善が最初に発した言葉は
善が最初に発した言葉は、「これは何という異形の者なのか?」という質問だった。
俺は善の持つブロマイドをちらりと見て、ピンクのサインペンで記されたサインに目をやった。
そこには筆記体でやたらと大きなハートマークが添えられ、「Kairi & Bianca」と記されていた。
暑さのせいでぼんやりしていた俺は、善にそのまま伝えた。
「Kairi & Bianca」
それを聞いた善は、さらにブロマイドを食い入るように見つめていた。
しかし、そのとき、善が聞き間違えていることに俺は気付かなかった。
善は感心した表情を浮かべ、小さく呟いた。
「これが迦陵頻伽か」
俺は何も疑問を持たずに答えた。
「そうだ、Kairi & Biancaが彼女たちの名前だ。」
善はさらに問いかけた。
「彼女たちはどこに住んでいるんだ?どこで見られるんだ?」
ぼんやりしていた俺は、彼女たちは地下アイドルの卵に過ぎないと考えた。
「そうだな、彼女たちは主に地下で活動して歌っているんだ」と説明した。
善は少し驚いた様子で言った。
「そうなのか。俺はてっきり、天空を飛び回りながら歌う存在だと思い込んでいた。」
俺は投げやりに答えた。
「たぶん、彼女たちは一生、地下で卵のまま歌い続けるだろう。」
善は納得したように頷き、「やっぱり、彼女たちは卵のまま歌うんだ」と呟いた。
その後、善はブロマイドの彼女たちの手に注目し、それについて俺に質問を投げかけた。
このとき、俺はもうすっかりいい加減になっていた。
それから、少し意地悪な気持ちで話を続けたのは、トオルがHipHop地下アイドルに夢中になり、その結果として俺が振り回されていることが原因だ。
「彼女たちの思考は、羽があるだけあって鶏に似ている。鶏は三歩歩くと忘れるものだ。そして、物まねをする鳥のように、彼女たちはただ誰かを真似ているだけなんだ。」
善は黙って俺の話を聞いていた。
「『天に唾する』という言葉があるだろう。この指にも似たような意味があるんだ。中指が指し示す先には、必ず愚か者がいる。意味も分からず物まねをする彼女たちの中指の先を見てみろ。自分自身を指さしているだろう。」
善は納得した様子で言った。
「なるほど、迦陵頻伽はあまり賢くない生き物なんだな。」
俺は頷いて答えた。
「ああ、そうだ。Kairi & Biancaは賢くない。」
俺たちは最後まで、互いに誤解していることに気付くことはなかった。
相変わらず穏やかな海が広がり、暑さとともに俺たちの思考はゆっくりと溶けていく。
迦陵頻伽は、仏教に登場する空想上の生き物で、上半身が人、下半身が鳥の姿をしています。
卵の殻の中にいる時から啼き始め、その声は非常に美しいとされています。




