俺の見立てでも二十キロ以上はあるはずだ。
真之介は、無言でただ、じっと見ている。
花里は、嬉しすぎて今度は泣きそうな表情を浮かべている。
もしかすると、二人は飢えていた頃の、心の底に沈んだ澱のような記憶を思い出しているのかもしれない。
その日の夕食後、俺たちは成功のささやかな乾杯をすることにした。
俺がゲルで作った四つのカップに蜂蜜と細かく刻んだ生姜を絞り、少しのお湯で溶いて、温かい麦茶を注ぐ。
できた飲み物をそれぞれが持ち、今日の日を祝いながら口に含んだ。
広がる甘さと香りが鍵となり、記憶の扉を開いて、俺の思いは過去へと遡っていく。
クーズベイのピザ店で飲んだ炭酸の抜けたコーラ。
次郎さんが作ってくれた夏の飲み物、海岸でトオルと飲んだ冷たいコーラ。
さまざまな楽しかった記憶が蘇る。
甘味が、ささやかな幸福感と満足感を俺にもたらした。
他の三人も互いの顔を見ながら、美味しそうに飲んでいる。
彼らも、胸の奥にしまい込んだ楽しかった日々の記憶を思い返しているのかもしれない。
そして、今日の日が彼らにとって大切な一日になることを俺は心から願っている。




