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ちょいと偉人に会ってくる  作者: 鈴木ヒロオ
それぞれの道
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扶養家族が三人に増えたことで

 扶養家族が三人に増えたことで、米の消費量が一気に増えた。


 善と桟橋で話した翌日、四人で問丸へ向かい、米俵を一つ家に運ぶことにした。


 彼らは少ないおかずと山盛りの玄米ご飯で食事を済ませようとするが、舟には冷蔵庫と冷凍庫が備えられており、十分な食材が保管されている。


 存分に使ってほしいと思っている。


 今朝は三枚におろして冷蔵していたイシモチを焼き、一汁一菜の食事をとって出かけた。


 店の前には和江さんが立っており、挨拶を交わすと彼女は店の奥に引っ込み、赤銅色の丸坊主の大男を伴って戻ってきた。


 和江さんが紹介してくれたのは彼女の夫、甚平さんだった。


 彼は昨夕、鎌倉から船で戻ってきたという。


 精悍な顔つきで袖なしの着物からのぞく腕は丸太のように太く、短い裾から見える足はたくましい。


 その姿はまるで門前の仁王像のようだった。


 細身で嫋やかな和江さんの横に立つと、その体格がさらに際立ち、船乗りというよりは海賊の親玉のような風貌だった。


 甚平さんに挨拶をした後、早速要件を切り出した。


 すると、和江さんから「此処には置き申さず。」と言われ、甚平さんが倉庫から持ってくるというのでしばらく待つことになった。


 俺たちは店先の長椅子に腰掛け、暖かい陽気の中で待つことにした。


 甚平さんが店先から荷車を引いて出かける際、朗らかに笑いながら紙包みを手渡してくれた。


 包みを開けると中には干し柿が四つ入っていた。


 早速食べてみると、忘れていた甘味が口いっぱいに広がった。


 俺はいつから甘いものを口にしていないのだろうか。


 家の裏の柿の木は森に埋もれてほとんど実をつけず、渋柿だった。


 平野仁右衛門さん宅での取り調べのときに、出された甘い饅頭も食べ損ねていた。


 突然、猛烈に甘味を欲する俺は、コーラが飲みたい、アイスクリームやチョコレートが食べたいと考え出すと際限がなかった。


 甚平さんから米俵を荷車ごと受け取り、家路につく間、頭の中は甘いもののことでいっぱいだった。


 俺は真之介に「家の裏にある枇杷の実はそろそろ食べられるんじゃないかな」と尋ね、花里には「秋になったら家の柿の木にも実がなるだろうな。楽しみだな。花里は干し柿をどういう風に作るか知っているか?」と聞いた。


 さらに独り言のように「砂糖はどこに売っているんだろう?値段は高いのかな?」と呟いた。


 そんなジャンキーな俺を見て、小六は呆れた表情を浮かべながら教えてくれた。


「そんなに甘いものが食いたければ、ちょっと危ないが、木の上にある蜂の巣を煙でいぶし、蜂を追い払って蜜を横取りすればいいじゃないか。家のすぐそばにも蜂の巣があるぞ」


 俺は、それを聞いた瞬間、まさに天啓だと感じた。


 あの夏の日の終わりに、日差しの中で笑顔を見せていた「はちみつ二郎」を思い出した。


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