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ちょいと偉人に会ってくる  作者: 鈴木ヒロオ
それぞれの道
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梅雨の合間に訪れた晴れの日

 梅雨の合間に訪れた晴れの日。


 畑の作物は青々と育ち、山の緑はますます濃さを増していた。


 俺は家にいた三人へ、この晴れの日を利用して実験の成果を披露することにした。


 まずは、ゲルで作ったシートを広げて見せた。


 三人は興味を持ち、触ったり折り曲げたりしていたが、俺が実用性について説明すると反応は薄かった。


 すると、小六が「で、これを使って新しい着物でも作るのか?」と聞いてきた。


 俺はあきれながら答えた。


 「小六よ、これで服を作ったら丸見えの裸同然じゃないか。」とはいえ、雨合羽を作るアイデアは悪くないかもしれないと思った。


 次に、ゲル製の深皿を披露したが、これも反応は薄かった。


 既に素焼きの器や陶器、木地の器がある現状では目新しさがなかったのだろう。


 この段階では何とも盛り上がらない、無職による商品説明会になってしまった。


 最後に取り出したのは虫眼鏡だった。


 物を拡大して見えることを実演すると、三人は興味を示し、自分の手のひらを観察したり、互いの顔を覗き込んだりして喜んでいた。


 しかし、ここで終わりではない。

 

 俺はろくろの周囲に落ちていた木くずを拾い、三人を家から野外へと誘い出した。


 それから俺はしゃがみ込み、木くずを地面に置くと、三人に影を作らないよう指示した。


 そして虫眼鏡の焦点を木くずの一点に集中させると、次第に黒くなり煙が立ち、火がついた。


 その瞬間、三人は驚いていたが、中でも花里はそれ以上に喜んでいた。


 火の管理がいかに大変かを思えば、それも当然だろう。


 火打石を使って火を起こすのは骨が折れる作業であり、普段は一度火を起こした後、火種を灰の中に埋めて保存する「火止め」という方法が使われていた。


 俺自身も初めは火起こしがうまくできず、泣きそうになったことが何度もあった。


 そのため、花里の喜びが理解できるのだ。


 三人に再び虫眼鏡を渡すと、早速小六が木くずに焦点を合わせていた。


 俺はその間、花里に虫眼鏡の使い方と、晴れた日にしか使えないという注意点を説明していた。


 すると背後で小六の「アチチチチッ!」という小さな悲鳴が聞こえた。


 振り返ると、小六が自分の手のひらにレンズの焦点を当てていた。


 「何をしているんだ!」と俺は慌てて虫眼鏡を取り上げ、三人にしっかりと注意を促した。


 特に虫眼鏡で直接日光を見る危険性を強調した。


 虫眼鏡は普段花里が管理することに決まり、小六には絶対に渡さないよう念押しした。


 物欲しそうな目をしていた小六だったが、もし渡してしまったら、俺の頭には、緑の山がまる焼けになる光景しか浮かばなかった。




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