ラップバトルに疲れ果て
ラップバトルに疲れ果て、何も釣れなかった俺は、桶を持ってすっかりお手上げ状態のオケラの真似でポーズを決める。
すると善は、魚が釣れず儲けがないことを自虐的に語りながら、自分の坊主頭をつるりと撫でて「まるで、もう毛がない」とオチをつけた。
そして、俺たちは肩を落としつつ家路についた。
帰宅後、善が「これが日本語のラップだ」と主張するレコードを聴くことになった。
蓄音機の下に整然と並べられたレコードの中から、善が一枚を引き出し俺に手渡した。
そのタイトルには、川上音二郎一座「オッペケペー節」と記されていた。
善が見せたそのレコードを蓄音機にかけ、針を落とすと、三味線の伴奏とともに歌が始まった。
♪オッペケペー オッペケペ オッペケペッポーペッポッポー♪
曲が終わると善は「どうだ」と言わんばかりに俺を見つめた。
確かに言われてみれば、ラップと呼べなくもない。
反体制的な内容で、抑圧された人々の心情を伝えるメッセージ性を感じた。
善の勝ちを認めた俺は、彼から「勝った褒美に面白いことを企画しろ」と要求された。
しばらく考えた結果、アイデアが浮かび、一週間後に、指物師の源太さんの店で善と待ち合わせる約束をした。
「史郎、何をするんだ?」と期待で嬉しそうに聞く善に、俺はあえて答えを伏せ、「その時を楽しみにしていろ」と言い残した。
そして翌日から指物師に、とある物の製作を依頼しようと考えた。
家では、食後に花里が淹れてくれた温かい麦茶を飲みながら、穏やかな時間を過ごした。
善は他の三人に桟橋でのラップバトルの話を語っていた。
その後、善は自作のラップを披露し、俺もいくつか歌った。
真之介は歌が好きそうだったが、ラップにはあまり興味がない様子だった。
花里は、みんなが楽しそうにしているのを見ているだけで嬉しそうだった。
小六はラップに大いに興味を示し、善にいろいろと教えを乞うていた。
教わったラップに挑戦する小六は、器用ではあるものの、音楽に関しては、リズム感に欠け、さらに音程も外れていた。
それでも一生懸命に歌う小六の姿は微笑ましい。
こうして、真夏の夜は優しく過ぎていった。
釣り用語には、一匹も釣れなかった日を表すユニークな言葉がいくつか存在します。
例えば、ボウズ、オデコ、オケラなどです。
その中でオケラは手持ち無沙汰や何も得られなかった状態を指します。
「お手上げ」や「すっかり空っぽ」といったニュアンスを含んでいます。




