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善はもう二時間ほどサーフボードと

 善はもう二時間ほどサーフボードと格闘している。


 最初はボードにうまくまたがることすらできず、波待ちもままならなかったが、今ではどうにか座れるようになった。


 波が押し寄せるたびに果敢にボードの上に立とうとするものの、すぐにバランスを崩し、波に翻弄されながら海へ落ちてしまう。


 岸から「浜に上がれ!」と大声で呼びかけると、彼はようやく気づいて海から上がってきた。


 悔しそうな表情を浮かべ、脇にサーフボードを抱えて近づいてくる善。


 長時間海にいたせいか、唇は少し青みがかっている。


 善は上半身裸で、袴をたくし上げ、布紐で縛っただけの格好だ。


 「善、寒いだろう。俺のウェットスーツは少し大きいけど、使うか?」


 「いや、動きにくくなりそうなので、このままでいい」と、唇を震わせながら答える。


 夢中になりすぎる善を心配し、俺は休憩を提案した。


 しばらく砂浜で甲羅干しをした後、俺も一緒に海へ入り、腰が浸かる程度の浅瀬でサーフボードを手で支えながら、善がボードの上に立つ練習を繰り返した。


 そしてその日は終わり、洞窟の中にボードを隠し、善がいつでも使えるようにして家路についた。


 夕食には花里が温かい雑炊を用意してくれた。


 善はよほどお腹がすいていたのか、何度もおかわりしながらガツガツと食べていた。


 食後、俺が三人に今日の出来事を語っていると、善は俺の隣でウトウトとしていた。


 彼が微睡まどろんでいる間に、真之介や小六をサーフィンに誘ったが、小六には「魚の真似事はできん」と一蹴され、真之介には泳げないからと断られた。


 その後、寝息を立てている善を起こし、舟で寺まで送ることにした。


 舟の中でも善は相当疲れていたらしく、短い時間ながらも、舟を漕ぎながら眠っていた。


 寺の前に着き、静かに善を起こして夜のとばりに彼を見送った。


 一人になると、そこは星空と森のざわめき、そして静かに鳴く虫の声だけが聞こえる清閑せいかんな空間へと変わった。


 かつて感じた、そのまま違う世界へ行けそうな錯覚に囚われた。


 ただ、夏の日差しで温められた土の残光が俺をこの世界に留めていた。


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