舟の中にあるパンドラの箱
舟の中にあるパンドラの箱から一塊の青いゲルを取り出し、テーブルの上に置いた。
このゲルは電子レンジで加熱すると、硬化して透明で弾力のある物質へと変化することが分かっている。
今からいくつかの実験を試み、この素材を活用して次の一歩を踏み出したい。
いつまでも一人だけ無職ではいられない。
音楽を聴きながら作業を始める。
手で握れるほどの大きさのゲルを棒を使ってテーブルの上で広く薄く伸ばしてみた。
かなり薄く伸ばしても、穴が開いたり裂けたりすることはなかった。
その後、広げたゲルの四辺を小刀でまっすぐに切り取り、それをくっつかないように軽く折りたたんで電子レンジにかけた。
加熱後に出来上がったのは透明で少し厚みがあるが、十分に機能するシートだった。
このシートを使えば、食材を包み、冷蔵庫や冷凍庫で保存する際にビニール袋の代用として活用できるだろう。
この実験は成功と言える。
次に、大きい深皿にゲルを入れ、そこに小さい深皿を上から押しつけて重ねる。
そして、皿と皿の隙間からはみ出したゲルを小刀で切り取り、切り口を整えた後、電子レンジで加熱した。
加熱後、それを取り出し、二つの深皿の間で形成されたゲルを外してみると、透明で弾力のある新たな深皿が完成した。
この深皿を試験的に使い、水を入れて再び電子レンジで加熱し沸騰させてみた。
取り出した際に深皿が熱くなると思っていたが、予想に反してそうはならなかった。
十分に深皿としての機能を備えており、この実験も成功だ。
最後の実験として、小六に特別に削ってもらった椀の底に少量のゲルを入れ、電子レンジで加熱し、片方だけが膨らんだ平凸レンズを試作した。
初めのうちはレンズの縁に不均衡が生じてうまく作れなかったが、試行を重ねるうちに、左右上下が均等な平凸レンズを作ることができた。
完成度の高い平凸レンズがいくつか完成したので、次に椀にゲルを入れ、その上に完成した平凸レンズを静かに乗せ、電子レンジで加熱して両凸レンズ、すなわち虫眼鏡の製作に挑戦した。
初めは端や中心の膨らみがずれるなど失敗を繰り返したが、最終的に納得のいく左右対称の両凸レンズを3つ作ることに成功した。
完成したレンズを室内のものにかざして拡大したり、明かりを通して歪みの有無を確認した結果、三つの中からさらに厳選し、一つを選んだ。
あとは晴れた日に最終実験を行うだけである。
これで小六に無職の底力を見せる準備が整った。
俺は一人で薄ら笑いを浮かべていた。
ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」が室内に鳴り響く。




