深緑の山はほんの少しだけ
深緑の山はほんの少しだけ、気づかないほどの薄化粧を始めた。
それは、少女が唇に小さく紅をさすような、大人への階段に憧れる、そんな悪戯程度の変化だった。
そんな季節の変化の階に、俺、小六、真之介の三人は柿渋染めの防護服をまとい、手甲と脚絆を装着して身を守る。
巣箱の回収の際には、同じく柿渋染めでできた布を顔に巻く。
普段から小六は防護服を着ているが、洗濯を繰り返すうちに、その生地は次第に濃い色に変わっていた。
今日のためにコツコツと揃えた蜂蜜採取の道具を手に、まずは畑の崖の上にある巣箱から蜜の採取に取り掛かった。
静かに巣箱に近づき、一番下にある巣門箱の底板を外して中を覗くと、びっしりと蜂の巣が広がっていた。
一番下の巣箱まで巣が拡大しているのが見える。
巣箱の屋根を外し、上蓋を開ける。
そして、この日のために鍛冶屋で作らせた特製のスクレーパーとゲル製の糸を使い、巣箱の上に乗せてある簀の子板を巣から引き剥がした。
蜂が飛び回る中、巣箱で作業する俺たちを邪魔する蜂は、真之介が特注の鹿皮製手持ちふいごで、蜂を追い払ってくれた。
外した簀の子板の下には、蜜がびっしり詰まった巣が現れた。
一番上の巣箱とその下の巣箱の継ぎ目にスクレーパーを入れ、さらに糸を通して引き離す。
そして分離した巣箱をゲルのシートで蜜が漏れないように包み、そのまま用意した木箱に収めた。
こうして一つ目の巣箱の採蜜を終えた。
同じ要領で次の巣箱も回収した。
作業を終えた後は、簀の子板を戻し、上蓋を閉めて屋根を被せた。
そして四段になった巣箱の下へ新たに二つの継ぎ箱を追加し、箱同士の継ぎ目をゲル製バンドでしっかり留めた。
最後に、巣箱全体を縄でしっかり地面に固定し、すべての作業を完了させた。
初めての作業で要領良くとはいかなかったが、明日からの、あと二カ所の巣箱からの採蜜には良い経験になったと思う。
初めての収穫に小六も真之介も大喜びだった。
「一つの箱に一貫以上の蜜はあるぞ」と巣箱を抱えた小六は嬉しそうに言う。
「花里にも見せてやりたい。早く食べさせてあげたい」と、妹思いの真之介はしみじみと言った。
俺は彼らに話した。
「まだ、することはたくさんあるぞ。採蜜、圧搾、蜜蝋作りだ。」
その傍らで、さっきからずっと、箱や道具に付いた蜜を舐める小六には、頭を一つ叩いておいた。