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トオルの「モテたい」

 トオルの「モテたい」という思いは、純粋で一途だった。


 遅生まれの彼は、高校三年の夏休みを利用して運転免許を取得した。


 邪な気持ちをエネルギーに変換し、一直線に努力を続けた。


 仮免の日、彼の妄想のギアは上がり、シフトレバーを握る手に力が入り、スピードが増していく。


 合格の日、欲望のタコメーターは一気にレッドゾーンへ突入した。


 しかし、彼の家にある車といえば、軽トラ、野菜を市場へ運ぶためのバン、そしてトラクターだけだった。


 それでも「モテたい」という軸はぶれることなく、彼の心のシャフトは折れることがなかった。


 どんな過酷なオフロードでも、タフな彼にはJAFの救援は必要ない。


 彼は自ら心のパンクを修理できる男である。


 しょせん、車も免許も「モテたい」という目標を達成するための手段に過ぎなかった。


 そこで彼は見事なドリフトテクニックで方向転換する。


 車で海へ向かい「モテたい」を現実化するために次の手段としてサーフィンを選んだ。


 何もレースクイーンだけが水着ではない。


 その発想はロータリーエンジンのように滑らかだ。


 そこに至る彼の考えは、すでに性交の、いや、成功のチェッカーフラッグが振られている。


 「頼む、史郎、頼む!俺と一緒にサーフィンを始めてくれ!」


 しつこく頼まれた俺は、仕方なく都合がつけば付き合うという約束をさせられた。


 軽トラにボードを積み、房総の海まで約三十分。


 初心者の俺たちは、他のサーファーが少ないマイナーな海岸を目指した。


 しばらくの間、ボードの上に立ち上がることができず、波にもてあそばれるだけだった。


 立ち上がってもすぐに落ち、海水に揉まれる日々が続いた。


 そんな状態のままその年は終わった。


 翌春、トオルは「願書を出せば合格通知が届く」という冗談のある大学へ進学した。


 俺は進学も就職もせず、英会話教室で子どもに教えるアルバイトや農家の手伝いをしながら、フラフラと漂っていた。


 それはまるで、サーフボードの上で波に翻弄される俺自身を具現化しているようだった。



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